岩崎晋也の作品一覧
「岩崎晋也」の「アンダーランド 記憶、隠喩、禁忌の地下空間」「アーセン・ヴェンゲル」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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Posted by ブクログ
スペースXの成長の軌跡を追う長編ノンフィクションの下巻。本書では、ファルコン1の後継機ファルコン9の開発、有人宇宙船クルードラゴン、そして過去最大級の打ち上げ能力を持つファルコンヘビーの開発がメインです。
3度の失敗を乗り越え、民間企業として初めて人工衛星を軌道投入したファルコン1。このロケットで実績を積み上げ、そして次のロケットの開発に取り掛かるというのが普通の人の思考回路です。しかしイーロン・マスクはファルコン1の成功直後、その開発の中止を発表。そしてより打ち上げ能力の高いファルコン9の開発に軸足を移します。
これはファルコン1の打ち上げ能力では打ち上げビジネスとしての展開に限界があると見切っていたイーロン・マスクの長期的な視点によるものでした。
ファルコン9はエンジン1基のファルコン1に対して、より大きな打ち上げ能力を確保するためエンジン9基を備えた大きなロケットです。エンジン1基でさえ様々な問題をクリアする必要があるのに、それを9基も一斉に稼働させるという非常に野心的な設計で、そして何よりも第1段のブースターを再使用可能にするという、未だ人類が実現していない構造のロケットでした。
ファルコン9の開発中に2度のロケット爆発事故が発生しています。ロケット開発とはある程度の失敗を伴う困難なプロジェクトである事の証左でもあるわけですが、スペースXは結果として2度の爆発事故をたった18か月で乗り越え、打ち上げ成功に繋げました。
本書の内容とは関係ないですが、つい最近日本のH3が2度目の失敗を経験しました。果たして、どのくらいで打ち上げが再開され、成功に繋げられるのか、非常に心配です。
有人宇宙船の開発では、国際宇宙ステーションへの人員輸送という性格上、スペースXだけで完結せずNASAとの協業が必要になります。NASAとの文化の違い、人工衛星ではなく、人を運ぶことに対する安全性の担保の問題、様々な壁をマスクの突破力と、それに感化されたスペースXの社員たちが乗り越える様が詳細に描かれています。
本書はスペースシャトル以後のリアルな宇宙開発を題材に、技術的な要素の説明も丁寧に織り込みつつ、多くの社員の群像劇としてテンポよく描かれた名作と言ってよいのではという印象でした。上下巻合わせて800ページ超、お値段も上下巻合わせて5000円超という超大作ですが、それに十分応えてくれる内容だという印象でした。
Posted by ブクログ
驚異的な開発スピードでロケット産業に革命をもたらしたスペースX。その創成期から民間宇宙企業初の衛星軌道投入成功までの約10年間を、関係者の詳細な証言でたどるノンフィクション。
会社設立から約3年で初のロケット打ち上げ、5年で軌道投入、そして誰も想像していなかったロケットの再使用システムの確立等々、スペースXが成し遂げた成果は際立っています。それを率いたのはCEOのイーロンマスク氏なのですが、本書はマスク氏一人ではなく、創業期から関わる数多くのエンジニアの群像劇として描かれています。
上巻である本書のハイライトはスペースX初のロケット・ファルコン1の打ち上げが3回失敗してから、4回目への挑戦に至る部分と言ってよいでしょう。マスク氏は2回の失敗は織り込み済みであったようで、3回目で軌道投入を成功させる目論見でした。しかし3回目の打ち上げは、最も懸念された第1段エンジンの燃焼が正常に終了したにもかかわらず、その切り離しプロセスでの”まさか”の失敗でした。半年後に迫る資金の枯渇、成果を上げられないために進捗しない打ち上げ請負の契約、それらを打破するために、なんと3回目の打ち上げから8週間後に4回目の打ち上げに臨みます。その過程における壮絶なプレッシャーと、不可能とも思える期日に挑むスペースXの社員たちの当時の様子が、生き生きと描かれています。
社員の回想からは、マスク氏の下で働くという事は、ワークライフバランスなどとても考慮する余地はなく、ただ目標に向けて”がむしゃら”に働く事を要求される事のようです。創成期に関わった社員の多くが10年程度で他の会社に転職しています。さすがにマスク氏の要求に応え続けるのはそれぐらいが限界なのかもしれません。しかし、その社員たちの証言に”後悔”は一切なく、ロケット産業に革命をもたらす企業の、もっともダイナミックに成長を遂げるプロセスに関わる事の出来た事に対する達成感、高揚感が伝わって来ます。
またマスク氏がIT関連企業で莫大な富を得た単なる企業家ではなく、技術的な決断を要する局面でも自ら現場の情報を収集して分析し決断を下す、技術的な見識に富んだエンジニアであることが、スペースXの躍進の一因であることも本書からは読み取ることが出来ます。
数多くの証言を、一つの企業の成長の物語としてまとめ上げ、ロケットに関する技術的な内容を分かりやすく織り込む著者の構成の巧みさで、一気に読み通せるノンフィクションでした。