笠間直穂子の作品一覧
「笠間直穂子」の「復讐はわたしのもの」「山影の町から」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
- 作者をフォローする
- フォローすると、この作者の新刊が配信された際に、お知らせします。
無料マンガ・ラノベなど、豊富なラインナップで201万冊以上配信中!
「笠間直穂子」の「復讐はわたしのもの」「山影の町から」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
小説・文芸
Posted by ブクログ
都心に住まいIT企業に勤めるいまの生活をどうにかしたい、と考えて訪れた益子の町の、ふらりと立ち寄った書店で、たまたま見つけて手にとった。帰りの電車に揺られる(乗り換えを待つ間もあわせた)四時間ほどで(ほぼ)読み終えた。とんでもなくいい本だった。窓の外から花のにおいが襲いかかってくるはじまりにやはり冒頭で夏芙蓉のにおいがはいりこんでくる中上健次の『千年の愉楽』を思い出した。身近な暮らしや植物を語ることが、人文学を補助線として、現代社会に浸透するさまざまのイデオロギーの批評に繋がる。仕事の場は都心に残したままの著者であるからこその感覚があると思った。著者のことは深く知らないまま手にとったけれど、終盤に至って、いずれ読みたいと思っていたンディアイを翻訳されている方だったか、と気づいた。越谷や巣鴨といった地名にもなじみがあり、妙な縁を感じてしまう。秩父に行こうと思った。
Posted by ブクログ
年初の新聞書評(日経新聞)で知り興味を持った。
秩父へ移り住んだ文学者(大学教授)のつづる田舎暮らし、地方と都会の対比のライトエッセイか? くらいのつもりで手に取ってみたが、いやいやどうして、なかなか骨太の一冊だった。
書評子は、
「決して大きな声ではない。だが、私たちは他人の注意を引こうとして声を張りあげる本ばかり読んでいるのではないか。著者の、静かな語りに導かれながらそう思った」
と書くが、静かな語り口ながらも、その主張は力強いし、田舎暮らしへの不理解、都会者の上から目線に物申す口調、論旨には一本筋が通っていて痛快でさえある。
著者はフランス文学者。マリー・ンディアイやC・F・ラミュといった数々の海外著作の翻訳者としても知られた人らしい。幼少の頃から、洋の東西の文学に親しんできた土壌があり、むしろ、田舎暮らしエッセイというより、書評本といった様相もまとう。
とある、作品を紹介するのに、秩父での暮らしや、人との関りで感じたことを端緒しているにすぎないと思えるほど、文学論も重厚だ。後半は、より専門分野や文学紹介といった趣きが深まる。田舎暮らしにも慣れが生じ、新たな気づきが少なくなってきてるから? と穿った見方もしてしまうほど。
「なにかの花の強い匂いが、台風の気圧とともに押しよせてきた。」
「わたしが道の駅で売っているようなものを買うときには、ふうん、と興味なさげな伯母だったが、他方、わたしがだれかにものを贈ることと、死者に挨拶することについては、喜んだ。」
こうした田舎暮らしの断片、地方の人情に触れた部分は随所に出てくる。
「このような一般化(秩父の人は謙遜しない、くよくよしない)は、いずれにせよ乱暴なものには違いないけども、率直な物言いのひとが多いこと、自分を晒すのを怖れない傾向があることは、何度か町を訪ねて、感じた。」
と地方の人間性の語りから、
「南木佳士が小説やエッセイに描く信州の人々を思い出させるところがあって、山の人間の感じなのだろうか。」
と、文学論へと話が流れていくのが、このエッセイの展開の妙。秩父の「暗さ」は市内から見える南に位置する武甲山と奥秩父連邦が落とす影が原因と語り、それは、当地を撮りつづけた清水武甲が1969年に刊行した写真集『秩父』のあとがきで指摘されていると、解説する。
「古来より国内で愛され利用されてきた植物であると同時に、色が濃く、繁殖力が強く、鮮やかな色と香りの花を咲かせ、日本から海外に持ち出されて「猛威をふるう」クズ、という存在は、この国に蔓延する排除の言説の前に立ち止まるきっかけとはならないだろうか。」
一見、庭や裏山に生える植物の話題かと思えば、ジル・クレマンの『動いている庭』という著作を紹介し、
「侵略的外来種を撲滅しようとすることは、この侵略の働きの前に屈したことを認めることに他ならない。というのも、それはわたしたちの現在の知識が暴力による以外の手段を知らないことを示しているからだ」
と、骨太な論旨へと話を導いていく。なかなか面白い。
人気作家の絲山秋子も、すぐ北の高崎在住だという。地元の者と、よそから来た者との関係を掘り下げる作品をものしているという。読んでみようと思う。
本書の中で引用したり、紹介した著作は巻末に一覧として掲載されている。推薦図書をたくさん紹介された気にもなる。ありがたい一冊。