本書は、『アドラー博士の男の子に「自信」をつける育て方』を改題して文庫化したものである。アドラー心理学は、性別より個人の違いに重点を置いたものであるという。しかしながら、男女には生物学的な「違い」があり、その違いを認め合い、協力して生きていくことにアドラー博士は価値を置かれている。本書では、「男の子」にフォーカスを当て、男の子を育てる親に子育てのヒントを示してくれるものである。今後、男の子が今よりも複雑で厳しい競争社会で生きる上で、失敗にくじけない心、自分は何度でも立ち上がれるという根源的な自信をつけてあげることが、欠かせないと著者は考えられている。男の子の育て方に焦点を当てた書籍はあまり目にすることはなく、とても勉強になった。本書のおわりにで、男の子の「自信」は幸せな人生の必須条件と述べられている。私自身も「自信を持って自分ならできる」という気持ちを子どもに持ってもらえるよう子育てをしていきたい。
1. 「積極的に切り開いていく力」を引き出すために
本書でいう「自信」とは「自己肯定感」のこと。これは、「自分は存在しているだけで価値があるのだ」という無条件の自信であり、「自分を好きになる」ということ。アドラー心理学では、この「自分を好きになる」ことがすべての基本になる。本当の自信は、人と自分を比較して優越感も劣等感も持たない。「失敗しても自分は大丈夫、何度でも立ち上がれる」という自分への確固たる信頼感である。
男の子に自信をつけ、意欲的な子に育てるには?①ラブ・タスク、②フレンドリー・タスク、③ワーク・タスクの3つのタスク(課題)があるという。①ではたっぷり愛されるという課題(両親の愛情を実感させることが大切)、②では友だちとうまく関係を築くという課題(両親より広い枠組みで他者の承認を得る)、③では様々な場面でいきる知恵を学ぶという課題(勉強だけでなく、得た知識を社会に役立てること)。これらの課題に向き合い、親、友だち、広い社会に存在を認められるという実感を段階的に得ていくことで、男の子は自信を持っていきていけるようになる。
2. お母さんの役割、お父さんの役割
親は、大事な子どもを守り抜く自信だけは失わないようにする。「大丈夫、本当に困ったときには、お母さんやお父さんが助けてくれる」というゆるぎない安心感があってこそ、男の子はすくすく成長し、やがて自信を持って社会に飛び立っていける。子育ては父親と母親で協力するが、それぞれのやり方で子どもに関わる。父親の強さ、大きさ、存在感を子どもと直に接して感じさせることはとても重要である。
3. 「子どものがんばり」にはちゃんと理由がある
親から期待されない子どもほど悲しいものはない。期待することはプレッシャーをかけることでなく、自信と意欲のある男の子を育てるために欠かせない要素である。子どもには遠慮せずにどんどん期待しよう。具体的には?YouメッセージではなくIメッセージで伝えたほうがいい。例えば、「~してくれたら、私(父/母)はうれしい」など、「そうなったら自分はうれしい」という親の希望を素直に伝えるが、押しつけはしない。最後は子どもが決断する余地を残す。親がどういう期待を抱いているかだけ素直に伝えることで、子どもにプレッシャーをかけず、「自分は望まれ、期待されて生まれてきたのだ」という自信を与えることができる。
4. 大きく伸びる”きっかけ”は小さな自信の積み重ねから
アドラー心理学では「子育てはテクニックである」と考える。つまり、知っているかどうかが重要であるということ。子育ては「足し算」である。子どもの得意なこと、できることに目を向けて、それを足していく。アドラー心理学では、目標を持つことは重視するが、達成されたかどうかは重要視しない。目標に向かって一生懸命に取り組んだという、そのプロセスを大事に考える。例えば、100点をとるという目標を持ち、そのために努力してみようと思うことが尊いことで、がっかりした顔を見たくない親心で「80点くらいにしておけば」と言ってはならない。「とれたらいいね」といって受け止めてあげる。結果は気にしない。「一生懸命やれたね」とほめてあげる。そうすれば、子どもは自分を「一生懸命やれるんだ」と考え、自信と意欲を持てるようになる。その他、以下に4章の要点(勇気づけるテクニック)を記す。
・できないことではなく、できることに注目する。
・結果ではなく、挑戦したプロセスを認める。
・命令ではなく、Iメッセージで提案してみる。
・人と対立するより、交渉することを教える。
・どんな性格の人間にも、価値があると教える。
5. 「自分で考えて動く力」を育てる三つの柱
①失敗:子どもの力を信じて失敗させる勇気、そして失敗の後に再チャレンジをさせる勇気を持つ。何度失敗しても大丈夫だということを、実体験を通じて伝える。
②我慢:子どもがほしい物をあえて与えないためには知恵を絞らなくてはいけないが、「ほしい」という欲望を我慢できたこと、それを親に認められたことを通じて、子どもはまた一つ、自信を得る。ほしい物は、子どもが「ほしい」と思ってからすぐに手に入る状況は避け、あきらめさせるのではなく、待たせることが有効である。子どもは期待に胸を膨らませながら、買ってもらえた暁にはどうやって遊ぼうか、想像を繰り返す。待つ時間を楽しむことである。テストで100点とったらほしい物を買ってあげるは間違い(100点とほしい物は本質的に関係ない)。
③協力:人というのは、根本的に他人に迷惑をかけて生きている。アドラー心理学が最も重要視するのが「共同体感覚」。これは、自分は人が集まる共同体の中で生きていて、そこでは人に迷惑をかけざるをえないからこそ、そのお返しとして、自分にできること、人の役に立つことをするという感覚である。人とのつながりを見失いがちな現代だからこそ、子どもが社会の中で生きていけるように、親は意識的に共同体感覚を育ててあげる必要がある。子どもは、社会的な期待に応えることで(公と私の関係がうまく結べること)、成長していく。例えば、ピアノを一生懸命練習して発表会でうまく弾けたとき、子どもは「うまく弾けたこと」に喜びを見出す。さらに、そこで父親や母親、先生といった自分ではない人が一緒に喜んでくれるという要素が加わると、喜びは倍増する。自分という「私」の喜びに、両親や先生という「公」の喜びが加わることで、子どもはさらに喜びを見出せるということ。
6. 思春期の男の子が自信を持つとき、なくすとき
思春期には、力の正しい使い道を教えることが大事。男の子は父親の振る舞いをよく見ている。父親と母親が協力し合う姿を見せたい。