積ん読チャレンジ(〜'17/06/11) 35/56
'17/02/16 了
今や世界的メーカーとなった海洋堂と、海洋堂が文化の黎明の一翼を担った「ガレージキット」文化の足跡を辿った本。
どこか狂っているけど、こんなリビドー溢れる青春(まったく爽やかでは無いけど)を送りたかったと思わずにはいられ
...続きを読むない。
造形物が何より好きで、何らかのクリエイターになりたかった自分としては本書に登場する人物たち全員が羨望の対象だし、原型師になれなかった筆者の悔しさと寂しさは凄く共感できる。
読めば何かを作りたくなる一冊。
1984年の『ゴジラ』は原詠人氏の原型による海洋堂のガレージキットを参考にしていると言う話は目から鱗の情報だった。
「僕がおばちゃんと世間話に講じていたら、どこかから帰ってきた館長が、僕を見つけるなり
大声でこう言った。
「お、ヒサトモドキ、来とるな!」
(略)きょとんとしている僕に、館長は言った。
「お前、ヒサトに似てるてウチで評判なっとるぞ」
まだ、わけがわからないでいる僕に、おばちゃんが補足してくれた。
宮脇家の親戚でヒサトという人がいる。兄ちゃんの従兄弟にあたる、そのヒサトさんと僕の顔が似ているらしい。
(略)
この瞬間から、海洋堂での僕の通り名はヒサトモドキになった。長いから略してモドキ。」(P69〜70)
この辺の滅茶苦茶な感じが素敵。
「あの頃のホビー館によく似た建築物を、十数年後になってテレビのニュースで見ることになる。一九九五年に地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教の施設、サティアンである。大勢の人間が居住できる施設であり、工場であり倉庫でもあるオウムのサティアンと海洋堂ホビー館は凄く似ていた。どちらも一般社会から切り離された空間である。」(P97〜98)
「その月のメインは、『北斗の拳』シリーズを連作していた片山の新作「ラオウ・黒王号セット」だった。『北斗の拳』の敵役ラオウが愛馬にまたがっている作品で、当初は定価五〇〇〇円で発売する予定だったが、作っているうちに黒王号がどんどん大きくなり、最終的に一万五〇〇〇円で発表することになった。」(P143)
「世界に一か所しかないガレージキットの聖地で、原型師ではないけれど、自分にしかできない作業を任されているという気持ちは、一種の宗教体験みたいなものだったと思う。
倉庫を複雑に改造したホビー館がオウムのサティアンに似ていたと書いたが、中身も宗教団体みたいなもんだった。
ただ、僕らには神も仏もなくて、模型だけがあった。」(P158)