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日常の生活、風俗習慣から、民話、伝説にいたるまで、近代国家への途上にある日本の忘れられた側面を掘り起して、古い、美しい、霊的なものを求めつづけた小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)。彼は、来日後、帰化して骨を埋めるまで、鋭い洞察力と情緒ゆたかな才筆とで、日本を広く世界に紹介した。本書には、「影」「骨董」「怪談」などの作品集より、代表作を新編集、新訳で収録した。
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Posted by ブクログ
朝ドラばけばけ、楽しんでいます。 八雲の怪談はとても切なく、そして、日本人らしく、もしくはそれ以上に日本の情緒を細やかに表現されており、とても美しいと感じました。
小泉八雲が外国人だったと最近になって知った。 内容は日本なのに文体が訳書なところが、「外国人が日本を舞台にして作ったゲームに感じる違和感」に似て趣があるというか、独特で面白い。 私は「茶碗の中」が特に好き。 ミステリー的な面白さがありながら、丁度続きが気になるところで尻切れ蜻蛉…前につんのめるよう...続きを読むな感覚。茶碗の中の男が何者なのか、何が目的なのか…何も分からないまま。 今の時代「分からなさ」を「分からなさ」のままにしておくことはあまり歓迎されず、明快であることが大きな価値基準とされている。それはそれで良いのだが、こういった「どうにも消化できない澱」というのは忘れ難く好ましい。 電灯の届かない不気味な暗渠をまざまざと見せつけられる機会は、現代において貴重なものだと思う。 もちろんあの続きを自由に空想するのも面白い。
何度読み返しても素晴らしい。上田和夫の訳も好きだ。「影」「日本雑記」「怪談」などの短編集から選ばれた作品集である。英国人だった八雲は妻の節子から怪談話を聞き、それを英文の本にまとめた。その意味で彼は小説家ではなく翻訳家であって、ほとんどの話に出典があり、他の作家も文章に書き起こしているものも多い。有...続きを読む名な「耳なし芳一の話」も元ネタはあるが、似た話は西日本に多く残る昔話で柳田國男は徳島の「耳切り団一」の話を書いていた。私が好きな話は、未完で終わるが故に謎と恐怖が最高潮のままで余韻を残す「茶碗の中」と微笑む日本人の謎について語るエッセイ「日本人の微笑」でしょうか。
怪談だけではなく、外国人から見た日本人についての考察も書かれており興味深かった。〝日本人の微笑〟を読み、現在の日本人を見て彼は何を思うだろうか?と…。
怪談話と日本論、48の話しをまとめた1冊。 怪談話では「耳なし芳一」、「雪女」など1度は聞いたことのある話が多数存在。 日本論では作者の古き日本に対する鋭い考察と共に良し悪し含め、日本への深い愛情を感じられる。 現代の日本が昔に置いてきてしまった古き日本への哀愁を掻き立てられる。
古き良き日本を記録した八雲の業績の素晴らしさを実感した。江戸の人々は狐狸妖怪と隣り合って生きていた。そして、八百万の神々とも生きていた。前半は、不可思議な出来事に畏敬の念を抱いて語り継がれた話。有名な「耳なし芳一」が八雲によって保存されたことを再認識した。『日本人の微笑』の中で引用された鳥尾子爵の論...続きを読む文は、今の日本人に忘れられた、日本人のあるべき姿のような気がしてならない。編集の妙もあろう。結びの『焼津にて』は、八雲の言わんとしていることが凝縮されていたように感じた。機会を作って八雲の作品を読もうと思う。
雪女、耳なし芳一・・・。松江に住んだラフカディオ・ハーン、馴染むまでに時間のかかる排他的な町(一旦、親しくなると家族的)で、人々が妖怪のように見えたのではないかと・・・。w
