本田靖春の一覧
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ユーザーレビュー
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昭和38年に発生した誘拐事件、吉展ちゃん事件を描いたノンフィクション。加害者の暗い過去など時代背景、高度成長期の影の部分がリアルな力作。
東京オリンピックの直前の台東区入谷で発生した4歳男児の誘拐事件。警察の不手際により身代金50万円は奪われ事件は迷宮入りの様相。だが伝説の刑事平塚八兵衛らの執念の
...続きを読む捜査で事件は解決。男児は遺体で発見され、犯人は死刑となる。
犯人の小原保の生い立ち、親族の悲しい宿命に多くの頁が費やされているところが独特。
インターネットより前の時代、行方不明となった男児を心配する両親に、多くのイタズラ電話が来るところが現代と変わらず切なくなる。
警察の初動対応の不手際と隠蔽体質も現代とは変わっていないだろう。
事件の概要だけでなく時代の空気感をうまく出した、ノンフィクションの中でも傑作の部類であろう。
Posted by ブクログ
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"私がまだ生まれる前、昭和38年に起こった誘拐事件。その真相に迫るノンフィクションの傑作。最後のページまで緊張感が続き、被害者、加害者、関係者、この事件に関わる全ての登場人物との距離感も絶妙。
著者の綿密な取材、苦労とともに、書き手の文書力がなければ本作品は成り立たない。
吉展さんのご冥福を祈り、
...続きを読む本書をたたむ。"
Posted by ブクログ
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事件ノンフィクションの古典。
時代と言ってしまうとそれまでだが、
戦後に起きたとても悲しい物語。(108)
[more]
(目次)
発端
展開
捜査
アリバイ
自供
遺書
Posted by ブクログ
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1963年に起きた「事件」である
その次の年が「東京オリムピック」、
高度成長期に差しかかかり始めた時代の
「明」と「暗」を象徴している事柄である
あれから半世紀以上経とうとしているが
果たして、庶民の置かれている状況は
どうなっているだろう…
あの時代には存在しなかった
携帯電話が普及し、イン
...続きを読むターネットが普及し
果たして、庶民たちの生活は豊かになった
といえるだろうか…
あと数年後に開催されるらしい
東京でのオリムピック関係の
浮かれた報道を
目にするたびに、
耳にするたびに
この一冊を思い出してしまう
今、本田靖春さんが
もしご存命だとしたら
この優れたジャーナリストは
何を見据えているだろう
Posted by ブクログ
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ものすごく、面白かったです。
文庫本368頁。
誘拐殺人の実話なので、面白え、っていうのも若干、申し訳ない気持ちがするのですが。
とにかく読み物としてオモシロカッタ。
頁をめくる手が止まりませんでした(電子書籍でしたけど)。
ノンフィクションです。
1963年に東京都で起きた「吉展ちゃん(よしのぶ
...続きを読むちゃん)誘拐殺人事件」の話です。
建築業者の家族のお子さんだった、よしのぶちゃん(4歳)が、公園に遊びに行ったまま帰らない。
やがて、身代金要求の電話が。
警察が出動する。
1963年、戦後18年。
ようやく、経済成長の恩恵が中産階級にも巡ってきた時代。
まだ「逆探知」も無く、捜査は不幸も重なってミスが続く。
身代金は奪われ、子供は帰ってこなかった。
警察の面子をかけた大捜査も空しく、幾人かの容疑者は浮かんだけれど、証拠は何も手に入らなかった。
ノンフィクションです。実際にあった誘拐事件です。
犯人は、小原保さんという、30歳前後の男性でした。
この本は、被害者の一家とその背景を描きます。東京でそれなりに一生懸命暮らす、中産階級の家族。
捜査にかかわった捜査員も描きます。警察の失敗も描きます。2016年の今からすると隔世の感がいろいろあります。
そしてこの本は、福島県の田舎の出身である、加害者の背景も描きます。
犯人の男性は、子供の頃に片足を不自由にしました。それからはずっと、いわゆる障害者です。
田舎で仕事も無く、東京に出てくる。時計修理の技術は身につけている。
なんとか糊口をしのぐ。
閉鎖的な田舎から出てきました。
その田舎というのは、哀しさが裸足であかぎれを痛めているような寒村です。
顔見知りと偏見と中傷と無理解とが、現実に叩きつけられているような集団です。
その村の中でも、冷たい風が吹きたまってきたような家族の出です。
東京だけを見つめている、「レコードのA面だけの歴史」の中では、想像もつかないような風景です。
ほんの50年前まで、ほとんどはそういう場所だったんですね。いや、きっともっと最近...というか、今だってそうだし、都会の中にもそういう場所が多く、あるんですよね。
それを、見るか見ないか、というだけの話。それは1963年でも変わりません。
この本は、そこをまず見つめます。痛いです。
そして、犯人さんは、障害のある男性です。
都会の孤立なのか、疎外なのか。
アルコールと女性、つまり酒と売春に溺れていきます。浪費していきます。
徐々に身を持ち崩していきます。
義理の悪い借金が嵩んでいきます。
