日記を見るにどうやら一か月以上、この一冊を読んでいたらしい。P・ルクーターとJ・バーレサンの共著であり、小林力訳「スパイス、爆薬、医薬品 世界史を変えた17の化学物質」だ。初めは表紙がカッコいいと思って二階の本棚に飾っておいたのだが、次第にいつまでも置いておくことの罪悪感が芽生え始め、一度手を付けたら非常に面白くて堪能してしまった。裏表紙を見たら定価が2600円+税金ということで、かなり高価な部類に入る著書なのだが、メルカリで買ったため半額くらいだったと思われる。タイトルから想像できるように化学物質と世界史のつながりを描いていて、全17章に分かれているのだが、このチョイスがすごくいい。本当に日常生活に溶け込んでいる物質から取り上げていって、次の物質を連想できるような構成になっている。例えば大航海時代を切り開いたスパイスの刺激物質であるピぺリンから、同時期に多発した壊血病の原因物質であるアスコルビン酸、ビタミンCを取り上げる。さらに大航海時代の奴隷貿易で莫大な利益を上げた砂糖の生成という観点からグルコース、グルコースの集合体ということでセルロース、セルロースはニトロ基が付くと起爆性が生じることから爆薬、主にニトロ化合物の話になっていく。こんな感じで、基本的に話が繋がっているから、読んでいて小気味いい。これが砂糖の話から爆薬の話になって、アスコルビン酸の話からモルフィネの話にでもなったら情緒が不安定で読みづらいことこの上ないが、そういう懸念はない。何よりもベースが世界史だから、その時点でストーリー性があって面白い。ただ思うのは、もう少し世界史の知識があればより楽しめたのだろうと思う。だから将来的に世界史を学んでから、改めて読み直したい本だ。あと非常にいいと思ったのは、化学構造式が明記されており、そのたびに読者に丁寧な説明が施されていたことだ。あくまでも一般書だから専門的な用語はあまり使わず、図解してくれている。いままでいろいろな本を読んだが、この本ほど図というものを巧みに使用している本はなかった。だからある意味では科学の本でもあるし、世界史の本でもあるし、一般の書でもある。ただそこに壁を作っていないので、新しい知識に触れるという新鮮さもあって、化学の入門という感覚もあり、非常に本作りがうまいと思った。それでいて訳者も上手だ。原文は読んでいないが、和訳に柔らかみがあり、図解も相まって硬いながらも柔らかい本になっている。歴史の中で化学物質のような微小な存在を意識することはあまりないのだが、生物兵器のようなものが作られ使用までされたことを考えると、その存在は極めて重要である。そのことに気づかせてくれるような本だ。本当に面白かった。