吉田廸子のレビュー一覧
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ネタバレ読み応え抜群の小説。一行一行をじっくり味わいながら読み進めるにふさわしい作品である。
主人公は、奴隷として働かされていた農場から逃げ出してきた黒人たち。登場人物たちはそれぞれ、思い出したくない過去を抱えている。基本的には時系列で進むが、過去の出来事は彼らの回想の中で少しずつ明かされていく。
主な登場人物は、4人の子を産んだセサ、その末子デンヴァー、セサと同じ農場で働いていたポールD、すでに亡くなっているセサの義母ベビー・サッグス、そしてデンヴァーの姉であり幼くして命を落としたビラヴドである。ほかにも、セサの夫ハーレ、奴隷仲間のシックソウ、逃亡を助けたスタンプ・ペイドとエラといった印象的な人物 -
Posted by ブクログ
ネタバレ誰にも話せない(話したくない)過去を持つセサとポールD、母親への気持ちが絶えず変化するデンヴァー、謎の存在のビラヴド、全ての登場人物の心理描写がとても丁寧だった。
また、徐々に過去が明らかになっていく構成が見事で、とことん引き込まれてしまった。
奴隷制度を扱う作品はたくさんあるけど、本作を唯一無二にしているのは、やはりビラヴドの存在だろう。幽霊なのか、何者なのか?最後の最後まで読み応え抜群だった。
結局、誰しも過去を忘れることはできないけど、前を向いて生きていくしかない。そのためにも、まわりの人々と助け合っていく必要がある。
まだまだ黒人差別が残るアメリカにおいて、もっと多くの人が本作を読ん -
Posted by ブクログ
ネタバレ重いかもしれない。のっけからキツい展開が続く。けれど、物語の牽引力がものすごく強くて、ほとんど一気読みのようにして読み切った。
奴隷制の下では、愛することすら特権になってしまうというメッセージが突き刺さる。
自分の子どもも、伴侶も、友人も、自分の過去も、自分自身の体も、自分の置かれた世界の風景さえも、何もかも愛しすぎないことでしか生き延びられない世界。それが、人間としての尊厳を奪われ、奴隷という動物に堕とされた過去をもつ人々が生きる世界なのだ、ということなんだろうか。
白人の魔の手から子どもを守るには、子どもを殺すしかない世界って……しかも、実話に基づいて構成されているって……(けど、近いこと -
Posted by ブクログ
これはすごかった。一文一文が読み流せない濃密さで、読むのに時間と体力が必要だった。私にとってこれまでで今年一番の作品かもしれない。なんかもう下手な感想書けません。母親の愛の裏表が濃密に刻まれていて、重く苦しいのに素晴らしすぎる。人種差別は、極端に聞こえるかもしれないけれど、これまで読んだ人種差別の物語のいくつかが、甘やかなロマンに仕立て直されていたのかと思わされるほど苛烈な物語だった。命の帰るところと生まれ来るところの闇。
あとがきにあるように、「見つめたくない、知りたくない、伝えたくない」と、「見つめなければならない、知らなければならない、伝えなければならない」のリフレイン。フラナガン「奥の -
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黒人女性初のノーベル文学賞を受賞し、ピュリッツァー賞も受賞しているトニ・モリスン氏の代表作。
ここに描かれるのは奴隷制度時代の黒人たちの過酷な環境とそれを端とした母娘の壮絶な過去の出来事。表題「beloved(最愛の)」は逆説的であり、視点や時制を目まぐるしく切り替えながら語る物語は敢えて読者を混乱させ、その混乱は奴隷たちの記憶錯誤であり、自己の存在意義への投げかけにも通じる。本作品の根底には愛とアイデンティティがあり、モノや動物と同等の扱いを受けた彼彼女らの尊厳と平等の再生の物語である。
本書の訳者吉田氏のあとがきが大変よく、作品の理解を深めるため、モリスン氏への的確なインタビューを積極的に -
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自分を所有することを諦め、愛し感じ考えることを手放し、人間性を放棄した男性。自我を殺され、愛する子を護るため世界を抹消しようとした女性。
それぞれが誰かに助けられ、思い出すだけで胸が潰れてしまうほど忌まわしい過去を話せる相手、自分の身体がバラバラにならないよう繋ぎ止めてくれる誰かと、また生きる希望をみいだす。
それでも、過去は消えない。どうにもならない人生への慟哭や助けられなかったことへの懺悔。もっと愛したかった、もっと愛されたかった、もっと人生を愛したかった熱望は、時空をもこえて響いてくる。とても苦しい話だった。
語れない、語りたくないなかで、過去と現在を視覚的にも行き来しながら少しずつ全貌