今年読んだ本、イサム・ノグチの評伝や、『坊っちゃん』の時代シリーズなどいくつかに、ちらちらとその気配やうしろ姿を垣間見せていた小泉八雲。 これはどうやら呼ばれているらしいぞということで、この夏の課題図書に個人的に選定し、お盆の時期を狙って読みました。 小泉八雲には多数の著作がありますが、この本はそ...続きを読むれらの中から数点ずつ選んで編集されたもので、前半は怪談話が、後半は日本人論が主となっています。 怖い話がめっぽう苦手な私ですが、しかも時期が時期でしたが、これはあまり怖くはありませんでした。 一つ一つの作品が短くて、物語のエッセンスの紹介という体であったというのが1点。 そして、怪談にいたるまでの悲劇が、日本人の心情として美しく感じられるものであったからというのがもうひとつの理由であるような気がします。 後半の日本人論などを読んでも、小泉八雲は日本人でも気づいていないような日本人の美点を高く評価しています。 当時、日本という国の理解が西洋の国々にほとんどなされていなかったことを考えると、大変にありがたいことなのですが、どうも必要以上に日本をかっているのではないか。 または、西洋文化に対して思うところがあるのではないかと思わされる節があります。 収録されている「日本人の微笑」の中に、こんな一文があります。 “つまり、相手の慣習や動機を、つい自分たちのそれらで評価しがちであり、それも、とかく思い違いしがちであるということである。” 自分の価値観と違う慣習を、低いものと見がちであることを戒めた文章ですが、小泉八雲の場合は、違うからこそ素晴らしいという方向に振れているのではないかと思いました。 それはラフカディオ・ハーンという人間が、西洋の文化のなかで、常にマイノリティな存在だったこととは無関係ではないはずです。 アイルランド人の父とギリシャ人の母。 ケルト神話を背景に持った土地で育った父と、ギリシャ神話の国から来た母の不仲。 キリスト教では救われなかった幼少期の思いが、日本人の、口に出さない想いであるとか、辛いときこそ笑顔を浮かべようとする心情であるとかに、惹かれたのではないかと思いました。 とはいえ、嬉しくも楽しくもないのに、顔に笑顔が張り付いている不気味な日本人というものを、相手に不快な思いをさせないように、辛い思いを伝えないように笑顔でいるのは、日本人にとっての礼儀であると、きちんと欧米の人たちに伝えてくれたのは、全くもってありがたいことです。 日本人が自ら説明することは、まずできなかったでしょうからね。 日本人の美点はその利他主義にある。 周囲の人が幸せであってこそ、自分も幸せになれる。 明治以前の日本人というのは、そういう人たちだったようです。 他人の幸せのために、自分に厳しい義務を課す。 それが、西洋の文化を受け入れるにつれて、利己主義へと変わって行き、日本人の美点が失われていくことを危惧しています。 実際、私が子どものころよりもなお、利己主義は勢力を強めているように思います。 “イギリス人は生まじめな国民である―それも、表面だけのまじめさではなく、民族性の根底にいたるまで徹頭徹尾、生まじめであることは、だれもが認めるところである。これに対して、日本人は、イギリス人ほどまじめでない民族と比べても、表面はおろか、おお根において、あまり生まじめでないといって、おそらくさしつかえあるまい。そして、少なくとも、まじめさに欠ける分だけ、幸福なのである。たぶん、文明世界の中で、今もなお一番幸福な国民であろう。” え!? これ、日本人のことですか? と、一瞬思いましたが、やはり明治の初めに日本に滞在して、日本の奥地〔東北、北海道〕を旅した女性、イサベラ・バードも日本人は不潔で怠け者と書いていましたから、多分当時の日本人はそうだったのでしょう。 明治政府が推し進めた、西洋に追い付き追い越せ政策のせいで、あっという間に日本人は利他主義を忘れ、笑顔を忘れ、エコノミック・アニマルになってしまったんですね。 そして今、私たちは幸福な国民であるのでしょうか。
