あらすじ
著者のライシュがこれまで展開してきた「新しい資本主義」(政府か市場かの二者択一ではなく、市場メカニズムの根幹となる市場のルールそのものを見直してサテナブルな資本主義を構築する)から一歩進んで、「よき市民社会をつくるためには、何が必要か」に焦点を当てた本。
50年ほど前から、富と権力をもつ一握りの人々が、さらに多くの富と権力を手中に得ようと、社会に広がる「信頼」を搾取し始め、かつてはコモングッドと定義され、履行されてきた暗黙のルールが浸食されることになった。「私はどんな手段を使ってでも可能な限りの富と権力を手中に集める。慎み深く責任を持つなんていうのは負け犬がすることだ」と。
本書は、同じ社会を生きる一員として、人々はそもそもお互いにどんな義務を負っているのかについて再考し、どんな「理想」を共有すべきかについて考える。今よりもはるかに機能する社会、よい社会を取り戻したいのであれば、今は失われてしまった人々の間にあった共通の善、つまりコモングッド(良識)を取り戻さなければならない。
本書はアメリカ社会の話をしているが、アメリカに限定した話ではない。互いにつながっているという感覚を失い、お互いの共通認識としての「理想」をも失っている現代のすべての市民社会において、共通して考えなければならない問題である。そしてコモングッドを取り戻すため、市民として互いに負う義務を学ぶ市民教育を徹底できるか、と著者は訴える。われわれのよりよい社会の将来は、自分の実入りをよくするための「私的投資」としての教育に終わらず、よりよい市民社会を支える公的投資、「みんなのための市民教育」ができるか、にかかっているのである。
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Posted by ブクログ
原著は2018年発行。ごくまっとうなことを述べていると思うが、世の中はますます悪いほうに。まさかトランプがもう一度大統領になるとは思わなかっただろう。
「コモングッド(共益)」とは何世代にもわたって積み上げられた「信頼」の集合体である。
世の中のゲームのルールは「コモングッド」を尊重するものから、「何が何でも手段を選ばず勝ってやろう」に代わってしまった。
・「手段を選ばず」勝つ政治
・「手段を選ばず」利益を最大化する人々
・経済を不正操作するためなら「手段を選ばない」人々
【原題】THE COMMON GOOD
【目次】
第1部 「コモングッド」とは何か
第1章 シュクレリ
第2章 私たちはどんなコモングッドを共有しているのか
第3章 「コモングッド」の起源
第2部 「コモングッド」に何が起こったか
第4章 搾取
第5章 三つの構造的崩壊
第6章 「コモングッド」の衰退
第3部 コモングッドは取り戻せるか
第7章 受託者精神というリーダーシップ
第8章 名誉と恥
第9章 真実の復活
第10章 みんなのための市民教育
Posted by ブクログ
本書はアメリカ社会について書かれているものではあるが、訳者の指摘する通り、日本にも当てはまるものだと思う。
かつて、市民の間で信頼の元、共有されていた「コモングッド(共益、公共善、良識)」といった価値観が、
「勝つためなら何でもあり」の政治と「大儲けするためなら手段を選ばない」経済により、蔑ろにされ衰退してきてしまった現代において、
「コモングッド」を取り戻すためにはどうすればいいのか、というのが本書のテーマである。
日々のニュースを見るだけでも、政治家や大企業にたいして、公益を重視する公正で良識ある存在だと思うのは、かなり難しい。
「どうせ悪いことしてるんでしょ」と冷笑しながら見る方がはるかに簡単な状態である。
でも、そんな社会嫌だなと、ちょっとでも思う人なら本書を読んでほしい。
政治や経営、報道に関わる人たちだけでなく、私たち1人1人が社会に対して責任ある存在なのだと思い出さないといけないと感じた。