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酒村 ゆっけ、
酒を愛し、酒に愛される孤独な女。新卒半年で仕事を辞め、そのままネオ無職を全う中。引っ込み思案で、人見知りを極めているけれど酒がそばにいてくれるから大丈夫。たくさんの酒彼氏に囲まれて生きている。食べること、映画や本、そして美味しいお酒に溺れる毎日。そんな酒との生活を文章に綴り、YouTubeにて酒テロ動画を発信している。気付けば、画面越しのたくさんの乾杯仲間たちに囲まれていた。
酒に溺れた人魚姫、海の仲間を食い散らかす
by 酒村 ゆっけ、
フラワーボーイは世界中の誰よりも花を心の底から愛していた。いつでも花を持ち歩くことはもちろん、花への愛が故に突拍子もない行動を繰り返していた。 フラワーボーイは、花に対して桁外れの思いと熱量、そして並々ならぬ知識を持つので、花たちとのこぼれ話を綴る彼のSNSにはそれなりのフォロワーがついていた。 普通に生活していればモテるんだろうなというくらい目鼻立ちがはっきりしているので、花と戯れる写真を投稿すれば、すぐにそこそこの数の反応があった。彼に会いたいとメッセージを送るファンやインフルエンサーも少なくなかった。 しかし、一度会ってしまうと最後。その後、彼ともう一度会おうという人は現れない。
実は彼には、通りすがりによさそうな土を見つけたら花の種を植える習慣があった。公園の花壇、人の家の庭、そんなことはお構いなしだ。 こんな調子だから、人と会うたびにフォロワーはぽつりぽつりと減っていくが、一方で花言葉の知識や花と彼の写真を投稿するたびに増えていくので、誰もその実態に気付かないのだった。 そうそう、フラワーボーイの誕生日会のときの、あの凍りついた瞬間は今でも忘れられない。 フォロワーであるファンたちが、彼の誕生日会を開きたいから来てほしいと言うので、彼は快く受け入れた。
当の花たちは彼の異常な愛に怯えていた。 花たちにとって彼は不気味だった。嫌悪すらしていた。彼の数々の奇行のせいで、花に対するマイナスイメージを抱く人たちが確実に増えているからだ。 フラワーボーイは、特に美しく咲いた好みの花を、お気に入りの白い花瓶にいけることにしていたが、花たちはそれを「地獄行き」と呼んでいた。
「わかっていたけど、僕はきっとそれを忘れていたんだ。どちらかというと、これが、今僕の目に映るこれが本当の世界なんだね。僕って人間の社会に長くいすぎたけど、やっぱりここが僕の居場所だったんだ」 フラワーボーイは、ひたすらに空を眺め続ける。太陽と雲の流れがいつもよりとても速く感じられる。
──僕は、彼女の一番の理解者。誰よりもそばで彼女のことを支えている(つもり)。動くことも話すこともなにもできないけれど、彼女に愛を与えることは可能だ。言葉はなくても愛は存在するんだって、どこかの誰かが言っていた気がする。 くぅーは、今日も暗闇で彼女の寝顔をじっと眺める。 『君はきっとトップアイドルになれるヨ。絶対ニネ』 彼女の願いが叶いますようにと、くぅーは毎晩星に願うのだった。 ぬいぐるみには、不思議な力が宿っているといわれる。くぅーもそのうちの一つかもしれない。彼女の「トップアイドルになりたい」という願いはすぐに叶えられるものじゃないけれど、些細な願いならくぅーが祈れば不思議なことに、すぐに叶うことが多かった。 少しは彼女の支えとして役に立っているだろうか。 『ゆっくりおやすみネ』と、今日もつぶらな黒い瞳で平和に感謝した。
父親のことはなにもわからない。 父親の名前を出したことが過去に一度だけあったが、その名を聞いた瞬間、母親は今まで見たことがないくらい悲しげな、触れてはいけない扉を開いてしまったかのような表情を浮かべた。彼はそれから二度と、父親について尋ねることはなかった。 すがれるものも頼れる人もなにもなかった母親は、聞いたことのない宗教にのめり込むようになった。それでも母親は彼女なりに精一杯、まだ幼かった石田に愛情を注いでくれていたのを彼は知っていたし、責める気にはならなかった。
「最初ありえないと思っていたけど、こういう生き方もありなのかも」 「嫌なことばかりの人生を断ち切るためにも参考にしたい」 「怖いもの見たさで再生、気付けば片手にゴミ袋握ってた」