Posted by ブクログ
2014年08月05日
改革提案の部分は手薄だが、日本の社会保障の現状を手っ取り早く知るには良書。巷でよく言われている「社会保障費は年間1兆円の増加ペース」は氷山の一角であり、真実はもっと深刻である。なぜならばマスコミの言う「社会保障費」は正確に言えば「社会保障関係費」のことであり、「国が」「税金で」負担している分しか考慮...続きを読むに入れていないからである。実際には地方財源分が1割、保険料で負担されている分が6割を占めており、総額ベースでは実に年間3~4兆円もの負担増が進行している。現行の社会保障制度を維持するのであれば、国民負担率は際限なく上がり続ける(2035年度には56.4%、2050年度には71.6%!)し、しかも現時点ですでに1,500兆円の累積純債務が発生している(恐ろしいことに、これは政府債務とは別建てで会計処理されている)賦課方式(現役世代の保険料を老年世代に給付する方式)を核とする我が国の社会保障制度が完全に破たんしていることは明らかであり、「100年安心プラン」など虚構である。世代間不均衡の問題も深刻で、確かに若い世代は「経済発展の恩恵を受けている」というプラスの面があるものの、1940年生まれの人の社会保障収支が△4,930万円なのに対し、2010年生まれの人の社会保障収支は▲3,650万円でその差は8,580万円もある。
保険料や年金の支給開始年齢引き上げが必要なことはもちろんだが、それだけでは根本的な解決にはならない。なぜなら世代間格差の問題が解消されないからだ。少子高齢化の進展にあわせて、「賦課方式」というシステムそのものを早急に「積み立て方式」(現役時代に自分が払った分を老年期に受け取る)へ作り替えることが急務である。しかし単純に移行すると、賦課方式から積立方式への移行世代は社会保障費用を二重払いしなければならなくなる。紙幅の制約からか、本書の中では移行期の施策について詳述されていないが、筆者の描くシナリオはこうである:まず、国鉄がJRに移行した際のように「清算事業団」を作り、債務を今ある制度から切り離して税金で処理する。そして制度そのものは賦課方式から積立方式へと移行させ、将来を見越して最初は黒字になるように料率を設定し、高齢化がもっと深刻になった時にその黒字を取り崩して対応できるようにする。そして累積債務については、「年金目的の新型相続税」と「年金目的の追加所得税」を創設して財源に充てる。2012年時点での筆者の研究によると、10%の新型相続税を35年間続け、追加所得税率を100年間1.93%に設定すれば債務処理は終わり、例えば1990年生まれの厚生年金加入者の「支払い損」は、2,200万円から550万円まで減少させることができるという(2012/7/19 日経新聞朝刊 22面)
その他には、認可保育所に大量の公費投入しているわりに実質的に高所得者が優遇されてしまう現状の待機児童対策を止めて、保育所の料金を完全自由化したうえで一律バウチャーによる補助を行うことが合理的と説く第7章「消費増税不要の待機児童対策」、現行の生活保護制度は「働けない人」の救済に特化しているため働いて収入を得るとかえって損をする仕組みになっており、「頑張れば働ける人」に対しては別種のサポートシステムが必要とする第8章『「貧困の罠」を防ぐ生活保護改革』も、論点整理と解決策の提示がクリアーに行われており、初心者が読むのにも最適な構成となっている。第9章はありきたりな官僚批判や「情報公開が大事だ」という論調になってしまっており若干惜しまれるが、「強烈な意志と個性を持ったリーダーがいなくても改革が進むような仕組みづくりが必要」と説く筆者の主張に異論はない。公的保険や年金はとかく政争の具にされやすい分野なので、「〇〇が●●%になったら自動的に支出を削減します」といったプログラム法を整備することこそが肝要である。