・本書は、周辺化された人々が手にとっても、権威の中心にいる人々が手にとっても違和感なく読める、とおもう。
せっかくなら、「無意識に差別をするすべての人たち」がこれを読んでくれ、という気持ちと、「そういう人」はこれを読んでも自省に結びつけたりはしないんだよな(これは偏見)という諦観を抱きながら読んだ。
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・取り組みの例、どれも胸にぐっとくる。警察とギャング街の例、MITの例などは、泣けてくる。
・本書で挙げられるバイアスの例のどれか一つくらい、誰しも晒されているのではないか。それくらい多様な、隅々までの例が挙げられていた。どれもこれも身に覚えすぎて、納得せざるを得ない。
加えて、あらゆる解決方法が提案され、実際に効果があると言われれば ああ世の中は、人は、変えられるのかという希望でもある。
そこへ至るまでの犠牲が多すぎるのがかなしい。
・自分は日本で暮らしていて、50〜60代日本人男性の価値観が世の中を占めて感じる。日常生活でその属性の人との触れ合いはゼロに近いのに、不思議だ。他のひとも同じ感覚なんだろうか。他の国ではどうなんだろう。
・バイアスを克服するのは難しい。
“日本人的”でない容姿の方を街で見たら、観光客かな?と思う。スマホを見て辺りをキョロキョロしていれば、初めて日本に来て 迷子なのかな、助けるべきかな、この人は英語を話せそう、この人は中国語なら通じるだろうか、容姿だけでそんな想像をする。そもそも日本に生まれ育って、助けなんて要らない人かもしれないのに。
たいそう平和ボケした例だが、本質的には同じバイアスで、わかっているつもりでも抜け出せない。脳が勝手に見つけてしまう。
・本書は読者のバイアスを責めず、ただそれを自覚して、変わっていこうと背中を押してくれる。がんばろう。
・ここからは、本書の主題を離れる。SNSの話。
これを読んでいる2023年7月は、Twitter社を買収したイーロン・マスク氏の活発な変革活動が巷を賑わしている。とうとうブランド名も鳥アイコンも撤回、というところまできた。
それを横目に眺めながら、何の根拠もないが、「いまのTwitterの在り方はまあ異常だから、マスク氏がそれを変えたくて色々やってるなら支持したいな」と妄想していた。異常、というのは 現実世界のような多様性が削がれて、見たいものだけが集まって増幅していく点である。
これがゲームだったら「ゲームの世界に没頭する」のは悪いことではないが、SNSという、現実の写し鏡のフリをした存在が 閉じた環境になっていくのは、なんかヘンよね、という感覚。フィルターバブルよりもっともっと気がつきにくく、危うい。
そこへ本書を読んでいたら、Twitterの設立背景が出てきて、タイムリーだ、と思いながら読んだ。そもそものデザイン時点で、世の中の多様性を取り込むようになっていなかったんだな(世の中が多様であると気づけるチームでさえなかった)
なお、自分はそもそもは Twitter大好き人間 であり、その起源やそれを支えてきた人々を批判する意図はないです。人間の営みはトライアンドエラーだし、当時はこんな規模になると思って作ったわけでもなかろうし。今のポジションに合わせて変わる必要があるかもね、という話。
マスク氏が、我々にむりやり全く知らん人間のおすすめツイートを見せてきたり、大量の広告を見せてくるのに対して、最初は本当にムカムカしていた。しかし、次第に 現実世界と並べるなら、それが正常か…と思うようになった。
本書を読んで、それらの考えが補強された。SNSで追い詰められてしまう人は減ってほしい。そのためなら、幾らでも変わっていきたい。