予想以上に面白く、「世界を回り人と巡り合いながら」生きるアーティストの生きざまにほれぼれする。
一方で音楽をつくるストイックな緊張感やマエストロとの対話等、職人的な「仕事ぶり」も格好いい。
高校のOBで「研究者は学会で世界を旅することができる」と言っていた人がいる記事を読んだが、まさに世界を肌身で感じる生きる・働き方への憧れが増幅されたとも言える。例えば、国際機関ポストのことも頭をよぎる。
真央と二人のマネージャーのグループチャットの名称が「Mao dreamteam」っていいな。(p.201)
あと、野島先生に少しでも近づくため、タバコを始めたという話も印象的(p.49)。
いろんな人のつながりで、アーティストは舞台に立っている。
それから、「言語表現をもっと深めてみたくなり」別冊文芸春秋でエッセイの連載を始めることにした、というのは、星野源みたいでもあるなとか。(p.125)
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音楽や作曲家に向き合う信念:
・宗教、信仰との関係。これまでバッハをコンサートのプログラムに入れることはほぼないとのこと。(p.16)
・解釈のため、入手できるものはすべてチェックする(スケッチ、自筆譜、、、)(p.58)
・モーツァルトは「頭で形式や構成を考え、響きを計算し尽くすほどに、かえって彼の持つピュアで天国的な音楽で相反してしまう。モーツァルトの前では、長時間にわたる練習や研究がかえって足を引っ張ることになりかねないので、時間をかけたらかけた分、新鮮さを失わないように気を付けねばならない」(p.144)
・ショパンのポロネーズ全7曲を通して演奏することについて、「作品がどう演奏されるべきか、その姿勢と演奏の真正性に対する議論というものは、幾分デリケートな話題だと理解している」とするものの「後世に生きる私たちにしかできない至高の選択であることも確かではないだろうか」と信念をぶつける。アムステルダム国立美術館でみてフェルメール展(28点が年代順に展示)も参照しながら。(p.190)
世界を回る楽しみ:
・「前回アムステルダムを訪れたときに「行きたい店ランキングトップ10」を作成し、コロナ静養時にはそのリストを眺めながら毎日耐え忍んでいた」(p.155)
ルツェルンのレストランでのアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノとの運命的な出会い、まさに「また食べに来たい」と思わせるもの。「我々ピアニストも、どんなに素晴らしい音、解釈で演じようとも、また聴きに来たいと思ってもらえないと生きていけないのだ。そんな哲学を街の小さなイタリアンレストランのアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノが教えてくれた」(p.160)
・しかし次回芳しくないペペロンチーノを食べて、「一度素晴らしい演奏をしてお客さんに感動を与え、次のオファーをもらったとしよう。しかし、次の演奏では前回よりも遥かに上回る感動を与えられなければ、そこでお役御免だろう。つまるところ日々鍛錬し、更に良質な音楽を目指し続けないと、生きていけない」(p.172)
・先輩ピアニストたちがピアノを独占中で、「手持ち無沙汰で舞台袖にあるケータリングのバーニャ・カウダをつまみ食いすることにした。ディップ・ソースがたまらなく美味しい。黙々と食べ続けていたら、あっという間に無くなってしまった」というこの力が抜けた感じ!(p.232)
・噴水のある可愛らしい広場やラ・ロック=ダンテロンの街の散策と、「旅行計画ではなかなか候補に挙がらないような知らない街の魅力に出会えるのも、ピアニストという仕事の愉快なところだろう」(p.257)
・「2021年の暮れのこと。私がベルリンに拠点を移し、欧州でのキャリアを築いていこう、なんの保証もないけれど厳しい本場に身を置いてみよう」(あとがき)
アーティストの味わう緊張感:
・エルサレムの奇跡のコンサート。「生涯忘れ得ぬであろう体験をした」「イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団は、ふわっと優しい極上の土台を築き上げ、私はその土台にピアノの音をすっと乗せる。瞬間、鳥肌が立つほど美しい音楽の磁場が生まれました。ピアノの音が辿る先を、その場にいるすべての人が追っている。演奏者と聴いてくださっている方が、同じ空間で繋がっていることを、肌身で体感できたのです。それはまったく、信じられないほど素晴らしい時間でした。この音にすべてを捧げたいーー震えが止まらなくなるような感覚を覚えながら、わたしはそう願っていました」(p.12~13)
・カーネギーホールの舞台に上がるときに皆から「Toi toi toi!」と声を掛けられた話。(p.134)
・「これで私の実り多き1か月の旅が終わる。これほど充実した1か月が今までにあっただろうか。憧れのアーティストたちから得たものも非常に多く、全ての瞬間が幸せそのものだった。ベルリンの自宅へ帰ると、長いこと練習室の壁にセロテープで貼っていた自作の<7月の演奏曲目一覧>が目に入った。少し躊躇したものの、私はそれを潔く壁から剝がした」(p.261)