上巻での多種多様な事物の積み重ねからの、人類の文明の堆積を思わせるスペクタルな下巻でした。
人間にはこれまでの歴史が積み重ねた遺伝的な特性である 普遍的な社会性一式 ソーシャル・スイート がある。
=自然選択によって形成され、人間の遺伝子にコードされているもの
何故そのような特性が遺伝子のコードに刻まれたのかは、社会的な種として連綿たる歴史を紡いだ結果だ。
これはただ事実であるだけではなく、私たちの幸せの源でもある。
そしてそれは全人類のDNAの少なくとも99%は完全に同じであり、私たちが共有する人間性の深い源を特定することによって本当の正義を育むことに他ならない。
弁社会論 で世界を見る。
人間の中に根本的な善が備わっているのを認識すればこそのものである。
現代の社会は進化的な青写真の表面を 文明 という緑青で覆っているようなものだ。
人類という種は、友情、協力、社会的学習に依存するように進化した。
烈火のような競争と暴力から生まれたのだとしても。
社会的動物が持つ内集団バイアスやそれに伴う偏見は、正しく連携をとるのに絶対に欠かせない認知技能がもたらす。
つまり有益な能力の別方向に進化した一形態である。
ニコラス・クリスタキスが定義する 協力 とは
集団全員に利益をもたらす結果に貢献することだ。
集団の他のメンバーがその結果に貢献したかどうかは関係ないとされる。
血縁選択、直接互恵性、間接互恵性、処罰が協力を促すが、人間は 貢献した人(協力者)、貢献しない人(フリーライダー)、孤独者の各タイプに分かれ、各タイプそれぞれが天敵を打ちまかし消滅も支配もすることができない。
そして必然的に多様性が維持される。
社会的集団を形成する独特な理由の一つは、学習の強化が可能になるからだ。社会的学習はかくも効率的なものであり、さらに効率化されるのが教えるという行為である。
クリスタキスの定義する 教える とは 経験のない個体を前にして行われ、教える側にコストを払わせるか、そうでなくとも直接の利益を何ももたらさないが、学ぶ側が単独で学ぶ場合よりと効率的に情報や技能を獲得できるようにしてやる行動だ。
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集団に典型的なものであり、かつ社会的に伝達される
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ボールド・ウィン効果 学習結果が遺伝する
もともとは非遺伝性だった行動が、遺伝子にコードされた行動に変わる。
他人とのつながりや協力があるからこそ、人間は他人から学ぶことができ、それをまた土台として次は自分から他人に教えることへの興味と意欲を進化させる。
→利他行動→文化
文化は人間においては非常に複雑で累積的なものにもなる。場所と時間を超えて人から人へと伝えてきた。社会性一式が伝達可能な文化を築く才能を支え、遺伝的継承と並ぶ、交差する第二の継承システムの基盤をつくるのだ。
私たちは相互に影響を及ぼす遺伝子と文化をともに次の世代に伝達する。
遺伝子と文化をあわせて考える見方には、3つの重要な要素が含まれている。
1.文化を生み育てる人間の才能は、それ自体が自然選択によって形成された適応だ。認知面と心理面の特徴を進化させ、文化を出現させる能力が自分達にあれば有益なことであり、したがってその能力を進化させやすい。
2.文化そのものが進化できる。次世代というよりも同じ世代間での水平な伝達がおこりうるという特別な特徴がある。
3.遺伝子が文化に作用し、文化もまた遺伝子に作用している。
自然から分離した人間
→現在は科学者がますます人間の特質を動物に見出している
アリストテレス
キウィタスの概念、合理的な原則と言語の付与
人間を動物界の上に立たせる固有の特徴である
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トマス・アクィナス
神学大全、対異教徒大全
人間と自然とが階層関係にある、神は自然界を人間に支配させるために創造した
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フランシス・ベーコン
自然哲学
自然界は人間がそれらの特別な能力を使って研究するために存在する
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科学革命 17C
ガリレオ、ニュートン
科学的探究により自然からその真髄である霊性が剥ぎ取られる
人間は科学を通じて自然界に対する支配力を行使すべきである
