Posted by ブクログ
2015年05月05日
このあずみきし先生も、『覚の駒』の内富拓也先生と同じくらい、巻を重ねるごとに漫画家としての地力がメキメキと上がっているのが、作品に判り易く反映されるタイプだな
画が特別、上手いな、と感じさせる訳じゃない
でも、その素朴で落ち着き、静けさの印象が強い絵柄が、死をテーマにしている、重めなストーリーによく...続きを読む合っている。もし、あずみ先生の絵柄がこれではなかったら、『死役所』の面白さは半減どころか、皆無だっただろう。きっと、私も感想を書きたい、って気持ちにはならなかったし、そもそも、読むどころか買いもしなかっただろう
この『死役所』(3)で、私の心を抉ったのは、やはり、表紙を飾っている、佐尾さんの生き、逝くまでを描いた、「カニの生き方」編だ
事故や事件による突発的な死は、どんなに腕っ節が強かろうが、頭が良かろうが避けられないが、じわじわと進行していく病気であれば、まだ、死に対する覚悟と、自分が死んだ後の苦労を減らすために動く活力も湧くんじゃないか、そう短絡的に考えてしまうのは、やはり、まだ、その系統の死に縁遠いからか、私が
感じ方は読み手それぞれだろうが、これはどストレートに、読み手を泣かせようとするストーリーだな、と思った。チラチラと、それを感じさせる作品であれば、「泣いてたまるか」と意固地になっちゃうトコだが、ここまで攻められると、涙腺が崩壊するわ
この話で泣かない読み手はおかしい、とまでは言わないが、それでも、ほんの少し、目頭が熱くなった読み手が多いといいな
改めて、この「カニの生き方」編を読んで、あずみ先生は死を真っ向から、そのカタチを変えずに描くのが上手いな、と思った。読み手をトイレに直行させる、残忍な死の描写を紙面に生み出すのも一つの才能だが、こうやって、死に近づいていく人間の心境を事細かに描き、自分が満足いく死に方をさせるのも才能だ。もしかしたら、あずみ先生は、死の描写、この一点に於いて、藤田和日郎先生の影を踏めるかもな、と期待している
「カニの生き方」とは逆に、やるせないなー、と思ったのが、第14条「前を見て」
実際にありえそうな死に方ってのもあるが、無邪気などではなく、ほんのちょっとした悪戯心、一欠けらの悪意が籠った唆しが、取り返しのつかない結果を齎してしまう、そんな無慈悲な現実を、身に覚えがある人間ならば本を閉じてしまいたくなるほどリアルに描いている気がした
ラストも、ツイッターなどをまるでやらない、依存している人間を見ると「何が面白いんだろうなあ」と嘲りが滲んだ疑問が浮かんでしまう私からすると、ホント、やるせない
ドラマ化して欲しい作品の一つではあるが、この『死役所』の大きな魅力の一つでもある、シ村の胡散臭い笑顔を表現できる俳優がいるかどうか、微妙だよな
この台詞を引用に選んだのは、もし、仮に、万が一、実際に死んだ後の世界が、こんな感じだったら、佐尾と同じように、スパっと成仏したいな、と思ったので。ただ、きっと、私はグズグズ悩んじゃうだろうな