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Posted by ブクログ
「取材の鬼」、「記録の人」と呼ばれ、数々の名著を持つ吉村氏が、自らの暮らしや人との出会い、生き方、作品執筆の背景、戦争など69篇にわたり、幅広く語るエッセイ。
簡潔で淀みのない文章の中に鋭い観察眼や分析力が垣間見られ、時に辛辣、また、時にユーモラスな語り口で、楽しく読ませてもらった。
1 生き方と美学、2 暮らしとものの見方、3 言葉と場所、4 家族と忘れえぬ人々、5 記憶と継承という区分の5章で構成されている。
1では、注文に応じる寿司職人が「あいよっ」ではなく、「へい、承知いたしました」と言うべきだと、著者が持つ、人としての節度へのこだわりが感じられた。
また、胃カメラの飲み方をほめられ、履歴書欄に「特技」として書こうかという記述にナイーブな人間らしさが出ていた。
2では、戦前戦後の生活物資枯渇時代の諸事情、医師や家庭医学書への考察、自ら小説のネタにした日本人による内視鏡開発の話、鼠が食欲旺盛であることを念頭においた駆除処分法を自慢する話などに興味を感じた。
3では、中学時代、肋膜炎を患い、著者の学業の遅れを案じ、母親が依頼した学生教師が著者の読書への関心を芽生えさせたこと、それから後も肺結核におかされ、手術前に命を絶とうとしたが、ある本を読んで踏みとどまったこと、それがきっかけで、創作活動への道を進んだという著者の生い立ち描写が印象に残った。
4については、家族に目を向けたり、昔のユーモラスな失敗談に触れたりしているのが微笑ましいが、「殉国」、「高熱隧道」、「破獄」といった作品の主人公のモデルとなる人物や、関係者の証言が興味深かった。
「桜田門外ノ変」の出版記念講演会後の購入者への署名に訪れた水戸藩士・稲田重蔵の子孫である女性の話も印象的だった。
最終章の5では、開戦や空襲など戦時色の強い話が多かったが、昭和23年、著者が20歳の時、喀血し、入院、体重が半分近くまで減り、余命3、4カ月の末期肺結核と診断された著者の心情描写がなんと言っても、強く、心に残った。
闘病の苦しみに耐えられず、睡眠薬で命を絶とうと思っていた著者だったが、倉田百三の著書を読み、そこにあった「自ら命を断つ者は弱者であり、つらくとも生きぬく者は強者である」という趣旨の言葉に自らを奮い立たせた。
その後、開発まもない手術で奇跡的に死を免れ、その後、数十年の命を得た。
全体として、懐古的で時代背景の古めかしさは否めないが、読む前から、それは十分受忍するつもりだった。
しかし、読み始めると、今の自分にも十分共感できる箇所があり、著者ならではの観察眼、道徳心、鋭い指摘を嗅ぎ取ることにわくわくさせられる思いで、どんどん、ページをめくれた。
Posted by ブクログ
吉村昭の随筆は既に結構な種類の本が出版されているそうだが、自分は初めて読んだ。
没後二十年なのだから当たり前だけど、かなり時代が古い。現役時代の増田明美さんの話が出てきたりする。だから大体1980年〜90年くらいかな。書き振り的にはその頃には既に結構な年齢だったみたい。
読んだ感想としては、質実剛健な昭和の頑固オヤジという印象を受けたが、そういうナマの人物像が文章に現れているのが良かった。だから、あまり共感しないことに対しても、率直に「そういうもんなんだ。」と思える。例えば、吉村昭曰く、寿司屋の職人の返事は「あいよッ」は軽薄で、「へい、承知しました」が礼儀正しいらしい。ふぅん。自分は全然分かんないけれど、むしろ、こういう感覚が文章として残っているのは貴重なことかもしれないな。
後半は、小説執筆に関連した取材の話とか、自身の人生観の話も増えてくる。特に幼い頃に戦争を経験し、20歳の頃には結核で余命宣告されたというエピソードは強烈だ。こういった経験が吉村昭の執筆活動の対する信念と結びついているのかもしれないが、想像に絶する。『取材の鬼、記録の人』と帯に書かれているが、取材の話を聞くとまさにその通りで、すごい人だ、と思う。
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