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ジョン・ロック
人間が財産を有効に保護し、倫理的な生活をおくるためには、自然状態から脱して政治的な社会に、まとまるための契約を設けなければならない
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ルネ・デカルト
二元論の概念提示
人間の精神と肉体がそれぞれに異なる領域であり、動物は理性を持てない
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イマヌエル・カント
行為者性と理性を行使できる人間は、それゆえに独特の道徳的な存在である
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デイヴィッド・ヒューム
自然についての推論能力や観察能力を持つことではなく、共感能力を持つことにもとづいて人間を自然界から切り離した
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18C 産業革命
新しいテクノロジーによる、より一層の自然制御を好ましく思う一方、
またこの支配を不穏なもの、自然の純粋な何かを潜在的に脅かすものとみなした
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ジャン・ジャック・ルソー
ヒュームと正反対の見方
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ラルフ・ウォルドー・エマソン 自然論
ヘンリー・デイヴィッド・ソロー ウォールデン
超越主義の哲学に自然界を取り込む
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ダーウィン
人間の由来
私たちの動物への近さこそが、私たちに共通の人間性を明らかにする
クリスタキスに対しての反論(生物学と人間行動を統合することに対しての抵抗)
反論1.実証主義
科学的研究を通じてしか真実は知り得ず、その為には立証可能で再現可能な形で論理と数学を自然界に適用しなければならない。
→科学的洞察の完全性を極端に過信するのは問題だが、実証主義をまるごと拒絶するのもやはり問題がある。
反論2.還元主義
遺伝子にコードされた社会性一式へ単純化し全てが還元されている
→創発 という過程を無視している
各部分からなる総体に、各部分にはない特性が現れる。
社会に関する限り全体は各部分の総和より大きくなること、そして全体を構成する各要素には存在しない独自の特徴を持つようになる。
人の集まりには、各個人の形質の総和を超えた資質がある。これを認識した上で、集合的な現象に進化的な基盤があることを受け入れれば、協力や社会的ネットワークのような創発的な資質が生じうるのかが見えてくる。
社会の遺伝的な基盤に注目するのはただの還元主義どころではなく、むしろ社会生活についての真に全体論的な理解を得るための土台をつくっている。
反論3.本質主義
物質世界の事物はそれぞれ一連の基本的な特性を持ち、その特性がそれをその事物たらしめてるいる。事物の特定の例を見るのではなく、その先を見てその事物の変わらない本質を見つけようとする。
→社会に関する限り、本質主義的な現実を受け入れつつも、社会生活を彩る極めて多様なものがたくさん社会性一式を取り巻いていて、しかもそれが社会生活を円滑にしてもいるのだと認めることは可能だと考えている。
反論4.決定論
現在の状態はその前の状態によって完全に決定される。
→社会は人間の遺伝子によって優位に決定される。ある特定の人間行動の流れを生物学が、完全に支配しないまでも誘導されることはありうる。
マズローの欲求階層説
基本的なものから最も高度なものへと
生理的欲求、安全、所属、承認、自己実現 の順に並べた。
→この欲求と動機の順序は逆にされるべきである。
後者が前者の基盤である。種としての人間は、そうした高位の欲求を持つように進化してきた。そしてこの進化はもっと効率的に満たせるようにするためである。
クリスタキスが指摘する人類へ重大な影響力を持ちそうなテクノロジーが2つある。
1.人工知能
2.クリスパー
どちらも人間の持つ社会性一式への影響を懸念している。
1.人間に新しいことを学ばせる、学習させる、また人間とは異なった利他行動についての考え方を会得するかも知れない。
2.際限のない遺伝子組み換えによるディストピア的な未来予想
→新しい契約で社会性一式を尊重するように定める