本書は、グローバル化する社会を、Tシャツの一生を追うことでわかりやすく可視化したユニークな物語だ。
グローバル化、とくに市場万能主義が世界にひろまることで、貧困がさらに拡大するという見方がある。反対に、市場拡大・自由貿易こそが世界を貧困から救うのだという見解もあるだろう。しかし、著者が実際にTシ
...続きを読むャツの一生を追うことで目にしたものは、どちらの主張とも違っていた。
Tシャツの一生は、いまだに市場原理ではなく、政府による規制や介入・保護などによって決められていた。ほんとうの意味でTシャツが市場と出会うのは、古着としてアフリカに入ってからだ。世界を貧困から救うには、グローバル化する市場経済をどーこーというより先に、発展途上国の人たちの識字率を上げ、政治を立て直すことのほうが重要だという結論に、著者は到達する。
自由貿易を世界中に押しつけて廻っているアメリカが、必死に自国の繊維産業を保護している姿が描かれる。にもかかわらず、繊維業界は虫の息だ。アメリカの保護主義政策は自国の労働者を守ることはできなかったが、まわりまわって発展途上国の経済のためにはかえってプラスとなっている側面もあったりして……。黒か白かで語られることの多い「グローバル化」について、じっくりと地に足をつけて見直すために、「物語」という形式が非常に大きい効果を上げている。
個人的な話をすれば、アメリカのヘビーウェイトTシャツが大好きで、10枚単位で注文するくらいだ。「フルーツ・オブ・ザ・ルーム」「ジャージーズ」「ユナイテッド・スポーツ」「アンヴィル」……最近は「GILDAN」(これはカナダメーカーだが)がお気に入り。これらのTシャツのほとんどがアメリカ産綿100%で、ホンジュラスやニカラグアやメキシコでつくられている理由が、アメリカの保護主義にあるとわかってたいそうおもしろかった。
グローバル化する経済が、世界にどのような影響を与えているのか。そしてグローバル化の意味するものは、いったいなんなのか? わかりやすくて、爽快な読み心地の、じつに優れた論考だと思う。