筒美京平が亡くなってから計画された筒美京平を語りながら渡辺栄吉(本名)を覗く本。
2021年7月刊行。
第1部(1-6章)は近田氏による筒美京平論。
曰く「楽理を踏まえていない譜面に紐づいていないビートルズに影響は受けてない。一世代前のアメリカンポップス」「日本語の官能性を音楽が持つフィジカルな快楽と合体させた」「邪推が及ばない音楽的懐の深さ」
官能性。そうなんだよね。名曲は総じてそうなのかもだけど、筒美京平の艶ってあるよねぇ。
「えげつない曲、これ見よがしの曲を作らなかった人」という評。
それに至る会話は、筒美京平の曲には女性作詞家が似合いますねもしくは千家和也やちあき哲也→ユーミンとのフルアルバム Hiromic Worldいいですよね→正反対の作詞家は阿久悠、それには都倉俊一がベストマッチだよね。
うん。。まぁ。。山本リンダ、フィンガー5、ピンクレディーはえげつなくてこれ見よがしかな。笑
今まで都倉俊一作品を「電気がチカチカしてる」「ガチャガチャしてる」「おもちゃ箱」だと思ってたけどこれからは「これみよがし」って言おう。
あとこれ人にも使えそう。なんてね。(あなたをもっと知りたくて)
70年代3強のジュリー百恵ピンク、80年代の聖子明菜への楽曲提供もない。(ジュリーと百恵は断ったと2部で実弟から明かされる。聖子はソニー内部での郷ひろみっていうか酒井プロデューサー陣営との確執と70年代感を出さないためか)言われてみれば確かに。
「吉田拓郎への恐怖」「スピッツには似たものを感じる」へー。音楽的センスのない自分には分からないけど吉田拓郎を天才だと言う天才が多いってことはそういうことなのね。キンモクセイよりスピッツ?そうなのね。
「あれ(松本伊代)は彼の好みだね。平山三紀郷ひろみライン」
当て書きのトシちゃんマッチ、ジャニー嫡子の少年隊デビュー曲など。
考えたことなかったけど音楽センスのある人達からするとしっかり感じる「見えないライン」なんだろね。納得。
共に7000万枚overを誇る大作曲家だけど「TKはシステム、恭平はフィルター」ってのも納得。TKは作詞の人、その雑さ。(酷い)とはいえ浜崎あゆみよりは5兆倍マシだけど。
洋楽やKPopを「射精しない反復音楽」JPopを「射精への高まり音楽」と評してるのもまぁ分かる。とはいえKPopはマネしながら独自性をちょい混ぜするのが上手だなとも思う。洋楽にしろ邦楽にしろ。でもまぁ国民が1億超えてるならそれでも(市場規模として充分で)良かったよね。
今までは。だけど。
芸能界に染まらず権威に無頓着だった筒美京平らしく、対極として政府とがっつりの都倉俊一(やはり近田氏は都倉センセが嫌いなのね)芸能界のドンとがっつりの内田裕也(ここは夫婦揃って同じイメージ、無欲の風来坊を気取ったThe強欲)を例にあげてる。
筒美京平の清廉さを話したいというよりは、都倉俊一の悪口がメインかな。
なんか素人が知らない確執があんのかね。
作曲家への依頼の仕方が変わったっていう話もへーって感じ。そんなの想像したことなかったけど今ってそんなんなのね。
第2部(7-10章)は対談
7章は実弟、渡辺忠孝
幼少期弟に対して「ター坊の好きなのってコードが3つしかない曲ばかりだね」と言ってみたり、坂本龍一を見て「彼らは好きな音楽だけやってて羨ましい」とか弟ならではのエピソードが明かされる。
実弟が選ぶTop10の付録も
哀愁トゥナイト、なんてったってアイドル、夏のクラクション、青春挽歌、ラッキーチャンスをもう一度、くれないホテル、魅せられて、よろしく哀愁、お世話になりました、飛んでイスタンブール
8章は作詞家橋本淳
