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「好きでやってることだすけな、仲間っこが来てければ嬉しいよ」
趣味もなく学校でも進路に迷っていた綾。でも「ひし形屋」で、より子先生に南部菱刺しを教わって、世界が一変した!?「魔女の菱刺し工房」
母が認知症となり、接し方に悩む香織。より子先生と一緒に無心で刺している中、あるアイディアを思いつく。「ひょうたん」
長らく引き籠もっていたより子の孫・亮平。より子は静かに亮平を見守っていたが……。「真麻の聴色」
苦しい時、嬉しい時、そして誰かを想う時。布の目を数え、模様を作る――。
青森の南部菱刺しをテーマに描く、手芸×再生の四篇。
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。
Posted by ブクログ
つくねさんの本棚から知った、髙森美由紀さんの本です。ありがとうございます。自分の中で髙森さんのプチブームになっていて、続けて読んでいます。
髙森さんの本は、人との繋がりが色々な形で感じられる。その描き方が素敵だと思う。青森県の小さな町、というローカルな場所を舞台にしているところも、人との繋がりをより一層感じさせてくれる。私には、青森県という場所を舞台にしたローカルな物語でなければ、これほど魅力に感じなかったかもしれない。
まず、読み進むと出てくる「菱刺し」について調べてみる。これがわからないとイメージが湧かないから。
すると、1色で作った素朴なものから、多色でグラデーションを使ったもの、刺繍と合わせて創作的なものまで、いろいろなバリエーションがあることがわかった。「べこのくら」はあったが、「海のべこ」は見つからなくて、どういうものかわからなかった。
物語は、より子さんの教室に通う人たちの、それぞれの物語が紡がれていく。
Posted by ブクログ
言葉にはできない溢れる思い。
大切な人に伝えられるとしたら…。
それを可能にした菱刺しと菱刺し工房に集う仲間たちのリスタートの物語。
菱刺しは青森県に伝わる刺し子。
その模様の一つ一つには意味がありました。
・女子高生綾は職場の人間関係に悩む父親に、
・結婚の決まった結菜は残していく父親に、
そして父親は嫁ぐ娘に、
・母子家庭で育てられた香織は施設で暮らす認 知症の母親に、
登場人物たちはそれぞれ大切な人に菱刺しを贈ります。
菱刺しは忘れていた記憶を呼び覚まし、見落としていた思いにも気づかせてくれました。
また菱刺しには、たとえ間違って針を刺してしまっても何度でもやり直せるという特徴も。
失敗しても大丈夫。
自信は無くてもとりあえず前に。
一針一針進む姿は、まるで人生の歩みのよう。
リスタートは、いつでも、どこでも、何度でも。
温かく励まされたような気持ちになれる作品でした。
癒やされます。
Posted by ブクログ
青森県南部地方に江戸時代から伝わる刺し子の技法「菱刺し」。その菱刺しに魅せられた人たちを描く群像劇。全4章。
* * * * *
物語の柱になるのは2つ。主要人物たちにとって心の糧となる菱刺しと、その技法を手ほどきするより子先生です。
菱刺しは、その地味ながら美しい紋様や彩りで、現代でも愛好家がいるほどですが、元は江戸時代に貧しい庶民たちによって考案された、実用第一の生活の知恵でした。
綿の栽培が思うに任せない本州最北県の青森。麻の衣類で長く厳しい冬を乗りきるためには保温性を高める必要があります。
目の粗い布地の隙間を麻糸で埋め縫いすることによって、風を通さず、体温も逃さず、さらに着物の強度も増すという一石三鳥の技法。それが菱刺しです。本当にすごい知恵だと思います。
でも菱刺しのいいところは、「誰でもできる」という点にあるのではないでしょうか。
多少の修練は必要だけれど、複雑な手技がいるわけではないし、しくじってもそこからやり直せばいい。だから時間と根気さえあれば仕上げることができるのです。
何より意匠が形になっていく喜びや達成感は心を豊かにしてくれます。ひと刺しは小さくても菱刺しによって得られるものがどれだけ大きいかは、本作を通してよくわかりました。
将来について希望も展望もない女子高生、認知症を発症した母親への対応に悩む女性、恋人を事故で亡くした青年など、自己の無力感に苦しむ人たちを支え救った物語には、説得力があり感動を覚えます。
そして工房の主宰でもあるより子さん。
彼女の持つ菱刺しの技術は優れたものであるけれど、より子さんは誇ることも衒うこともしません。ただにこやかに輪の中にいざなってくれるのです。
「好きでやってることだすけな、仲間っこが来てければ嬉しいよ」
気持ちに余裕をなくした人に対してもゆったり穏やかに接する姿が印象的でした。
その他にも、心に残るより子さんのことばがあります。
「ぼちぼちがちょンどいいね、ぼちぼちは自分の速さだ。我は好きだよ」
「なあに、頑張りは人と比べるもんでねえよ」
より子さんにそっと背中を押され、針を持ち布地に向かう人たち。気づくと、ただひたすら布の目を数え、針を刺し模様を作ることに熱中している。
そしてそうするうちに、心の中が整理され落ち着いてくる。まるで魔法にかかったかのように。
より子さんがひとりで息を引き取った場面は悲しかったけれど、その後の、魔法使いの弟子たちが自らの足で立っていくラストシーンは、まったく感涙ものでした。
各章の主人公に合わせて文体を変えたり、青森弁を効果的に盛り込むなど、高森さんの構成の妙にも感心するばかりです。
初読みの作家さんですが、ファンになりました。
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小説・文芸
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