光文社古典新訳文庫シリーズの特徴は、奔放な翻訳と優れた解説、この二点だと個人的に思っている。
その意味で、コレットの『青い麦』を河野訳で読むことの面白さは、彼女の明快な解説と共に評価するのがよいと思う。彼女の解説は、若い男女の恋愛を描いた『青い麦』のテーマは、いかにもありふれて見えるのに、なぜ仏文
...続きを読む史上「新しい」ものだったかを、コレットの伝記的事実も交えながら、分かりやすく、興味深く説明している。
本作を読んでまず目にとまるのが、夏の海辺の家を背景にした爽やさな情景。そして、十代の男女恋愛がもつ苦々しさを繊細に描いた巧みな心理描写である。謎の三十女が登場する展開は、フランス文学のおなじみのものだが、二人の主人公の関係が変化するための契機として効果的に使われている。直接的な性描写を排しているのは、何も彼女が性的なことがらに嫌悪感をもっていたからではなく(そうでなければストリップ同然のパントマイムを仕事になどできないはずだ)、十代の男女のぎこちなさを表現するのに適当だったからであるようにも思う。