花の都と呼ばれる大都市・パリの、都市計画の源流をみていくのが中心の本。アンリ四世からルイ十六世まで、ざっと五代の王の時代の建築と都市整備をたどります。まず本書は、リシュリュー枢機卿という人物からはじまります。鉤鼻で、権謀術数にたける策士といった風貌で、デュマの『三銃士』では悪役として描かれていますが
...続きを読む、まあ、実際は権力争いで苦労しながらも生き延びた人でもあるようなので、実際、政治力があった人物なのでしょうが、その名もリシュリューという小さな町をつくっていて、その街のすぐれた美的であり機能的であるデザインこそが、その後のパリの都市整備(当時は「美装」と呼んだそうですが)の源流と位置付けられそうなのでした。いわば、結果的に、リシュリューは、その後のパリの都市計画にむけた先駆的なイメージを持っていた。建築も都市整備も、そこに住んだり行き交ったりすることになる人々の動線を考えるし、建物や街並みのデザインの美しさ・芸術性も考えて、などなどいろいろな面をミックスして、建築家の思う「これだ!」という良いところで落とし合わせて案として完成する。そして建築アカデミーの会員たちのそういった案を集めたコンペ(設計競技)で、実際に施工するデザインを決めているのですが、そこには、権力争いや利権も絡んでいる場合もあったようです。読んでいてふと思い浮かんだのは、20年くらい前までが最後だろうか、いい車を持っていることがステイタスっていう価値観がありましたよね。そういうのを遡っていくと、王様だとか宮廷貴族による宮殿などの建設、つまり建築こそが、ステイタスを誇るいちばんの手段というところに行き着くなあと。でも、一呼吸置いて再度、あたまの中をめぐらしてみると、ステイタスを誇ることは確かにあっても、芸術をそこに作りあげる欲望、美的な渇望があるなあとわかってきました。