2006年に初版、2008年にペーパーバック版が販売された、Henry Jenkins『Convergence Culture:Where Old and New Media Collide』の邦訳書。邦訳が出版された2021年の時点から見ると、15年以上前に存在していたメディアの風景は「過ぎ去った
...続きを読むもの」のような印象を持つものもあるし、メディアテクノロジーが可能にする市民参加についてやや楽観的なのではないか、と思える部分もある。
しかしそれでも本書は、2023年の現在でも、読む価値がある。いや、時を隔てた今だからこそ、ここに記述されたファンたちの活動とメディア産業、そして宗教右派を含めた様々な宗教や政治との関わりの具体的なありように、学ぶべきところがあるように思う。
原題の副題「Where Old and New Media Collide(旧メディアと新メディアが衝突するところ)」にあるように、本書で焦点が当てられるのは、2000年代前半に旧メディアと新メディアとが出会い、混在する中で出現した様々な動きである。
著作権をめぐる攻防とそれを逆手にとったような企業戦略、知識コミュニティ化したブランドファンたちと企業の関係、「何を(どのようなメディアで、どのように発話されたものを)政治的に『正当な』発言とするか」をめぐる攻防など、どれも、現在も、対象や文脈を変えながら生じている様々な出会いや衝突を想起させるものばかりだ。
SNSの隆盛以降、新メディアの動向とその活用のされ方にばかり注目があたりがちな現在だからこそ、あらためて、旧メディアと新メディアとがいかに出会い、衝突し、そこで何がおきているのか、を考える必要があるように思う。
本書はその議論の出発点を与えてくれるのではないか。