私の信頼する書評家 藤田香織氏が朝日新聞書評欄で「打率十割」と紹介した一冊。
古矢永塔子初読。5話収録。
1話目の「あなたのママじゃない」は、読み終えて、あれ?、と思った。道に迷ってぐるっと回って、また同じところに出てきてしまった感覚。でも2度目に見る景色なので、既視感と、どこで間違えてしまったん
...続きを読むだろう、と首を捻る感じ。
2話目で、藤田氏の言う意味がようやく理解でき、なるほどそういうことか!と膝を打つ。
今度はまるで違う場所に出てきてしまった感覚。「BE MY BABY」母として、ちょっといいよねとニヤけてしまう話。
3話目「デイドリームビリーバー」はイチオシで面白かった。次こそはどこかにあるはずの道案内を見落とすまいと、意気揚々と読み始めたのも束の間、物語に引き込まれ、気づいた時には「うわーまたか!」と身悶えた。
仕掛けもさることながら、純粋に、胸が熱くなる物語。
どれも確実にページを遡らずにいられない、恐るべし古矢永ワールド。
でもからくりだけじゃない。どの物語も、一つ一つは十分悲劇、なのにどこか底が抜けたような明るさが漂う。「胸を張って生きなよ」というメッセージを感じる。「こんな小説が読みたかったのだ」との藤田氏の言葉に大いに頷く。