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舞台は、〈北の街〉にある蛸足型の古い総合大学。語り手の女子学生と同じ生命科学研究所に所属する幼馴染みの男子学生が、ある日、一心不乱に奇妙な実験を始めた。亡くなった心の師を追悼するためだ、と彼はいうのだが……。夏休みの閑散とした研究室で密かに行われた、世界を左右する実験の顛末とは? 少しだけ浮世離れした、しかしあくまでも日常的な空間――研究室を舞台に起こるSF事件。第1回創元SF短編賞を受賞した表題作に始まる、理系女子ならではの大胆にして繊細なアイデアSF連作全6編。
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Posted by ブクログ
SF。連作短編集。 単独でも読めるが、ゆるーく繋がった短編集。 大学を舞台にした、ほろ苦い青春もの。 自分が理系の大学出身のためか、登場人物への感情移入でき、とても読みやすかった。 どの話も、分かりやすい結末ではなく、余韻を残すような独特の雰囲気が特徴的。 とても好きです。 解説にあった"...続きを読む本書の最大の謎ともいうべき大ネタの結末"が分からなかったことが悔しい。
SFレーベルから出てて表題作は創元SF短編賞受賞も受賞しているようですが、中身はSFというか”理系学部におけるちょっと不思議な物語”という感じです。理系大学生や大学関係者っぽい考え方や議論、生活の様子が自然に書かれている。
東北のとある地方にある蛸足大学を舞台にした連作短編SFです。研究者や学生が主人公となり、その研究テーマが作品のテーマとなる形です。研究そのもの、そしてその研究結果を論文にまとめるというあたりにスコープがおかれ、研究に打ち込みつつも論文に苦しめられる姿が、生々しい感じです。 名前などの固有名詞があまり...続きを読む出てこず、外来語などのカタカナ表記がほとんど使われていないのが文章の特徴でしょうか。読み始めは少々戸惑いましたが、読んでいるうちに慣れます。むしろ日本語表記されているモノが何なのか推測するのも楽しいです。
★「おれ、この街がすきだ」(p.43) とある大学を舞台にした短編連作/理数系の学生、研究者たちが出演するが、わりと叙情的/固有名詞以外にカタカナ語がない/ショートショートではないけどちょっと星新一さんっぽいオチもあります/「最大の謎」ねえ? 「あがり」が最新の話で、カタストロフィを阻止できたかどう...続きを読むかはまだわからない、とか? 知らんけど。 ■簡単なメモ 【一行目】ジェイ先生が死んでしまってからイカルのようすがおかしい、ということはわたしもとっくに気がついていた。 【あがり】他のアンソロジーで既読。ショートショートやないけどオチは星新一さんっぽい。ただ前読んだものとエンディングが異なるような気もする。解決策って提示されてたっけ? 【ぼくの手のなかでしずかに】数学者は減量と延命のために動物実験しかなされていない手法を取り入れるが異変が生じる。 【代書屋ミクラの幸運】ミクラは幸運と不運を数値化し予測する研究論文の代書を引き受け自分も予測してもらうがけっこう当たる? 【不可能もなく裏切りもなく】微生物って、なんだってできるんだよ。(p174)/遺伝子間領域、がらくた配列はなぜかくも大量に存在するのか。(p.175)。 【幸福の神を追う】実験動物/しまりす/冬眠/飼育/脱走/追跡。 【へむ】永遠の転校生(少女)/絵の上手い少年/病院内の地下通路/謎生物/通路閉鎖。 【青色夢幻派】前衛美術運動らしい。とある少女が本を読んでいた。それ以前にも一回出てきたような気がする。 【アカラさま】ミクラが勝手に信仰している神様。四歳のときに初めてあらわれ以来なにかにつけて歌ったり踊ったりしているのは唄が好きという設定だから。 【あげじ】そば屋やけど小判形じゃがいも揚げ(コロッケ?)が有名。 【アトリ】生物学を研究している。人間たちを生物の一種として観察するのが趣味。 【イカル】アトリの幼馴染み。生物学を研究している。 【いせよし】特製味噌味果物てんぷら弁当、とか。食べてみたい。 【遺伝子間領域の存在理由について研究していた男】微生物好きの男の友人。共同研究を持ちかける。顔が怖いがわりと女性と親しくなりやすい(モテるという意味ではない)。自分は教育者に向いていると思っている。 【遺伝子だまり】微生物の世界では皆が共同で使っている遺伝子があるらしい。 【遺伝子淘汰論】遺伝子数を増やすことが生命の使命であり、この説によるとあるひとつの遺伝子数が限界に達すると地球上での進化はもう発生しない「あがり」状態になるらしい。 【おらほさきてけいさん】いたるところで鳴ってるメロディ。意味は「おねがいぼくのそばにきて」。たぶん「わたしのところにきてください」ってところか。 【学長】建築を学び書画部で活躍し中央に行き忙しくしているうちに古巣の大学に招聘されさらに忙しくしているうちに学長になった。 【教授】少年が骨の絵を描くことを許可してくれた。時計の時報を聞くたびにお気に入りの詩を暗唱する。数学、特に幾何学が趣味。微生物好きの彼を落ち込ませた先生の可能性も少しある。数学者が書店で見かけた男かもしれない。 【鎖につながれた暴走する靴職人の評伝】とある少女が読んでいた本。 【研究段階の流れ】四段階あり、立案(おもしろいと思えることが重要)→準備(他の研究者が再現できることが重要)→検証→記録(論文作成と発表)。 【さぼてん】ミクラの部屋にいる。極端に無口でミクラも声を聞いたことがない。 【ジェイ先生】イカルにとって特別な存在。故人。 【助教の妻】アトリの親友でもある。妊娠中。 【職業】《祖父の遺言なんです。