Posted by ブクログ
2016年02月14日
精神科医・春日武彦氏によるエッセイのような本。著者が接した多くのケースを元に、「待つ」ということを精神病理と絡めて語るという内容になっています。
タイトルからは「待つ力」を称揚するようなイメージを持ってしまいそうですが、実際にはかなり複雑というか、アンビバレントな評価になっています。
まずは「待...続きを読むつ」ということのストレスを、多くの事例を通じて述べています。"人間の奇異な振る舞いのかなり多くは、じっとしていることに耐え切れず、苦し紛れに起してしまった行いの結果ではないでしょうか"(P.117)。見逃されがちですが、「待つ」という作業は苦痛この上ないものです。
一方で、"性急で能率主義的なものにとっての未来は退屈"(P.167)という表現にある通り、「待つ」ことが人生に対して持つ意味も重視しています。本書の議論を読めば読むほど「待つ力」の両価性が際立ってしまい、どうも「この人は何が言いたいのか?」ということがよくわからなくなってきます。そんなわけであまりインパクトのある本とはいいがたいです。
なお、「おわりに」において、新型うつや神経症の治癒過程について、"症状が有耶無耶になり曖昧になって、「ま、こんなもんかな」とフェードアウトするケースのほうが普通"(P.175)という文章が出てきます。こころや頭がトラブルを起こしたとき、"滅びの予感に耐え切れず、自暴自棄になる"ことは避けるべきであり、単なる時間の経過にも強い力があるのだということを、肝に銘じておきたいところです。
(2014/3/24)