師匠のすぎやまこういちの傍若無人さに触れつつ、筒美京平との高校1年からの思い出話を披露。(橋本は一個上)ここでも筒美京平の3分で作曲、5-6時間で編曲という天才ぶりを話すが、比較として「簡単なコード作曲の平尾昌晃や中村泰二と違って」みんな悪口好きだなぁ。
筒美京平は「ここから先は入るな」という自己境界線がはっきりした人だったらしい。ただ高校生からの付き合いで音楽事務所も共同経営し、60歳になったらお互いに花屋パン屋をやろうと持ちかけられ、亡くなる前に病室で「あんたのせいでこんな人生になっちゃった」と言われたと。葬儀参列は家族と橋本夫婦のみだとか。平山みきにすら当日電話で話したにも関わらず明かさなかったと。
それほどに近しい間柄だったんだなぁってのと、筒美京平の「隠者」ぶりが分かる。
対談から「スワンの涙」が筒美京平自身が最も愛した曲なのでは?と感じる。私はここ最近たまたま「ジジィだからGSでも勉強せにゃ」と聴いていて失神GSっていうキモさから嫌々聴いたものの結局最も気に入ったのがオックスのこの曲だったのでなんか嬉しい。全然たまたまだけど。でもこの本を読む前も大声で歌ってた。(その前は木元ゆうこ)近所の人にはソーリー。まぁ慣れてるか。
橋本淳が選ぶTop10
また逢う日まで、さらば恋人、雨の日のブルース、木綿のハンカチーフ、にがい涙、恋の弱味、サンゴ礁の娘、ブルーライトヨコハマ、色づく街、ひとかけらの純情、セクシーバスストップ、夏のクラクション
この本で紹介される曲はほとんどがヒット曲なのでタイトルを見れば歌が頭の中で流れるが、8章で橋本淳が「幸せでちょっと不幸だった平山美紀、彼女と筒美京平と3人でLAで録音したアルバム、フィルムシティモーテルが素晴らしい曲で録音完了時にアメリカ人スタッフが拍手したのを覚えてる」と。
幸いYouTubeにあった。(ありがとう違法アップロード)これは確かに。さすがのクオリティ。
何度も平山美紀の名前は出るけれど(筒美京平と橋本淳の事務所に所属していた)この曲を提供するなんて彼女の声が余程好きだったんだなぁ。と。
最後の対談は平山みき
今まで他人が彼女の楽器としての声と真面目さが筒美京平に愛されたと分析してきたが、ここで本人によって「はいそうです」と確認される。
デビュー曲に筒美橋本の息子の名前が入ってるのは楽しい遊び。
彼女も筒美・橋本とのLAレコーディングを話すが、途中でラスベガスのギャンブルなどに興じる2人に怒って筒美が途中帰国するくだりは橋本バージョンでは全く触れられていない。
近田春夫が選ぶTop10
マドモアゼルブルース、赤毛のメリー、ビューティフルヨコハマ、誰も知らない、熟れた果実、逢えるかもしれない、雨にひとり、恋の弱味、さよならの彼方へ、グッドラック、強い気持ち強い愛
ライター下井草秀Top10
寒い夜明け、あなたの暗い情熱、銀河特急、女になって出直せよ、卒業、君だけに、JOY、泣かないぞェ、綺麗アラモード、あなたの淋しさは愛
さてこっから感想ですが。
阿久悠2冊、都倉俊一1冊と読んで流れで読んだ。
うっすい本ですぐ読めるけど中身は充実。白黒&小さいながらもレコジャケも掲載されてる。
プロが選ぶ筒美京平Top10は売上ランキング上位に限らず多様な選択になってるのもさすが。特に弟と橋本淳。夏のクラクションと恋の弱味が4人のうち2人からセレクトされてる。他は重複なし。
え????「サザエさん」は????
他にも誰もたそがれマイラブ、迷宮のアンドローラー、恋の追跡、仮面舞踏会、東京ららばい、ていうか岩崎宏美の曲を1曲も選択しないのはなんで?
あとスワンの涙は?あれ名曲じゃん?
知らない歌も沢山あるのでこれを機に聴いてみようと思う。