1910年、大逆事件と韓国併合、同時平行的に起こった内外の政治的事件―
大逆罪の法的根拠となったのは、実に事件の2年前に改訂された刑法第73条、
「天皇、太皇太后、皇太后、皇后、皇太子又ハ皇太孫ニ対シ危害ヲ加ヘ又ハ加ヘントシタル者ハ死刑ニ処ス」
であった、という符合。
また、朝鮮半島では、初代統監の
...続きを読む伊藤博文がハルピンで安重根に暗殺されたのが前年の10月であった。
これらの血なまぐさい事件とは、まったく関わりないことのようだが、
この年、柳田国男の「遠野物語」が刊行された。
新たなる国学としての柳田民俗学、黎明の名著だが、
350部の自費出版からスタートしたこの初版本の扉には、
「此書を外国に在る人々に呈す」と記されていた。
「外国に在る人々」とは、日本人以外の外国人ではなく、海外にいる日本人のことである、というが、その真意は奈辺にあったか‥。
ともあれ、農政官僚でもあった柳田が「朝鮮」や「台湾」の植民地経営に、いかにコミットしたかについては、村井紀の「南東イデオロギーの発生―柳田国男と植民地主義」なる批判的考察がある、という。