「すべて正しくてその通りですね、という〝イジっちゃ駄目な人〟っているけど、 U 2もそうなってしまった。慈善活動もたくさんしてるのに、なんか鼻につくし、ロックンロール感がなくなっちゃったんだよな。ロックの良さをここまで感じないバンドもなかなかいないと思う。 U 2は正し過ぎるから、 U 2の前でロックなことを言ったら「間違ってる!」と怒られそうなんだよ。」
—『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!〜』永野著
「トレント・レズナーを一言で言うなら「天才」だろう。普通、『ザ・ダウンワード・スパイラル』みたいなアルバムは出せないと思うんだよね。ここまで突き詰めてできない。ちょっとバランスを考えてみたり、耳当たりの良いもの入れてみたり、他の人の目を気にしてみたりするものだと思うんだけど、この人にはそれが一切ない。自分が良いと思ってることを追求しきっちゃうヤバさみたいなものを感じるんだよね。悪く言えばワガママ、やりたい放題なんだけど、それが凄い、格好良いと思えてしまう。」
—『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!〜』永野著
「正直言うと、自分の中にトレント・レズナーへの憧れはある気がする。そういう妥協しない感じもそうだし、キープしない、安定しない凄さもそう。ナイン・インチ・ネイルズとしてのバランスなんか関係なく、奥さんのマリクイーン・マーンディグとのユニットにがっつりハマったり、急に映画音楽にハマったり。僕ですら憧れるんだから、多分ミュージシャンならトレント・レズナーになりたい人はいっぱいいるんじゃないかな。自分の保身だとか常識から逃れられないミュージシャンたちに、トレント・レズナーはめっちゃ羨ましがられてるはずだよ。」
—『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!〜』永野著
「勉強をしなかった自分が悪いのだけど、当時の僕は自分の置かれた環境を憎んだ。学校が嫌で嫌で仕方なかった。普通、そういう奴は非行に走ったり、ヤンキーにでもなるのだろうけど、学校が進学校で制服もあったので、僕はヤンキーになれなかった。良い学校の生徒がそんなことやってもボコボコにされるだけだからだ。ヤンキーにもなる資格がないし、でも勉強もできない。中学時代の僕は孤独だったんだと思う。今この歳になって、なんでこんなに孤独を抱えているのだろう、なんでこんなに独りぼっちの気持ちでずっといるのだろうと思っていたけど、考えてみたら中学の頃からすでにそうだったのかもしれない。」
—『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!〜』永野著
「良い学校に通っていたくせに、なんか精神はイギリスの労働者階級の気分だった。よくわからなかったくせに、「これが叫びだ!」なんて思ってた。」
—『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!〜』永野著
「サウンドに関しても、楽器や言葉よりも音とリズムで感情を揺さぶる、という体験が初めてだった。音だけでこうくるんだ、というのが格好良いと思ったんだ。でもサポートのミュージシャンはなんかパンクっぽい格好でギターを弾いてるし。音楽的にはテクノなのに、ロックミュージシャンみたいな雰囲気があって、ライヴもパンクっぽかった。そういう意味では、予備校生みたいで格好悪いケミカル・ブラザーズや、アーティスティック過ぎるダフト・パンクより、わかりやすくて格好良く、テクノの間口が広がった感じがする。」
—『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!〜』永野著
「ちょっと思うのが、スウェードって、性が倒錯してるというのをウリにしていたんだよね。同性愛っぽいフリをしたりとか、歌詞も同性愛とか近親相姦とかそういうことばっかり歌っていた。今の時代は、 LGBTQの文脈って「多様性を認めよう」「みんなを認めよう」という方向だけど、スウェードの頃って「俺同性愛かもしれないよ?」というのが「俺、他人と違うぜ」という魅力に転化していたんだと思う。「認めてくれ」じゃなく、イキっていたというか。「気をつけろよ?俺、同性愛かもしれないぞ?」みたいな。あれがなんか、不健康な魅力だったよなと思う。今はもう無理じゃん、そんなバンド。怒られるから。時代が健康的になりすぎた。 だから、スウェードが醸し出していた妖しさって、今はもう難しい。倒錯しているのがウリだったのに、「認めよう」と言われてしまう。だから、ロックの表現が 1個潰された感じがするんだ。「僕は君のお兄ちゃんのベッドで ~」みたいなことを言っても、「まあそういうのもありますからね」って言われてしまう。今はもう、初期スウェードみたいなのがカッコつける場所がないのかもしれない。」
—『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!〜』永野著
