大西暢夫の作品一覧
「大西暢夫」の「津波の夜に 3.11の記憶」「炎はつなぐ」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
- 作者をフォローする
- フォローすると、この作者の新刊が配信された際に、お知らせします。
無料マンガ・ラノベなど、豊富なラインナップで201万冊以上配信中!
「大西暢夫」の「津波の夜に 3.11の記憶」「炎はつなぐ」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
小説・文芸
小説・文芸
Posted by ブクログ
ダム開発のために地図から消されていった日本の多くの村のひとつに、岐阜県徳山村がある。コミュニティが崩壊したあとも山で暮らしつづける老人たちのもとを1990年代初頭に初めて訪れたジャーナリストの著者は、トチの実やマムシ、種々の山菜などを採り加工し保存する日々の労働を克明に記録するにとどまらず、ひとり村にとどまったゆきえさんの人生、そして今や彼女の記憶の中にとどまるのみの村の歴史そのものを掘り出し、現場を歩いて自らの体によって確かめるようにして記録していくことになった。
角入(かどにゅう)という雪深く貧しい集落から一度は北海道開拓民の村へ嫁いだゆきえさんは、なぜまたこの村に戻り、最後のときまで立ち退きを拒んだのか――手探りでたどりついた先にあったのは、まるで集落全体がひとつの生命体であるような、地にへばりついて生存してきた人びとの記録だった。過去の安易な理想化を拒むその過酷さは、共同体の中の個人、特に女性たちや、またおそらくは入植先の先住民たちにも向けられてきたものであったろう。
日本全体が大きく商品経済化していく中で、この村の生活の厳しさを知ればこそ「帰りたくはなかった」というゆきえさんは、しかし最後まで角入にとどまった。そして立ち退き先を訪ねた著者に、「なんでわしが98円の特価品のネギを買わなあかんのや」と凄絶な言葉を吐露する。見たこともないほどの補償金を差し出され「先代が守ってきた財産を一代で食いつぶしてしまった。カネに変えたらすべてが終わりやな」と。
地に縛られ血に縛られながらも自ら重みを引き受けて生きてきた人たちがその中で探し求めてきた解放とはなんだったのか、わたしたちは解放のように見えるものを求めて、なぜこんなところに来てしまったのか。ゆきえさんは14歳ではじめてホハレ峠を歩いて越え、門入の外にあるきらめく海を目にしたという。その細い道を歩き通す重荷を捨てたとき、わたしたちは解放の道を見失っていたのかもしれない。