子供の頃に母親が弟と心中し、父親は浮気(本気?)相手の方に行った過去を持つ女性の物語
主人公のなつき
教師をしている夫の優
優の教え子の佐野佳奈子
冒頭のなつきの描写からは、日常の中にささやかな喜びを感じながら慎ましく生きているように感じる
しかし、彼女の生い立ちには壮絶な経験が含まれる
弟だけ
...続きを読むを連れて逝った母親
そんななつきを顧みることなく不倫相手の方にいった父親
彼女はそんな経験に真正面から向き合うことを避けてきた
学校が夏休みに入ってから、夫の教え子の佐野佳奈子が自宅を訪れる
佳奈子は12歳の少女で、美しく大人びていて それでいて傷を抱えていそうなアンバランスな存在
実際、授業中にふらふらとどこかへ行ってしまい、うわ言のような意味不明な事を話すという
本人は草原に行っていると言うが……
そんな佳奈子と接することで、なつきが過去と向き合う物語
佳奈子が言うには、どんな人でも心の中に草原を持っているそうな
草原に行けば傷ついた心を癒すことができる
ただ、草原は戻ってこられない可能性もある
草原は癒やしの場でもあり、逃避の場所でもあるのでしょうね
確かに癒やされはするし、一時的に避難するには相応しいけれども、ずっとそこにいてはいけない場所
私も人生の中で辛い時期にこんな場所に行けてたらよかったのにと思う
でも、ここまで隔離された場所ではないかもしれないけど、それに近しいところに足を踏み入れていたかもしれない
まぁ、「辛さ」というのは本人以外にはわからないものですからね
死に出会ったとき、悲しければ悲しいほど、その人は幸せ
それだけ愛したってことだから
と、悲しいと思えるのは実は幸福なことの裏返しと捉える表現
確かにそんな一面はあるかも知れないけど、その幸せが一方的なものだとしたら尚更悲しいかもね
所詮人は他人の想いは分かり得ないわけだし、自分がどう思うかというのが重要なのではなかろうか
病弱で儚げな弟の薫
そんな弟に注がれるのと同じようには得られなかった母の愛
何故自分も一緒に連れて行ってくれなかったのかという想い
また、その後の父との関係
なつきにとって、家族とはどんなものなのでしょうね?
終盤の展開には少しもやる気持ちもありながら
会う事で救われた面もあるのだと思った
草原から帰ってきたところで終わらずに、その後の展開も含めて描かれることで回復・再生の物語になってるのでしょうね
解説が江國香織さん
作品の要素に江國さんと共通するものを感じる
不釣り合いな程大きな冷蔵庫の捉え方、すいかを食べるときの擬音語擬態語から感じられるリアリティ、ソーダ水の特別感などの表現
他にも、似たような作風の作家さんが思い当たる
心に傷や空洞を感じている女性の再生物語という点では小川糸さんも近しいものを感じる
やはり私はこれ系の物語に弱いのだと改めて感じた