重いかもしれない。のっけからキツい展開が続く。けれど、物語の牽引力がものすごく強くて、ほとんど一気読みのようにして読み切った。
奴隷制の下では、愛することすら特権になってしまうというメッセージが突き刺さる。
自分の子どもも、伴侶も、友人も、自分の過去も、自分自身の体も、自分の置かれた世界の風景さえも
...続きを読む、何もかも愛しすぎないことでしか生き延びられない世界。それが、人間としての尊厳を奪われ、奴隷という動物に堕とされた過去をもつ人々が生きる世界なのだ、ということなんだろうか。
白人の魔の手から子どもを守るには、子どもを殺すしかない世界って……しかも、実話に基づいて構成されているって……(けど、近いことが第二次世界大戦中にもきっと起こってるはず。中国大陸とか南方戦線とか)
「ビラヴド」は最後、また姿を消してしまうけれど、解説によればあれは奴隷船の船底で名前も知られず死んでいった何万人もの黒人たちの怨念なのだという。とするならば、何度でも「ビラヴド」は現世に姿を現し続けなければならないのかもしれない。正視したら正気を保てないかもしれないけれど、忘れてしまうことの許されない記憶なのだから。
その意味で、「ビラヴド」は単に「愛された者」というよりは、「たしかにかつて愛された者ではあるが、今、そうであるとは限らない者」「人間として愛し、愛される存在であったにも関わらず、それを暴力的に奪われた者」、つまり、奴隷制によって人間性を徹底的に踏み躙られた人々と、その過去を引き継ぐ人たちのことなのだと思った。
「BLACK LIVES MATTER 」の流れで読み進めてしまったけれど、それが正解なのか分からない。ただ、物語の締めくくりに「これは人から人へ伝える物語ではないのだ。」とあることに、忘れたいけど忘れてはいけない、けれど思い出したくもない記憶なのだ、という切実な思いを感じる。それを知らずにこの運動に加担しても上滑りになるのだろうな、とは思った。
そして、アメリカにおける奴隷制の悲惨、という特殊な文脈に嵌め込まずに、母娘の物語として見返してみると、ゾッとするほどのリアリティを感じた。「あなたは私のもの」「おまえは私のもの」という母娘の互いへの執着が、エコーチェンバー現象を起こして互いを狂わせて社会との断絶を招く様子は、日本の親子関係では見慣れた風景かも……