シャオミという企業についても、その戦略についても、CEOの雷軍という人についても、全く知らなかった。
これだけ情報が溢れている時代。
自ら得ようと思えば、ほとんどの情報にアクセスが可能だろう。
しかし、そもそも知らなければ、その情報にアクセスすることができない。
ただでさえ情報過多で、自分の中でも消化しきれていない状況で、効率よく情報を取捨選択していくことは、本当に難しい。
今回はたまたまこの書籍との出会いがきっかけとなったが、シャオミのことを知らないままでいたら、相当損をしていたことになる。
それぐらい自分にとっては価値ある書籍だった。
端的に言えば、勝つためにどこまで徹底的に突き詰めるかということ。
ついつい自分自身に対して甘えが出てしまって、「この程度でいいか」と思う瞬間が訪れる。
そこを乗り越えていくためには、最初の段階で「ここまで突破してやる」という覚悟を持って臨む必要がある。
これだけ言うとただの根性論になってしまうのだが、ここにプラスして考え抜かれた秀逸な戦略があるからこそ、上手く回る。
まさに車輪が勢いを増して回転するように、相乗効果を生んでいるように見えるのだ。
彼のこの起業物語を読み解いていくと、レッドオーシャンだからといって、諦める必要はないことに気付かされる。
結局は、どんな状況であっても「どうすれば勝てるか」を考えて愚直に実行することなのだ。
最初はブルーオーシャンだったとしても、周囲の状況が変化すれば、すぐに競合がひしめき合う場所に変化してしまうかもしれない。
戦略的に戦う場所を選ぶことも、確かに重要な要素かもしれない。
しかし、環境だけは自分たちのコントロールでどうにも出来ない部分があることも事実。
今ある環境の中で冷静に勝てる部分を見つけ、磨き続けて、勝負に勝つ。
雷軍氏は、勝てる目算があったから、この勝負に打って出た訳だ。
様々参考になる部分があったが、本書で紙面を多く割かれていたのは、人材獲得についてだった。
勝負に勝つために、時間を惜しまずに徹底的に勝てる仲間を集めているという点は、ものすごく考えさせられるところだ。
正直、本書を読んで「CEOがここまでやるのか」と思った部分でもある。
結局勝負に勝つためには、人材が何よりも一番大事ということなのか。
当然、能力は超一流である必要がある。
それに合わせて、シャオミの理念を共有できるのかが大事だということ。
そして、理念に向かって覚悟を持って仕事を完遂できるのか。
そんな超一流人材が、創業間もないベンチャーに来てくれる訳がないから、CEO自らが行脚して直接口説きにかかる。
スティーブ・ジョブズ氏も「人たらし」だったというエピソードを聞くが、企業が成功するための最低限の要因なのかもしれない。
人材に興味を持たない経営者がいる企業は、今後生き残れる訳がないということだ。
私自身、社内では人事の仕事が長くなったが、本当に人材では苦労している。
そもそも「人間の悩みのほとんどは、人間関係である」と言うくらいだから、当然のことなのかもしれない。
人間は社会的な動物であり、1人では生きていけないにも関わらず、人間同士の諍いはどうして尽きないのか。
人間というものの本質を見極めているところが、雷軍という人物だ。
起業に合わせ7人を招聘した訳であるが、超一流の人材を揃えてから、会社を始めたという。
まさに神セブンか、七人の侍かだが、これはそんな簡単な話ではない。
普通は、人員を集めるためだけに、ここまで徹底的になれない「甘さ」がある。
きっと、2〜3人でも集まったら、それでスタートを切ってしまうだろうと思う。
能力が足りなくても、「これでいいか」と妥協して、まずは始めようとしたと思う。
しかし雷軍氏には、「シャオミをこうしたい」というゴールイメージが最初からあった。
そのためには、最低でも〇〇の能力を持つ人材を7人は揃えなければ到達できない、という目算があったということだ。
すごいと思ったのは、雷軍氏は、スター人材の自社へのスカウトだけに留まらない。
サプライヤーについても超一流を揃えるし、その部品については一番という企業に合うまでに、何百人とも面談したという。