「当時の僕は学校が滅茶苦茶嫌いだった。自分は勉強できないし、クラス担任の教師も嫌いだったし、凄く頭の良い男の子がクラスで何かの時間にフォークギターでビートルズを爪弾いてるのも嫌いだった。本当だったらクラスの時間に楽器やるなんて駄目なはずなのに、その子が弾くのは許される。なぜかアリということになっていた。おそらくその子が勉強も良くできる子だったからだろう。あと、朝、始業前に全校生徒で校庭を走らされるという時間があったんだけど、それも嫌いだった。そのときに流れていたのが、ビートルズの「オール・マイ・ラヴィング」や「ミッシェル」。本当にもう、ビートルズが嫌になってしまっていた。爪弾くのは許されるし、校庭は走らされるし。一体ビートルズとは何なのだ。もちろん良い音楽だというのはわかっている。でもその頃は、本気でビートルズのことが嫌いだった。」
—『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!〜』永野著
「そんなとき、奉仕部の先生が「本当に格好良いのはローリング・ストーンズだ」って話をしてきたんだよね。ちょっと変わった先生だったんだけど、ローリング・ストーンズのことをいろいろ教えてくれて、僕らはそれを「はあ」とか言いながら聞いていた。先生が言うには、『スティール・ホイールズ』をリリースしたローリング・ストーンズがツアーで世界を回り、初めて日本にも来るらしい。そして実際に、冒頭で書いた通りストーンズの初来日公演に日本中が浮足立った。」
—『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!〜』永野著
「歌詞も悪趣味で良い。もともと歌詞的にはマリリン・マンソンは好きな方で、性的に倒錯してるスウェードとか、スローガン連呼のプロディジーも好きだけど、マンソンの悪魔な感じもベタで好きだった。やっぱり、強い言葉が好きなんだよね、僕は。「昨日君に逢って ~」とか「夢に向かって ~」とかどうでもいい歌詞は好きじゃなくて、なんかバツン!と言ってるのが好きなんだ。」
—『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!〜』永野著
「僕は歌詞で、正しいこととかちゃんとしたことを言われるのが嫌いなのかもしれない。だから格好良いなと思ったんだ。すべて正しくて崇高でツッコむところが一切ない今の U 2なんかより、この「モブシーン」みたいな酷いのが好きなんだよね。」
—『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!〜』永野著
「ひとつ思い出したことがあって、昔、マリリン・マンソンが出演するイベントがカトリック教徒から猛抗議を受けたことがあったんです。「アメリカの悪魔崇拝者のバンド」なんて呼ばれていて、ちょうどその頃にマリリン・マンソンを知った友達が、もうドン引きしてたんです。本気で忌み嫌われて攻撃されちゃうバンドなんだ、って。キッスじゃないんだ、って。でも僕は、申し訳ないけどそういう〝本物〟感は好きなんですよね。」
—『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!〜』永野著
「音楽に普通は必要ないと思うんです。だからこそ、音楽に助けられるし音楽に救われる。「俺は子供ができて働いてそいつを食わせる。それがリアル」なんて歌う人もいます。凄く嫌な言い方をさせてもらうと、言い訳にしか聴こえないんです。自分の普通さをいいように言ってるだけにしか聞こえないんです。だけどロックには、本気の「無理」と「嘘」があります。それで行き過ぎて死んじゃう人が愛おしい。」
—『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!〜』永野著
「あるときから、サラリーマンの方が大変なんだよっていう風潮が始まったじゃないですか。「あのね、知ってる? ステージでこんなことやってる連中より、サラリーマンやってて嫌なこと我慢して、嫌な言葉浴びて、それでも家族を食わせてる、そいつこそが一番ロックなんだぜ」って、僕やっぱり思わないんです。「え、今説教した?」みたいに思います。いつからそうなってしまったんでしょう。今、例えば「サラリーマンなんてやりたくねー」なんて絶対に言えません。そんなこと言おうものなら、「いやいや、どこにいてもね、何しててもね、表現ってできるから。みんなそうやってるから」とか返ってきます。いやわかるんだけどそれは、でも一回戻そうぜ、と思います。「下げたくない頭を下げて、いろんなものを必死で守るサラリーマンが、一番ロックなんだよ」って、いやロックじゃなくないですか? ロックじゃないんですよ、偉いけど。凄く立派だけど、ロックではないんです。やっぱり、同性愛のフリして強く見せようとしたブレット・アンダーソンのほうがロックなんです。デヴィッド・ボウイのプロデュースを意味ないと断ったリアム・ハウレットのほうがロックなんです。」
—『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!〜』永野著