小泉八雲文学忌、八雲忌 さてと、今年の新潮文庫の100冊に何故か 小泉八雲集。 きちんと分類された短編集で、久しぶり再読の短編もあり、全くの未読も多々あり。 印象的な作品は、日本人の微笑について書かれたもの。決して、日本人の微笑を卑下することなく 悲しみも微笑で表す繊細な状況を理解している。 せっ...続きを読むかくなので、再読しなくて良いように覚書多めとなりました。 「影」1900年(明治33年) 今昔物語や御伽百物語に題材をとる。 ⚪︎和解(京都) 困窮した若侍は妻を捨て、新たな妻と伝地へ向かう。やがて別れて戻ると、そこは屍の家となっていた。 ⚪︎衝立の乙女(京都) 恋い慕った衝立の絵の女が、現実にやって来る。 ⚪︎死骸にまたがる男 離縁された男の復讐心により、死んで待ち受ける女。陰陽師の指示は「死骸にまたがること」であった。 ⚪︎弁天の同情(京都・大通寺弁天堂) 良縁を願う女のため、弁天の導きで生霊との邂逅が起こる。 ⚪︎鮫人の恩返し(近江の国) 鮫人を助けた者は、涙の宝石による恩返しを受ける。 「日本雑記」1901年(明治34年) 奇談集。『雨月物語』や仏教百科全書、『夜恋鬼談』などを題材とする。 ⚪︎守られた約束 播磨国 義弟とともに出雲の国へ帰ることを約した男。 果たせぬまま切腹し、霊となって約束を守る。 “男心と秋の空”という表現があり、女心よりも古い用法であったらしい。 ⚪︎破られた約束 死後もなお夫を束縛しようとする妻の怨霊。 ⚪︎果心居士 京都北辺 信長家臣・荒川、果心居士の地獄絵図を奪うため殺すも、殺せず。絵は白紙となってしまう。 ⚪︎梅津忠兵衛のはなし 出羽国 若く強い侍・忠兵衛は、赤子を預かる。重くなる赤子を守り抜いたことで、氏神から礼を受ける。 ⚪︎漂流 随筆「ここかしこ」より 焼津からの船で漂流した者たち。 その中で生き残った男の話。 「骨董」1902年(明治35年) 怪奇文学作品。日本各地に伝わる伝説・怪談を収める。 ⚪︎幽霊滝の伝説 鳥取 肝試しに滝壺へ。賽銭の代わりに赤子の首が投げ込まれる。 ⚪︎茶碗の中 未完 江戸・白山 茶碗に浮かぶ生霊。飲み干して敵討ちとなるのか。 ⚪︎常識 博識な和尚の説よりも、猟師の経験に軍配が上がる。 ⚪︎生霊 江戸・霊岸島 才覚ある若い手代を、その能力ゆえに憎む主人の妻。やがて暖簾分けでめでたし。 ⚪︎死霊 越前国 代官の死後、下役の悪事を霊となって暴く。 ⚪︎おかめのはなし 土佐 死後も生きたままのように、夜ごと夫の元へ通う妻。 ⚪︎蝿の話 京都・寺田通り 孝行娘が蝿となって戻ってくる。 ⚪︎雉子のはなし 尾州・遠山 死んだ姑と思われる雉子を夫が殺す。 助けた妻が幸せになる。 ⚪︎忠五郎のはなし 江戸・小石川 足軽・忠五郎が毎晩通った女は、実はガマであった。 ⚪︎土地の風習 死んだ檀家が木魚を叩くという。 ⚪︎草ひばり コオロギ科の虫。餌がないと自分の足を食べる。 「怪談」1904年(明治37年) 『夜恋奇談』『仏教百科全書』などを題材とする。 ⚪︎耳なし芳一 下関 八雲代表作。琵琶法師・芳一の身に起こる怪異。 ⚪︎おしどり 陸奥国 仲睦まじいおしどり。雄を殺したために、雌の恨みを買う。 ⚪︎お貞のはなし 越後 病死した婚約者の生まれ変わりを待つと誓うが、別の嫁を取り不幸が続く。 旅先で生まれ変わりを見つけるまでの執念。 ⚪︎乳母さくら 伊予 病の子の身代わりを願い、乳母が桜の木へと転生する。 ⚪︎かけひき 死後の怨念と、死の直前の怨念が入れ替わる。八雲作品の中でも有名な一篇。 ⚪︎食人鬼 美濃国 村人の死体を食らう僧侶。 ⚪︎むじな 赤坂 お堀ではなく、お女中の顔が。蕎麦屋で再び顔が! ⚪︎ろくろ首 九州・菊池 山中の庵にて、首が飛び回るタイプのろくろ首。 ⚪︎葬られた秘密 丹波 箪笥に隠された恋文を、処分させたいと願う死霊。 ⚪︎雪女 武蔵 吹雪の夜の雪女。年寄りは殺し、若者と結婚する。 ⚪︎青柳のはなし 能登 山中で出会った美女・青柳と結婚。 ⚪︎十六さくら 伊予 陰暦1月16日だけに咲くという桜の話。 ⚪︎安芸之助の夢 大和 一瞬の夢の間に23年の治世。実は蟻の国の出来事。 ⚪︎力ばか 「良い家に生まれ変わりたい」と願い書いた“力ばか”。言葉の通り、困った生まれ変わりに。 「天の川物語 その他」1905年(明治38年)没後 『アトランティク・マンスリー』に掲載された作品 ⚪︎鏡の乙女 南伊勢 悪竜に囚われた井戸の中の鏡の精。これを助けた神官に、乙女は恩返しをする。 「知らぬ日本の面影」1894年(明治27年) 八雲による日本滞在初期の印象記。随想・考察を収める。 ⚪︎弘法大師の書 弘法大師にまつわる逸話を集める。 ⚪︎心中 日本人の心中についての考え方。来世を恐れず、現世の情を優先する日本人の在り方。 ⚪︎日本人の微笑 日本人の微笑が持つ意味を考察。宗教的な煩わしさがなく、西洋文明への同化に疑問を抱きつつも、西洋道徳への憧れは持たない。 「東の国より」1895年(明治28年) 日本滞在記の一冊。習俗や事件を題材とする。 ⚪︎赤い婚礼 日本の心中事件を描く。幼なじみ同士の線路自殺。 「心」1896年(明治29年) 日本人の精神や生活感情を描いた随想集。 ⚪︎停車場にて 犯人の後悔、日本の警察の涙、日本人の子供に対する愛情。 ⚪︎門付け 盲目の田舎女が三味線を弾き歌う。 自らの境遇を不幸とは思わない姿。 ⚪︎ハル 日本の女性は、夫の決定を超人的に無視するように育てられている。 ⚪︎きみ子 母と妹を助けるため芸者となり、好きな男からも身を引く。最後は阿弥陀に迎えられる。 「仏陀の国の落穂」1897年(明治30年) 東洋思想や日本の民間信仰に材をとる随想集。 ⚪︎人形の墓 不幸が続く少女の話。家族が二人続けて亡くなると、墓は三つ作らねばならない。 「霊の日本」1899年(明治32年) 日本の霊的観念や仏教的因果をめぐる随想集。 ⚪︎悪因縁 牡丹灯籠 有名な牡丹灯籠の怪談を題材とする。 ⚪︎因果ばなし 死にゆく奥方が、若い女の乳房を掴んで離さない。どんなことをしても離れぬ執念。 ⚪︎焼津にて 焼津での思い出。お盆にまつわる話。
【一言感想】 曖昧なモノゴトに対して目を向けていくと 感性が成長していく 恐怖の裏にある日本古来の道徳観や教訓、文化、情念などが含まれる怪談に興味を持ったギリシア人から帰化して日本人となった小泉八雲氏が記録・世界に紹介したものの中の代表作を収録された一冊 小泉八雲氏は西洋の利己的な側面が強いこと...続きを読むを嫌っていたらしく、物質主義に傾倒しすぎると自分や他人を型に嵌めたがってしまい、感情に対しては薄情となり、道徳観や幸福感も低下してしまうと本書の中でも指摘をしていました("日本人の微笑") 曖昧なモノゴトに対して目を向けていくことで、一つの型に当て嵌めようとはせずに、捉え方の幅を持たせていくことで、感性が磨かれていき想像性が磨かれ素朴な出来事に対して喜びを感じることに繋がるのかと思います 目に見えるモノゴトに対して重きを置くのではなくて、目には見えないモノゴトにも注意を向けていくことも大切では無いのかと本書を読んで思いました 怖がらせるだけの"怪談"は今となっては娯楽の一つでしか無いけれども、日本独自の感情や考えが込められている日本古来の"怪談"を読むのはなかなか面白かったです
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