贔屓にしている落語家がいる。その人が常々口にしているのと同じ考えが描かれていると知り読んでみた。
演芸写真家の橘氏と昇太、一之輔、鶴瓶、宮治、志の輔の5人との対談。
対談本って安易で退屈なものが多いが、この本は読みやすくて内容が濃い。
昇太
p41
落語ファンが落語を楽しむ秘訣は? の答えとして
*昇太:余計な知識を入れないことかな。僕も落語ファンだったときに、だんだん笑えなくなってくるんですよ、僕がね。笑わなくなったんですよ。なぜかと言うとね、「今日はこの人なんのネタやるのかな?」とか「このねたですか」とかね。あるいは、「このネタ、誰から習ったのかな?」とか。
橘:批評家っぽくなってくるんですね。
昇太:落語って簡単なんで、すぐ評論家になれるんだよ。だから、なるべく評論家にならないっていうのが、落語を楽しむ一番の秘訣だと思う。
p121
*鶴瓶:僕、「縁は努力や」と言ってるんです。やっぱり粘着しないと、簡単にはがれたりはずれてしまったり、もう一生会わへんかったりする。やっぱりお礼とか、あたり前のことをあたり前のようにできないと、縁は保てないですよね。みな、忘れてるんですよ、それを。自分で円を薄くして、はがれやすくしてる。縁は、やっぱり努力なの。
p133
さまざまなエンターテインメントの中で落語だけにある凄さは?と聞かれて。
*落語は、特定の人間がそこへ集まって、黙って聴こうっていう空気をつくらないとできないという弱さがありますよね。~~
落語の場合は、いかにお客さんを恥ずかしがらせないように(※落語家がすべったらお客さんもすべったみたいになって恥ずかしい)空間をつくるかが大事。寄席に行くと、次の人が、次の人がいうて楽屋で次々と出番を持ってる。それぞれが自覚を持って最初の人はこれ、2番目の人はこれする、その後にバトンつなぐっていう、そのすごさはあります。だから、寄席に出る人全員が、ちゃんと順番わかって、自分の役割をちゃんとわかってたら、すごいミュージカルですよ。ド頭からトリまでの。中トリも。ただ、一人でもそれがわからん奴がおったら乱れますよね。だから、そのルールがわかってることがすごく大事なんですよ。
「お前、そこやねんな。わかった。ほんだら僕はこういこう」いうて、バトンをつないでいくと強いですよ。そこに一人でもわからん奴がおって、ただ自分だけでと0いう奴がおったら、そんな脆いもんはないですよ。
落語の強さは、やっぱりわかってる奴がいかに順番、役割の自覚を持って最後のトリに渡していくかって。そんなええリレーはないですよ、あんまり。
志の輔
p206
*これは、あくまで私の〝個人の感想”なんですけど(笑)、落語って、日本人ならではの人との付き合い方だとか、つつましくても楽しく暮らすための、ちょっとしたヒントが詰まってると思うんですよ。~~
落語家のほうも、師匠や先輩から教わった落語が実際に高座でうけたとき「先人たちが江戸時代からずっとつないできた、日本人が日本人らしく幸せに、のんきに生きられる方法論が書いてある、魔法のようなお話。それが落語なんだ」ってことに気がつくんです。