メディアと大衆、メディアと国家の関係性が説明されている。国によってメディアのポジションや意義が異なる点が興味深かった。
◯ドイツ
欧州各国と比較しても、メディアの信頼度は高い。ナチスの反省から「リベラル・コンセンサス」が形成され、多くのメディアは保守的な発言を忌避する。しかし難民危機、欧州統合への
...続きを読む懸念から、極右勢力の台頭も目立ち、リベラル派メディアの地位を脅かす存在にまでなっている。
◯イギリス
階級社会という特徴がメディアにもよく出ている。イギリスでは発行部数の多さ=信頼できるメディアという方程式にはならず、むしろ反比例しており、ジャーナリズムの質が高いThe Guardianなどは発行部数がかなり少ない。一方ゴシップ紙と呼ばれるDaily Mailなどは信頼性が低く、情報の精度よりも商業的な注目度を重視するため、いわるゆゴシップ的な煽りも多く、右派は労働者階級の受け皿となっている。このように新聞社によってイデオロギーがはっきりと分かれてるが、国内で最も信頼されているBBCは公平・中立性を保っている。ただ中立性に固執するあまり、時に正確な情報伝達ができていないと批判されることもあり、EU離脱の際も問題となった。
◯アメリカ
国内ではテレビの影響力は依然として健在しているが、ソーシャルメディアの普及により、メディアの構造が劇的に変わった。2016年の大統領選の際、トランプはTwitterを利用して扇動的な発信を行い、知名度を上げ続け大統領の座に上り詰めた。CNNを「フェイクニュース」と断罪する様子も印象的だったが、他者を攻撃する用途で信頼性について言及する場面も増える。SNSの情報の信頼性は非常に不透明で、何が「フェイク」なのか?、そもそも「フェイク」の定義とは?といった問題に国全体が直面することになった。発行時期的に本書には書かれていなかったが、2020年の大統領選では、SNSが主流メディアといってもいいほど活用がなされ、SNS企業がフェイクニュースを規制するほどにも事態は発展したことは記憶に新しい。新興メディアによって社会が左右されている。
◯日本
日本でもメディアに対する不信はあるものの、欧米諸国と比較すると、その構造が少しが異なる。日本の場合は、「無関心」による不信とされており、そもそもメディアを通した政治参画・市民参画といったケースが少ない。「マイ・メディア」を持つことなく、無関与な態度で現代情報化社会をやり過ごそうという風潮が存在する。