古代マヤ文明の諸相を、最新の研究成果を踏まえて概説した書。考古調査による新発見や、近年の研究で大きな成果を挙げている考古人骨研究(生物考古学/バイオアーキオロジー)の知見を織り込みつつ、諸都市国家が興亡した古代マヤ世界の様相を一望する。
本書は、研究の進展著しい古代マヤ文明についての概説書である。古
...続きを読む代マヤ文明については先に青木和夫氏の『マヤ文明――密林に栄えた石器文化』(岩波書店)を読んでいたのだが、あれから9年が経過したとあって本書は更に最新の研究成果が紹介されていた。内容としてはマヤ考古学の研究史から始まり、各地方の歴史や考古人骨研究の視点から見たマヤ文明の姿についてを解説する。
本書を読んで驚きであったのは、古代マヤ文明が「"戦国"ともいうべき」動乱に満ちた世界であったということである。かつては「戦争のない人類史のユートピア」とさえ言われていた古代マヤ世界であったが、近年の石碑解読や考古調査から見えてきたのは群雄割拠する国々が交流と騒乱を繰り返す興亡の歴史であった。本書では各地の歴史をその地に興った諸国家の様相から紹介しており、各地の王の名やその事績まで詳しいことが判明している現代の研究の進展ぶりに驚かされた。
また本書は考古人骨研究――即ち発掘した古人骨を科学的に分析し、考古コンテクストを踏まえて精査・解釈する視点に着眼を置いている。本書では「移民動態」、「古代マヤの食生活」、「戦争の様相」について考古人骨研究の成果が具体的に紹介されており、実際の研究から考古人骨研究の考え方が分かりやすく解説されている。
最後に、本書を読んで印象深かったのは著者の「考古学で得られた知見は広く市井の人々の中に伝えられなければならない」という姿勢である。遺跡保護といった考古遺物への社会的関心の低い現代の中米では、開発に伴う遺跡の破壊や遺物の盗難が考古研究において問題となっている。だからこそ、最新の研究成果を積極的に市井に政に発信することで「現地の人々が、自らの手で考古遺物を守る」という意識を醸成していかなければならない。これは先の青木氏の著書でも強く主張されていたことであり、同じ古代マヤ文明の研究者として共通の意識・課題があるのだなと強く印象付けられた。