このあたりの、ぐずぐずな緩慢な崩壊の仕方が、ヒトのありさまとして、嫌ンなるくらい手ざわりが、ざらざらします。
そうならずにすんだ者が、そうなった者を上から目線で非難するのは、あまりにも尊大ですね。
そしてこの本は、その加害者と恋愛関係にあった、年上の水商売の女性も、くっきりと描きます。
恵まれない生い立ちから、女性が独りで身を立てるための水商売。
我慢の上に忍耐を重ねて、小さく構えながら生きてきた女性。
もう、犯罪ノンフィクションの鏡と言って良いのです。
独りひとりから、急速な消費の膨張、都会の孤立、疎外、東京都と地方の格差、消費と幸福の果て亡き競争社会...そういった「集団としてのニンゲンの物語」が、濃厚に匂い立ってきます。
結局は、深い計画性が無く、偶然に被害者を選んだような犯罪でした。
そうであるが故に、意外と初動の取りのがしが大きく、捜査は行き詰ります。
唯一残された、犯人の電話の声。
テレビとラジオの時代が始まっていた。音源を公開して情報を募る、という前代未聞の作戦。
そこから初めて捜査線に上がってくる、小原さん。
もう、この本の読者としては、小原さんが犯人だって、判ってる訳です。
なんだけど、小原さんは警察の取り調べに頑強に抵抗します。
状況証拠しかないわけです。
そして、アリバイを主張します。黙秘します。狂ったように叫びます。
ぎりぎりの線での、生きるための戦いが行われます。
結局、警察は一度、小原さんを解放します。
ただ、その過程で、小原さんは当たり前のように、知人家族からの信頼、絆を失います。社会的には転落します。
事件から2年。
警察はあからさまに行き詰ります。
誰もが、もう、迷宮入りかと思った。しかし。
「落としの八兵衛」などの異名を取る、戦前から戦後混乱期、そして60年代以降も異名を馳せた、平塚八兵衛刑事が登場します。
それまでの大量人員の組織的捜査を敢然と無視して、ほぼたったひとりで、ゼロから小原さんの容疑を捜査する平塚刑事。
この平塚刑事が、積み木を積み重ねるように、ひとつひとつアリバイを崩していく。新たなる状況証拠を掴んでいく。
そこには、何の神秘性もなくて、汗みどろの中で合理的に論理的に一つ一つ当たっていくだけの作業。それがとにかくスリリングな筆致。
そして、事件からおよそ三年。平塚刑事と小原さんの、最終対決が始まる...
最後の鍵は。
読者も、捜査員も、誰も推測できていなかった要素。
小原さんの中の、罪悪感...
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もう、むちゃくちゃにオモシロイ。
横山秀夫の最上級の警察ミステリーを読んでいるような。
ドストエフスキーを読んでいるような。
火曜サスペンスとプロジェクトXをステレオで浴びているような。
もちろん、ひどいことをした訳です。犯人さんは。
なんだけど、本が大詰めを迎えると、どこかで犯人に同情的になってしまうんです。
というか、筆者がなっているんですね。
犯人を責めるのは簡単なことです。
小さな子供がいる親の身になったら、あらゆる理屈と言葉を超えて、許されざることです。
そして、そのことを、恐らく被害者の次に、肉体的に感じていたのが、加害者でした。
身代金は50万円でした。
1963年当時の価値は、ぴんとは来ませんが、今のお金に換算すると、「誘拐と言う事業の報酬」としては、決して高額ではないんですね。
犯人さんの、不義理な借金を返して、なんとか生活を再建するに足る。そんな金額でした。
ラスト、犯人の顛末。
裁判、服役。そして、最期。
ラスト、犯人の墓の前に、平塚刑事が佇みます。
想像力の画面に、叩き込んで刻まれるようなページでした。
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本田靖春さんは、過去に、美空ひばりさんについてのノンフィクションを読んだことがあって。
そのときも、ただならない筆力を感じたんです。
ただ、今回はほんとに、打ちのめされました。スバラシイ。
新聞記者出身らしい、ハードボイルドでザックリバックリした読み易い文章。
そこに、それだけではない、実に豊穣な「見てきたような語り口」。ほとんど、小説やんか!という力量。
ただ、底流には、この物語の中の、平塚刑事のように。
感性とか感傷なんていう、甘ちゃんな触覚を拒絶する、コンクリートを打ち固めるような確信に満ちた背骨を感じます。
ただただ、1つの犯罪にかかわった人たちを見つめるだけなんです。
それがとにかく、ドキドキにスリリング。
その先に、恐らくは何年経っても古びない、「世の中の風景」みたいなものが見えてきます。
傑作でした。
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犯人が衝動的に誘拐殺人をしてしまいます。
お金に困ったからです。
犯罪のプロでも無い犯人は、なぜ誘拐殺人を思いついたのか。
それは、たまたま見た、黒澤明の映画「天国と地獄」の予告編がヒントだったそうです。
アメリカの警察ミステリーを翻案した、誘拐犯罪映画。
三船敏郎さんが、金持ちの被害者。
仲代達矢さんが、執念の捜査官。
若き山崎努さんが、貧しき犯罪者。
密室で進む映画の前半は特に、間違いなく日本映画史上、いや、世界の映画史上に燦然と輝く奇跡のような大傑作です。
映画に罪はないんですが...
そして2016年現在。その役割って、テレビだったり、漫画だったり、ネットニュースだったりするんでしょうねえ。
Posted by ブクログ
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