無料マンガ・ラノベなど、豊富なラインナップで201万冊以上配信中!
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。
Posted by ブクログ
一人っ子で上京、そして高齢の親が実家で一人暮らし、彼女も都内。
親との関係は必ずしも良好ではなく、これまであまりちゃんと話をしてこなかった主人公。
仕事は在宅勤務可能な求人広告会社に勤務中
そんな中、彼女との暮らしよりも父との暮らしを選び、父との関係の再構築をしていく。
そんな中で、父の老いと自分の老いを感じながらも、前向きに新たな生活を送る主人公と父にやさしいスポットライトを当てた心温まる一作。
人生はタイミングの連続。
自分が10年後、どんな暮らしをして、親やパートナーとどんな関係性(物理的にも心理的にも)でいたいのか?を考えさせられた。
主人公が直面している境遇が、数年後自分が置かれるであろう境遇とも重なって、物語ではあるけども、決してフィクションとは、他人事とは思えず、いろんな感情を掻き立てられた。
小野寺さんの作品は、日常をありのままに、丁寧に描いていて、派手さはないし、奇想天外な出来事も一切起こらないけど、誰が読んでも、どこかしらに必ず共感できる瞬間がきっとあって、その瞬間に出会うと、なんだか自分だけじゃないんだとほっとできて、だからずっと読んでいられる心地よさがある。
Posted by ブクログ
千葉の館山でひとり暮らしをする78歳の父が、最近少しおかしい。
東京の大手求人広告会社で働く那須野富生は、久しぶりに会う父の様子に戸惑いを隠せなかった。
それまで意識しなかった父の「老い」。生活の見直しを迫られる富生。勤務形態、恋人との関係。不惑を迎えた富生の困惑と決断を描くヒューマンドラマ。
◇
「あれっ。車、へこんでるじゃん。どうしたの?」
久しぶりに館山に帰省し、父の車で買い物に行こうとしてリアバンパーがかなりへこんでいるのに気がついた。驚いて理由を尋ねるが、父の返答はひどく頼りない。
「ああ。ぶつけたんだな。確か」
などと言い、ぶつけた時期もかなり前としか覚えていないようだ。父の曖昧な記憶によると、ぶつけたのは車庫入れするときらしい。
僕が休みを利用して久しぶりに実家に帰ったのは、78歳になる父の様子を見るためだ。6年前に母に先立たれてから父はいっきに老けた。元気がなくなり外出もあまりしなくなった。
気になってはいたが、帰省の決定打になったのは、父から久しぶりにかかってきた電話だった。
先日の夜、急に電話をかけてきた父が、
「家にあるお前のTシャツ着てもいいか?」
と聞くので、高校の頃のTシャツがタンスにあったのを思い出し、かまわないと言った。
「じゃあ着させてもらうよ。今さら服を買ったりするのはどうもめんどくさくてな」
父はそう言って電話を切った。
まあ40歳の僕でもめんどうなんだから、父ならなおさらだろうなと思っていたところ、2時間もしないうちに父がまた電話をかけてきた。そして、
「お前の部屋のタンスにTシャツが入ってるよな。あれ、着ていいか?」
と先程と同じようなことを言うので……。
( 第1章「現在 1月 40歳」) ※全5章
* * * * *
誰でも必ず、親の老いと向き合わなければならない日がくる。そして、種々の決断に迫られることになる。そのときどうするか。
そんなことが、小野寺史宜さんらしい淡々とした文章で描かれていました。
主人公は、那須野富生という男性で、東京の大手求人広告会社勤務の40歳。
富生の出身は千葉県館山市。大学進学で上京し、卒業後そのまま東京で就職して現在に至る。
未だ独身ながら恋人はいるし、仕事も順調で、楽しく充実した日々を送っている。
という、地方から都会に出てきて、まずまず幸せな人生を歩んでいる人の話としては、小説だけでなく現実でもよくある設定です。
そんな富生にも、ある日、決断のときが訪れます。きっかけは、父親の言動に不審を感じたことでした。
不安を覚え、急遽帰省した富生が見たのは急激に老けた父親の姿。それは外見以外に、
・同じことを何度も言うなど、最近の記憶がひどく曖昧。
・自己身体認知機能が低下しており、物との接触や衝突を起こしがち。
・台所仕事の際の、火の始末や刃物の扱いがはなはだ危なっかしい。
などのように、言動にも顕著に見られるようになっていたのです。
父親は、ひとり暮らしになってからの6年間で、明らかな認知症の兆候が出てきたのでした。
そんな現状を目の当たりにした富生が迫られた選択と決断。それは……。
いちばん大きなものは父親の処遇です。
・同居すべきか施設に入所させるべきか。
・同居するのなら、父親を東京に呼ぶのか、富生が館山に帰るのか。
最も現実的なのは、富生が館山に帰ることです。
東京で同居するには、現在の1Kのマンションを引き払い、少なくとも2LDK の部屋を探す必要があります。また、施設に入所させるためには、父親を説得し、施設を探す必要があります。
どちらにしても時間がかかるため、すぐに手を打てないということになります。
一方、富生の職種はリモートワーク中心の勤務形態が可能なので、居住地は自由です。 ( 出社は月イチで OKなのでクリエイターなのでしょうか?)
ともあれ、富生の仕事や手間を考えても、父親のストレス軽減を考えても、富生が館山に帰るということが最も合理的であるようです。
ただ、ここで問題が。それは恋人の存在でした。
富生には付き合って8年になる高島梓美という恋人がいます。
彼女は食品会社に勤める、(恐らく) 総合職の女性で、仕事にやりがいを感じています。また、現在35歳という、結婚を意識する年齢でもあります。
東京での恋人生活は順調で、2人はとてもいい関係でした。それは、互いのライフスタイルを尊重しあっていることが大きいほか、富生の勤務がフレキシブルであることも無関係ではないようです。
でも、富生が館山に引っ込むということになれば、2人の付き合い方も変えざるを得ません。
彼女はリモートで済む仕事ではないし、キャリアを考えれば、退職して館山に来てもらうことなどできないでしょう。
さて、富生がどのような選択をするのかですが、小野寺さんは、さらにもうひとつの問題を絡めてきています。
実は、富生は中学時代から (ある事情で) 父親を疎ましく感じ出し、必要以上はことばを交わさないほど距離を置くようになっていたのでした。
富生が実家を嫌って東京の大学に進学したのも、上京後は正月くらいしか帰省しなくなったのも、父親との関係の悪さが一因だったのです。
父との心の交流が皆無の青春時代を送った富生がいま目にしているのは、妻を亡くして危うい独居生活を送る老父です。
もし自分が富生の立場だったら……。
つい考えずにはいられませんでした。
こんな胃が痛くなるような状況で、苦しい選択をしていく富生の姿を、小野寺さんはいつもの淡々とした筆致で描いていらっしゃいます。物足りなくもあるのですが、押しが強くないぶん、自分ならどうするかなどと、かなり考えさせられもしたので、いい作品だと思います。
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。