あらすじ
かつて中米に栄えた古代マヤ。前一〇〇〇年頃に興り、一六世紀にスペインに征服された。密林に眠る大神殿、高度に発達した天文学や暦など、かつては神秘的なイメージが強かったが、最新の研究で「謎」の多くは明かされている。解読が進んだマヤ文字は王たちの事績を語り、出土した人骨は人びとの移動や食生活、戦争の実態まで浮き彫りにする。現地での調査に長年携わった著者が、新知見をもとに、その実像を描く。
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碑文の解読などを通して判明した諸勢力の興亡も興味深かったが、科学とも連携した最新知見に基づく検討が面白い。安定同位体を用いた移民動態の議論や、考古人骨研究によるマヤ時代の戦争の実像考察など読んでて楽しかった。
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古代マヤ文明の諸相を、最新の研究成果を踏まえて概説した書。考古調査による新発見や、近年の研究で大きな成果を挙げている考古人骨研究(生物考古学/バイオアーキオロジー)の知見を織り込みつつ、諸都市国家が興亡した古代マヤ世界の様相を一望する。
本書は、研究の進展著しい古代マヤ文明についての概説書である。古代マヤ文明については先に青木和夫氏の『マヤ文明――密林に栄えた石器文化』(岩波書店)を読んでいたのだが、あれから9年が経過したとあって本書は更に最新の研究成果が紹介されていた。内容としてはマヤ考古学の研究史から始まり、各地方の歴史や考古人骨研究の視点から見たマヤ文明の姿についてを解説する。
本書を読んで驚きであったのは、古代マヤ文明が「"戦国"ともいうべき」動乱に満ちた世界であったということである。かつては「戦争のない人類史のユートピア」とさえ言われていた古代マヤ世界であったが、近年の石碑解読や考古調査から見えてきたのは群雄割拠する国々が交流と騒乱を繰り返す興亡の歴史であった。本書では各地の歴史をその地に興った諸国家の様相から紹介しており、各地の王の名やその事績まで詳しいことが判明している現代の研究の進展ぶりに驚かされた。
また本書は考古人骨研究――即ち発掘した古人骨を科学的に分析し、考古コンテクストを踏まえて精査・解釈する視点に着眼を置いている。本書では「移民動態」、「古代マヤの食生活」、「戦争の様相」について考古人骨研究の成果が具体的に紹介されており、実際の研究から考古人骨研究の考え方が分かりやすく解説されている。
最後に、本書を読んで印象深かったのは著者の「考古学で得られた知見は広く市井の人々の中に伝えられなければならない」という姿勢である。遺跡保護といった考古遺物への社会的関心の低い現代の中米では、開発に伴う遺跡の破壊や遺物の盗難が考古研究において問題となっている。だからこそ、最新の研究成果を積極的に市井に政に発信することで「現地の人々が、自らの手で考古遺物を守る」という意識を醸成していかなければならない。これは先の青木氏の著書でも強く主張されていたことであり、同じ古代マヤ文明の研究者として共通の意識・課題があるのだなと強く印象付けられた。
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グアテマラで働いていた方と知り合い、先ず、その国を知りたいと思った。グアテマラは、中米に位置する国で、古代マヤ文明の中心地の一つ。グアテマラの人口の約40%以上は先住民で、特にマヤ系が多く、キチェ語やカクチケル語など20以上のマヤ語が話されている。つまり、マヤ文化は「過去の遺物」ではなく、今も生きた文化として受け継がれている。
そこでマヤ文明。いや、きっかけは確かにそうなのだが、最近別の読書で「生贄」に興味をもった事もあり、マヤ文明の儀式を知りたかったという動機もある。アステカ文明では、生贄が頻繁に行われ、特に戦争捕虜を生贄にした肉を神聖な供物として貴族や戦士が分け合う儀式があった。一方、マヤ文明では、生贄と人肉食は必ずしもセットではなかった。マヤでも人肉を食べた証拠は一部に見られるが、それが体系的に行われていたかどうかは不明確らしい。
さて、グアテマラシティは約1,800万人の人口で、うちマヤ系先住民が多数。スペイン語が公用語で、マヤ語が多数(法的に保護されている)。宗教はキリスト教、農業中心(コーヒー・バナナなど)、貧富の差が大きい。
グアテマラやマヤの生贄という関心事はこんな感じだが、本書では、遺跡や人骨から何が読み取れるかという考古学的面白さを伝えてくれる部分がある。オマケのようだが、これが中々為になる。
ー もちろん人間活動の印は人骨にも現れる。人体は極めて柔軟な適応、順応能力を持っており、例えば一定の運動を一定の期間以上反復していれば、骨格上の形質に直接影響を与えていく。強い負荷がかかれば運動(労働など)に関連する筋肉が付着する骨はより大きく強固にもなるし、反対に負荷が全くかからなければ適切な大きさに縮小することもある。つまり、繰り返される人間の活動はヒトという種の遺伝情報に貼った、いわば標本のような状態の人骨を変化させるのである。変化した人骨を細かく検証すれば、故人が生前繰り返していた運動で使われた筋力の強さ、方向、頻度の推測もできる。つまり、骨を見れば、その人はどんなライフスタイルで、どういう仕事をしていたのか、ある程度わかるのである。
ー 虫歯罹患率が他の時代、遺跡に比べて突出して高い古人骨群を見つけたとして、その集団の食生活をこのデータに基づいて解釈しようとすれば、まずは「炭水化物に依存する食文化の多様性に乏しい集団」が「柔らかく調理されたタマルばかりを食べていた」可能性が示唆されるのである。
グアテマラシティーの人口増加に伴い、次々と違法建築が乱立し、コンクリートの建物が並び立つなかで次々と墓が暴かれ「古代の秘宝が眠っている」という風評が立ち、盗掘も増えていった。最も不足していたのは一般の人々の古代遺跡に関する.意識であったという。マヤ文字解読も急速に進み、それまでマヤ考古学には存在しなかった戦争を物語る”史料"が現れた。
決してユートピアではなかったマヤは、未だ混沌としながら、グアテマラに息づいている。グアテマラには、「マヤの過去」と「マヤの現在」が交差しており、その対流を感じさせる読書となった。
Posted by ブクログ
古代メキシコ文明、第二弾。マヤ文明の研究者による研究の現在地。
子供のころに雑誌やTVの特集では、マヤ文明は、忽然と森の中に消えたやら、発展に宇宙人との交流があったやら、オカルトじみた話が多かったが、研究が進み、人類が築いた偉大な文明のひとつであると、今は認識できる。
特に驚いたのはストロンチウムなどの同位体を用いて、その人物がどこで育ち、どのような生活を行っていたかを測る研究。採取できたデータに考古学的な考察をいれて、当時の様子がより鮮明に明らかになっていく様は、非常に興味深い。