青木千鶴の作品一覧
「青木千鶴」の「エレベーター」「カンパニー・マン」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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「青木千鶴」の「エレベーター」「カンパニー・マン」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
ロバート ジャクソン ベネット著『カンパニー・マン』、デイヴィッド・ゴードン著『二流小説家』、ブライアン・グルーリー著『湖は餓えて煙る 』など多くの作品で翻訳を手がける。
小説・文芸
Posted by ブクログ
これは面白かった。
本筋とは別にジャンルを超えて幾重にも、マトリョーシカのように話が組込まれている。調べてみるとなんと、とっくに読まれている大評判のものだった。やっぱりどこからか今頃?という声が……
語り手(ハリー・ブロック)は、ミステリ、ポルノ、ヴァンパイア小説、SFなどを生活のために書いてきた、それでやっと糊口をしのいでいる冴えない中年作家。ジャンルが変われば名前も変えなくてはいけない。それぞれの本に貼る肖像写真を苦し紛れにあの手この手で、母親の写真まで細工して作り出すところがおかしい。
アルバイトに高校生の家庭教師までしている。できない子供には馬鹿にされるが、できる生徒はマネージャーができるほどに優秀でハリーに何かと助言をして、教える立場ながら教えられることが多いという自虐味たっぷりの一人称。
そこに80日後に死刑になる連続殺人鬼から、(彼は殺した女を写真に撮り警察に送り付けていた)要求に合格すれば告白本を書いて欲しいと依頼が来る。
迷った末にベストセラー作家を夢見て(結局は折れて)書くことを引き受け面会に行くが、殺人犯は知的で狡猾だった。
訳のせいか、作者のせいかとても読みやすく難解なところはない。それでいて、ハリーが今までに書いた作品(別人を装うためジャンルごとにストーリーに合わせて文体を作っている )の引用や、作者の生き方、思想、文学論もありコレがまた恐れ入るほど面白い。このバックインバック的(ハンドバックに入れる小物整理用バックです笑)物語がこれを読むだけでも作者の才能がわかるくらい。
この作者もミステリ好きで(そう書いている)、名の知れた探偵や刑事が織り込まれていて、ひょんなところで知ったお名前にお会いして、と言う具合で、読者サービスもちょっと嬉しい。
さすがポルノ小説を書いていることでもあり、話の中には露骨なシーンや言葉も出て映画化するならきっと15R。
ただ、ミステリには(ほとんど)始めがあって終わりがある。型どおり犯罪が起きて解決する、それはそうだが、そうやすやすと型にはまってはいない(と作者が書いているがそのとおり)こういうところも型破りな、変わったスタイルで面白い。
積読整理も捨てたものではないです(堀起こしながらニヤケて自画自賛)
Posted by ブクログ
兄ショーンを銃で殺されてしまったウィルは、掟に従って仇を討とうと考える。
そして、ショーンが隠していた拳銃を隠し持って、母に見つからないように、自宅のある8階から、こっそり下りのエレベーターに乗り込む。
誰にも会いたくない状況なのに乗り込んできた男はジロジロと自分を見る。
俺がわからないのか?わかりません。バックだった。ショーンの兄貴分。
なかなか次の階につかないエレベーター、次々と現れる、もう会えないはずだった人々。彼らとの会話から、ウィルはだんだんと自分のやろうとしている事の意味を考える。
詩の形式で語られる物語。読みやすいが、深く心に落ちていく言葉。
銃社会のアメリカの悲惨な現実とその犠牲となった子どもたちに向けて書かれた、と思う。自らも敵討ちを計画したことのある作者だからこその現実感でウィルの悲しみや苦しさが描かれる。
最後の一言がとても効いている。
苦しくても踏みとどまれ!と呼びかけている。人それぞれに、選ぶ岐路が現れた時、どちらを選ぶかちゃんと考えろと。
Posted by ブクログ
おおいに楽しめる小説だった。まず『二流小説家』という邦題がなんともよろしい。原題では「The Serialist」(連載作家)となっている。主人公であり語り部である「ぼく」は、大衆雑誌にヴァンパイア系小説やポルノ小説を書いたり、バイトで家庭教師をしたりと気ままに暮らす「二流小説家」。その「二流小説家」がある日、連続殺人鬼で死刑が迫る囚人からファンレターを受け、独占の告白本執筆を持ちかけられるが・・・という物語。ミステリー小説なのに私小説風で、最初のうちは「ライ麦畑でつかまえて」のような感触を持ったが、主人公の書く連載作品が微妙な関連性を示唆しつつ並行して挿入され、読んでいるうちに「ぼく」の実在感覚が幻惑されていく巧みな構成に入る。そして「ミステリー」らしく、ちゃんと猟奇連続殺人に「ぼく」は巻き込まれ、作家から探偵に流れが変わり、本格推理を気取った「読者への挑戦状」まで用意されている。やがて明らかになるのは連続殺人犯人と被害者たち、そして「ぼく」の皮肉で悲しい人生の交錯。物語の横軸には愛と別れが綴られる。残されたのは小説家としての「ぼく」独り。そんな終わり方に、なぜかハードボイルドな爽快さが感じられた。評判通りの傑作。
Posted by ブクログ
圧倒的な自然描写力、とはこういう本のことを言うのだろう。作者はヴァージニア州の山の中で育ち、ヴァージニア大学で法学と美術額を修め、ネイチャー系のライターをしながらこの初の創作に取り組んだそうである。
主人公は作者の想いを乗せたワイルドな主人公。メキシコ国境の砂漠での密売人の過去を振り捨てて偽名でアパラチア山脈で自然保護管理の職につき世捨人同然の孤独な生活を送っている。発端となったのは熊の死骸だった。皮をはがされ、熊胆(くまのい)や熊の手が取り出された残虐な殺戮。甘い蜜の罠に、犬たちの首輪に仕掛けられたGPS。現代の山の中での犯罪に、古いタイプの男が挑む。パートナーは、あからさまな暴力の犠牲となったが再生を目指す前任者のタフなる女性。
山間の町では、あからさまな差別や暴力が溢れ、どこの酒場にも濁った倦怠感が流れる。銃器を整え、車を修理し、バンガローを立て直す、手作りなアパラチア生活。
熊殺しの捜査として山中に二人が分け入る描写は凄まじい。ウィルダネス。木、草、鳥、獣たちの描写密度が凄い。流れゆく川は滝となり断崖をロープを使って下る。
メキシコ時代の過去が各所に挿入される。暴力と裏切りと愛した女の死。まるでドン・ウィンズロウの描いたメキシコ麻薬戦争の断面そのもの。
パートナーの喪失と傷心。そして投獄と脱出。過去からの使者。麻薬カルテルの手が迫る。死神の顔をした殺し屋がバージニアに辿り着く。追跡者の暴力のすさまじさ。殺戮のプロフェッショナル。熊殺しを追いながら、過去からの亡霊に命を狙われることで息詰まる時間が、本書の後半を埋める。
緻密な自然描写とそこに生きる生活の活写などが前半で展開され、何が起こるのか不明ながら不穏さだけが全編を覆う、ミステリアスな試走から、畳みかけるアクションの後半へと続く主人公の心の内外の描写が秀逸極まりない。2019年アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞受賞、他各誌でも話題の作品として取り上げられたらしい。山育ちの新人作家は、本書に関連する二作品を現在執筆中とある。山や自然の好きなワイルド派読者にはうってつけの作家の登場を素直に歓びたい。