【感想・ネタバレ】山影の町からのレビュー

あらすじ

アスファルトの世界を離れ、わたしは秩父へ移り住むことにした――庭と植物、自然と文学が絡み合う土地で、真摯に生きるための「ことば」を探す。練達の仏文学者による清冽なエッセイ集。

* * *

秩父の自然を綴るなかに、深い霧のような知の涼気が渡る。清しく果敢な精神のかたち。
――小池昌代

風や水のゆらめきを気配で感じとる耳には、歴史の奥に消された声さえ聞こえる。
――くぼたのぞみ

* * *

・窓から風に乗って流れ込んだ常山木の、爽やかで甘い濃厚な匂いに導かれて(「常山木」)。
・生命の表と裏を引き受ける誠実さの方へ(「巣箱の内外」)。
・経済活動からはこぼれ落ちる、豊かな交換の倫理(「ふきのとう」)。
・外来種という呼称がはらむ排外主義の芽と、植物がみせる「明日の風景」(「葛を探す」)。
・宮沢賢治が見上げた秩父の空(「野ばら、川岸、青空」)。
・鮮やかで深い青紫の花と、家の記憶について(「サルビア・ガラニチカ」)。
・切り捨てられた人間と動物がともにある世界へ(「車輪の下」)。
・都市優位の世界観を解きほぐす作家たち(「田園へ」)。
・見知らぬ女性からの言葉が届く場所で、わたしは届くはずのない文章を待っている(「消される声」)。
・空の無限、星の振動、微かに吹く風は、わたしたちに語りかける(「風の音」)。

……ほか珠玉のエッセイ、三十篇

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

きっぱりとした言葉、美しく流れるような文章にうっとりします。力強く引き込まれる。
帯にある「清冽」という漢字のとおり。

一編の中、生活周りの段に加え、関連する本や音楽作品について書かれているものが多く有ります。セレクトが時代やジャンルや国が多岐に渡っていますが、秩父の自然や生活に馴染んでいて楽しい

旅に持っていって、ゴトゴト電車でのんびり読むのもよい本だと思います。
第73回日本エッセイストクラブ賞受賞作。

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2025年10月06日

Posted by ブクログ

とても丁寧に書かれた文章で、一つひとつの言葉を信頼できる。そして読書案内もしてくれる。秩父の暮らしが羨ましい 95

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2025年06月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 年初の新聞書評(日経新聞)で知り興味を持った。
 秩父へ移り住んだ文学者(大学教授)のつづる田舎暮らし、地方と都会の対比のライトエッセイか? くらいのつもりで手に取ってみたが、いやいやどうして、なかなか骨太の一冊だった。

 書評子は、
「決して大きな声ではない。だが、私たちは他人の注意を引こうとして声を張りあげる本ばかり読んでいるのではないか。著者の、静かな語りに導かれながらそう思った」
 と書くが、静かな語り口ながらも、その主張は力強いし、田舎暮らしへの不理解、都会者の上から目線に物申す口調、論旨には一本筋が通っていて痛快でさえある。

 著者はフランス文学者。マリー・ンディアイやC・F・ラミュといった数々の海外著作の翻訳者としても知られた人らしい。幼少の頃から、洋の東西の文学に親しんできた土壌があり、むしろ、田舎暮らしエッセイというより、書評本といった様相もまとう。
 とある、作品を紹介するのに、秩父での暮らしや、人との関りで感じたことを端緒しているにすぎないと思えるほど、文学論も重厚だ。後半は、より専門分野や文学紹介といった趣きが深まる。田舎暮らしにも慣れが生じ、新たな気づきが少なくなってきてるから? と穿った見方もしてしまうほど。

「なにかの花の強い匂いが、台風の気圧とともに押しよせてきた。」

「わたしが道の駅で売っているようなものを買うときには、ふうん、と興味なさげな伯母だったが、他方、わたしがだれかにものを贈ることと、死者に挨拶することについては、喜んだ。」

 こうした田舎暮らしの断片、地方の人情に触れた部分は随所に出てくる。

「このような一般化(秩父の人は謙遜しない、くよくよしない)は、いずれにせよ乱暴なものには違いないけども、率直な物言いのひとが多いこと、自分を晒すのを怖れない傾向があることは、何度か町を訪ねて、感じた。」
 と地方の人間性の語りから、
「南木佳士が小説やエッセイに描く信州の人々を思い出させるところがあって、山の人間の感じなのだろうか。」
 と、文学論へと話が流れていくのが、このエッセイの展開の妙。秩父の「暗さ」は市内から見える南に位置する武甲山と奥秩父連邦が落とす影が原因と語り、それは、当地を撮りつづけた清水武甲が1969年に刊行した写真集『秩父』のあとがきで指摘されていると、解説する。

「古来より国内で愛され利用されてきた植物であると同時に、色が濃く、繁殖力が強く、鮮やかな色と香りの花を咲かせ、日本から海外に持ち出されて「猛威をふるう」クズ、という存在は、この国に蔓延する排除の言説の前に立ち止まるきっかけとはならないだろうか。」

 一見、庭や裏山に生える植物の話題かと思えば、ジル・クレマンの『動いている庭』という著作を紹介し、
「侵略的外来種を撲滅しようとすることは、この侵略の働きの前に屈したことを認めることに他ならない。というのも、それはわたしたちの現在の知識が暴力による以外の手段を知らないことを示しているからだ」
 と、骨太な論旨へと話を導いていく。なかなか面白い。

 人気作家の絲山秋子も、すぐ北の高崎在住だという。地元の者と、よそから来た者との関係を掘り下げる作品をものしているという。読んでみようと思う。
 本書の中で引用したり、紹介した著作は巻末に一覧として掲載されている。推薦図書をたくさん紹介された気にもなる。ありがたい一冊。

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2025年01月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

フランス文学研究者である著者の秩父への引っ越し、そこでの暮らしのエッセイ。秩父や庭の豊かな動植物の話、文学の話が印象的でちょっと梨木香歩さんに似ているが、繊細なようで芯がきちっと通っていて、梨木さんよりは文章が硬質で揺らぎがない感じがする。すっすっと線を引いていくような美しい文章の流れが読みやすく、心にしみ込んでくるようだ。

絲山さんの小説のことを書いているくだりの「微細な変化が内面に生じ」、わだかまりが反転する、という一連の表現には唸ってしまった。あと、「いきている山」を引用していたが、これは私も大好きな本なのでとても嬉しかった。山との交歓をひたすら楽しむナン・シェパードの山での過ごし方は私には遠いもののように感じていたが、著者のようにふらっと行って15分くらい歩いて帰ってくるなんていうのもありなんだな、と思うとちょっと興味がわいてくる。それができるのが秩父暮らしのいいところなのだろうな。

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2025年10月15日

Posted by ブクログ

シジュウカラ用におうちセッティングしたいが、浸水問題気になるな。
水もセッティングしたいが、招かれざる者(くまとかいのししとか)も来ないか心配。
庭に食べ物埋めるのはしたいのは山々だけど、招かれざる誰かにめちゃくちゃ掘り起こされたから無理だ

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2025年03月28日

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