いちばんすきなことはけっして職業にしてはいけない、って。》p.75 【彗星号】ミクラの愛車。五歳の自転車。 【数学】《数学分野では、ひとたび正しいと厳密に証明されたものはけっしてくつがえされない。あらたな実験や観測結果ひとつで主流の説があっさり否定されてしまうほかの科学分野との決定的なちがいだ。》p.62 【数学者】寿命が短いとわかっているらしい。小太りで抜け毛に悩んでいる。自分自身でとある人体実験を行う。 【数学好きな女】とある企業の幹部候補生らしい。数学者と出会い好感を抱いたようだ。いったんは縁が切れたようだがもしかしたらその後うまくいったのかもしれない。 【大学】舞台となる大学は著者が東北大学出身のようなのでモデルはそこでしょう。科学分野は強いというイメージはあります。河北新報のコラムでよくこの大学の先生が連載を担当されてましたがもう何十年か前、誰だったかは忘れましたが、人類はその歴史上、実現できそうなことがあったらどれほど倫理的な問題があろうがしなかったことは一度もないというようなことを書かれていたことがあって「その通りやなあ」と思わずうなずいたことがあります。 【出すか出されるか法】三年以内に一本も論文を書かない研究者は即退職せよという法律。正式名称は「大学および各種教育研究機関における研究活動推進振興法第二条」だが誰もそう呼ばない。ホンマにそんなのがあるのかどうかは知りません。今の政府が言い出しそうな気もします。大物が出てこなくなりそうやし、教育者をめざしている研究者には厳しい内容。 【たんたんころりん】教授いわく《柿の古木の精がひとに化身したものだよ。墨染めの衣をきた僧侶のかっこうをして、杖をつき、この詩のような唄をうたいながら街をさまようんだ。》p.337 【トキトー】代書屋。腕は一流。実入りの少ない仕事は引き受けずミクラにまわす。 【人間】《人間とは自分自身に関心を持つ生き物だ。》p.169 【微生物好きの男】遺伝子間領域の存在理由について研究していた男の友人。微生物はなんでもできて裏切らないらしい。 【百歩七嘘派】忘れられた哲学の一派らしい。二回ほど名前が出たような気がする。 【不老不死】《不老不死と性は相容れない。自分が長生きするだけ、生殖は不要になっていくのだから。》p.105 【へむ】とある少年と少女の友だち? 地下通路に棲む巨大なヤモリっぽい生物。知能があるようだ。 【ほけかん担当医】保健管理室、通称ほけかん。イカルに事後経口避妊薬を処方してくれた。とある少女の母親か、少女の成長した姿かどちらかの可能性が高い。 【ミクラ】代書屋。学生の論文なんかの。 【無限大】宇宙でもっとも大きな数字でも「+1」という概念は適応できるんですよねえ。数学的にはどういうことなんやろう? 【ゆきわたり】甘味処のようだ。白玉あんみつはイカルの大好物。
科研費も取れず、うだつの上がらない30の数学科のポスドク。贅肉が付き、髪が抜けどんどん年をとっていくことに恐怖を感じる毎日。そんなある日、本屋の数学本コーナーで、ある女性を見つける。女性と親密になるにつけ、コンプレックスであった老化を食い止めるために、生物科の同僚のところを訪ねたところ、ちょうど動物...続きを読むで老化を止めたという実験の論文があることを知る…。(ぼくのの手の中でしずかに) 北の大学(東北大学らしい)の主に理学部を舞台にした、ちょっとしたダークなSF短編集。遺伝子が優位に立ったら「あがり」になってしまうのか、運勢を見極める公式を見つけてしまった社会学者、遺伝子を全部コピーしてしまう細菌など、最近読んでいる、いわゆる「リケイ小説」よりは、理学部の状況がわかっていたり、まあまあ研究テーマというものを理解しよう、させようという考えがあるようだ。 中でも冒頭で紹介した数学科と見せかけて、内容は生物という話は、ちょっとした実写ドラマにできそうな話であり、この本の中では最も引き込まれる作品であった。好熱菌がすべての遺伝子をコピーしてしまう話で、CRISPR-Cas9のような記述が出てきて、おお頑張って取材しているなとおもったら、2011年作とのこと。なかなかに先見の明があり、感心する。 一方で、褒められない部分も多々あり、おそらく不満だった人が指摘しそうなのが、「なんだかわからない」ということだろう。何となく分かるのだが、もっと過激に落としてほしいにもかかわらず、「まわりの人の性がなくなった」と主人公が逃げ出したり、日光があたって崩れてしまったり、なり切れない純文学といった切れの悪い落ち方をする。 また、組換え生物というところが元専門だったのだろうが、組換えでもないシマリスを持ち出して学内が騒然とするとか、まあ言ってしまえばPCRはそんな万能なものではないとか、知っていれば知っているほどツッコミが終わらないという、努力はしたけれども、という残念さも伴っている。 全体に表紙にもした「DNA」「PCR」「ピペット」から「ビール」に至るまで、カタカナ語をすべて漢字で表記した謎のルールも理解し難かったりと、もうちょっと無理せず自然に書いたほうが良かったんじゃないかなあという作品では有った。 解説で、有名作家が絶賛したとのことだが、うーん、やっぱり化学や生物系の最低でも修士レベルの人が、もっと作家や編集者の中で、発言権があるべきだし、そういうところが世界のSFから立ち遅れているところではないかと感じる。瀬名さん、頑張ってくださいよ。
市内に点在する大学の理系研究室でおこるミニストーリー。ちょっと怖いようなSF集。 著者は東北大学理学部卒の理科女。大学も絶対東北大学がモデル。もしかしたら、ご自分の関係者がモデルだったりするのかなあ?
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