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太平洋戦争中から終戦直後にかけて、著者は〈日本婦道記〉と題した短編を発表し続けた。初期の代表作となったこのシリーズには、未曾有の非常時にあって、古来、戦場の男たちを陰で支え続けてきた日本の妻や母たちの、夫も気づかないところに表われる美質を掘起こしたいとの願いが込められていた。本書には、「忍緒」や「二粒の飴」など、文庫未収録の本シリーズ作品のすべて、17編を収録。
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Posted by ブクログ
直木賞を辞退した作品をベースに短編17編が収録されている。筆者が込めたテーマは「 本当の女性の美しさは男は気付かないものである 」本作品の特長は全編を通じて古来戦場の男たちを陰で支えてきた凛とした女性と労働の尊さを柱に据えている点。しかも実在する人物像をベースに執筆されている点。強さと美しさが同居?...続きを読む?と感じながら読み進めていくと表題作の文中に一つのヒントが「長い苦労に耐えていくには‥」なるほど!全作品傑作。
人間は信じ合わななければならない、「人を信ずる」それがあらゆることの初めである 日本婦道記シリーズ 女性は昔から賢くて強い
初期代表作の「日本婦道記」の属する作品を集めた一冊。 300ページ弱で17編と、短いのがたくさん入ってます。 このシリーズが多く書かれたのは、太平洋戦争中なんですよね。 武士道や婦道としてのあるべき姿に殉じるというのは捉えようによっては滅私奉公的な捉え方もできなくはないと思うけど、周五郎作品の人...続きを読む間像は「内省」とか「克己」だとかだと思う。 どうしようもない社会の何がしか、というのはいつの時代だってあるものだと思いますが、そうしたものにどうやって打ち克って生きていくのか。 周五郎から日本人へのメッセージがつまったシリーズ。 どれも面白いけど、戦国の城ものは特にいい。置かれてる状況や求められる判断がいちいち究極的なので、いろいろ想像しながら読むと相当に楽しい。
本当に大切なものは、自我でもスキルでも財産でもない。自己を確立して居る人は、そういうものを捨ててしまえる。自我意識なんて、ないほうがいいのかもしれない。
17篇からなる短編集。 「笄堀」 忍城対石田三成。真名女は城主である夫の留守を守っていた。兵のほとんどを夫が率いていってしまったため、残された僅かな兵、女や領民を指揮して堀を作る。密かに真名女自身も作業に加わり、そのことで領民達の結束が強まった。決意を語る真名女の強さが美しい。 「忍緒」 真田信之...続きを読むの妻、松子は夫の留守中に尋ねてきた舅の昌幸の入城を拒みとおす。霧の朝、親子で見送る姿が切ない。 「襖」 粗暴で気性が荒いと評判の西村次郎兵衛のもとに阿市は嫁ぐ。日頃の振る舞いを抑えさせるための婚姻だとして、次郎兵衛は阿市に心を許さない。だが戦が迫り、彼女の心を知り…。北風と太陽のような話。阿市の、次郎兵衛の寝姿に武士の魂を見たがゆえの覚悟が凄い。 「春三たび」 島原の合戦で伊緒の夫は生死不明となる。戦場から逃亡したのではないかという汚名を着せられながらも、伊緒は実家へと戻ることを拒み婚家に尽くし、病弱な義弟を励まし続ける。そしてその清い心が上役の耳に入り、夫の戦死が認められる。 「障子」 かの子は家計を助けるために女塾を開いている。そんな彼女に直二郎は求婚するが断られてしまい…。 「阿漕の浦」 知信の妻、渼子は夫の留守中に西軍に味方をしなければ攻め滅ばされてしまうと、父や西軍の使者から忠告を受ける。だが夫の不在に己が勝手な振る舞いは出来ぬと突っぱねる姿が凛々しく美しい。 「頬」 茂兵衛と妻の阿いまは新たな漁場作りに没頭する。だが想像以上の困難に、三年の後に茂兵衛は撤退を決める。すると阿いまは鑿で頬を傷つけようとする。漁場の成功を、夫が誉めてくれた唯一の宝である頬を捧げて誓ったのでここから離れるならば返さなければならないのだと。素朴でひたむきな阿いまが愛しい。 「横笛」 藩儒である大橋順蔵は箱入り娘で始終おっとりとしている妻、巻子を苦々しく思っていた。だがある日、藩に順蔵は捕えられ、見られてはまずい手紙の数々を思い苦しむ。しかし予想を反して騒ぎは大きくならず、首を傾げていると巻子が全て焼き払ったためだという。客が来るたびに下手な笛を吹いていたことも、他者に密談を聞かせぬためだと知り赤面する。賢妻という言葉が浮かんだ。 「郷土」 戦乱を避けるために郷士の妻、りうは疎開の準備に終われていた。すると遠方へ出掛けていた姑が帰ってきてしまう。そして仕舞った位牌を仏壇に戻し、常と変わらない生活を見せる。土地に生きるということ、生かされているのだという感謝。疎開をやめて戦う意思を見せ、それが村人達へと伝播していく。 「雪しまく峠」 お沙伊は夫が謀反の軍に荷担する気だと思い、身重の身で子供の手を引き雪道を進む。結果としてはそれは誤解だったが、命を落としてしまう結末がなんとも…。命を賭けてでも夫の道を正そうとする覚悟の尊さ、といったところなのか…。 「髪かざり」 廻船問屋を営む父の乗った船が難破する。残された家族は同業者などから援助を申し出られるが、店の再興よりも共に死んだ人々の家族を見舞うことを優先する。病弱な母と幼い弟を抱え、懸命に生き抜こうとする娘、お稲の決意。 「菊の系譜」 勤王派の夫を反対派に殺され、お琴は幼い息子と夫が丹精込めて世話をしていた菊を抱えて領外に逃れる。年月が過ぎ、青年となった息子が官軍に加わると言う。お琴は父の仇を討つという、勤王の志以外の邪念を叱り、諭す。官軍として藩へ戻る息子に根付いた菊の花を切り、託す。 「壱岐ノ島」 貧農の次男坊である吉蔵は農民となる事を嫌い、文字を覚え家の手伝いも疎かにして本を読む。農民は国の宝である米を作っているのだと諭す母の台詞は感動的ではあったが、いささか説教臭い。 「竹槍」 切腹した父を持つ武家の娘、貞子は郷士の娘であるおきぬに竹槍の訓練に誘われる。だがそれを断ったために仲間外れにされ、裁縫稽古所を追われてしまう。病弱な母と幼い弟を裁縫の腕で支える貞子の心の強さが眩しい。 「蜜柑畑」 信乃は兄の友人、伝三郎と婚約する。だが彼には隠し妻と息子が居たとして破談になってしまう。伝三郎の裏切りを信じられぬまま年月は流れ、真実を知る。相手を信じ抜くことの尊さを示しているのだろうが、義姉の喋りがお仕着せがましく、鬱陶しかった。 「二粒の飴」 貞代は明日嫁ぐ娘に己の母の生き様を語る。最後に渡した飴の意味が切ない。 「萱笠」 足軽の娘であるあきつは、友人達の色恋話につられて自分にも想う相手がいると嘘をついてしまう。咄嗟に、乱暴者と評判の悪い吉村大三郎の名を出したが大三郎は戦に出ていたため、不在の状態で周囲の人々が話を進めてしまう。あきつは嘘がいつばれるかと恐れながら吉村家で姑に尽くすことになるが、思いの外、吉村家での生活に馴染んでいく。大三郎の死によって、嘘が真となってしまった結末には納得しかねる。良いシーンではあったけど。
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