創業間もないベンチャーと取引するというのは、サプライヤー側からすれば相当なリスクである。
そもそも部品の選定から発注・納品までこぎつけるのも大変なはずであるが、そのハードな交渉をCEO自らが行っていたという。
雷軍氏をここまで焚き付けるのは何だろうかと考えてしまう。
シャオミを起業する以前の会社で、雷軍氏はすでに成功を収めていた。
一時期、ベンチャー企業へのエンジェル投資も行っていたというくらいだ。
お金は相当持っていたはずで、生きていく上では何の苦労もなかったはずだ。
しかし、不退転の覚悟で、シャオミ創業に懸けたのだ。
やはり並みの起業家ではない。
そんな覚悟を持って臨むシャオミだからこそ、勝つために選択と集中を徹底させていく。
彼は、最もエンゲージメントが高い顧客である「米粉」(シャオミのファン=ミーファン=ビーフン)とも、積極的に直接交流を持つが、これも「徹底」である。
流通を通じての販売は行わず、自社店舗も一切持たないシャオミが勝つための戦略なのだ。
すべて自社ECだけで、製品を直接販売をする。
宣伝予算は一切持たず、流通にかかる間接費もかけない。
それら費用を徹底的に削った分を、そのまま商品価格に転嫁させる。
つまり、高機能なスマホを、他社よりも圧倒的に安い価格で提供するということなのだ。
だからビーフンの声を何よりも大切にし、それらを次の製品開発に活かしていく。
今となればこういう企業も増えてきたと思うが、起業当時からこのやり方を徹底していたのがスゴイところだ。
彼にとっては、あらゆる人(社員・サプライヤー・ビーフン)を大切にすること(集中すること)が勝ち筋なのだろう。
このように、勝ち筋の本質を見極めているところが大きなポイントだと思う。
他にも、雷軍氏の際立ったビジネスセンスについてのエピソードが印象的だった。
CPUなどの先端部品は、シャオミのスマホに新たに搭載する際は、仕入れの値段が非常に高価だ。
しかし、雷軍氏はその価格分だけスマホの値段を上乗せせずに、敢えて低価格で販売し、ライバルを圧倒するのだという。
他よりも高機能なスマホが、低価格で手に入るのであれば、ユーザーは購入するに決まっている
。
ここで、一気に販売を伸ばせば、仕入の先端部品は結果的に大量生産することとなり、大幅なコストダウンが図れるという。
雷軍氏はここまで先読みして販売している訳であるが、競合からはクレームの嵐だったという。
もちろん業界の常識を破壊していくのだから、クレームを受ける訳である。
しかしながら、ルールを逆手に取って戦うのは、弱者が強者に挑む以上当然のことじゃないか。
それをとやかく言われる筋合いはない。
そんなシャオミは、スマホメーカーとしてスタートしたが、実は超一流ソフトウェア会社としての一面も持っている。
アプリの使い勝手や不具合については、ビーフンからの意見を超速で取り入れ、解決していく。
「使用感こそが、競争力の源泉」というのも雷軍氏の言葉であるが、これをソフトの更新で実現させていく。
そんなシャオミは、今では各種スマート家電も取り扱い、そして2024年にEV自動車を発売した。
これからの自動車産業は、ハードとソフトをどうやって融合させていくかが大きなカギと言われている。
スマホで得たノウハウを転用し、SDV(Software Defined Vehicle)の覇権を握ろうとしているということか。
ハードウェアを最適にコントロールするソフトウェアは、使用によって得られるデータをAIにフィードバックさせることで、日々進化されていく。
スマホでも、高機能なハードを発売しつつ、日々の使用感についてはソフトのアップデートで改善を図っていた。
EV自動車についてもスマホと同じように、日々機能が更新されていくのが、SDVの核心とも言えるから、この分野については一日の長があるということだ。
対して日本の自動車産業は、これら新興企業とどう戦っていくのか。
まさに群雄割拠の状態であるが、未来はまだまだ予期せぬことが起こっていくだろう。
だからこそ、未来は面白い。
年齢に関係なく、雷軍氏のように熱い気持ちを持って戦略的に生きていきたいと思った。
(2024/9/1日)