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号泣、ホロリ…一気読み推奨!おすすめの泣ける漫画23選

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※2019/10/8更新: 『夏目友人帳』・『海街diary』・『ヨコハマ買い出し紀行』の3作品を追加しました。

感動した時、悲しいことがあった時、人は涙を流します。さまざまなドラマが描かれ、感情豊かなキャラクターたちが登場する漫画の世界にも泣ける作品がたくさん。今回は、「恋愛」「友情」「家族愛」「生き様」の4つに分けて、読むと自然と涙がこぼれてくる23作品を紹介します。ぜひ、ティッシュやハンカチを傍らに置いてご覧ください。
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「恋愛」に泣ける漫画

初めにご紹介するのは「恋愛」に泣ける漫画です。恋愛は、自分が一番好きな人との関係性なので、感情の揺れ動きも非常に大きくなるものです。今回は4作品をご紹介。

『orange』

完結『orange』 全6巻 高野苺 / 双葉社

恋愛と友情の感動作!大事な人を守るために未来を変える――

タイムパラドックスを利用したSFファンタジーであり、多感な高校時代の等身大の恋愛や友情に共感し、涙する人が続出した作品です。『夢みる太陽』などの高野苺先生による本作は、土屋太鳳さん・山崎賢人さん主演で実写映画化もされました。

菜穂は16歳の高校2年生。ある日届いた「10年後の私」からの手紙には、転校生の翔が、その未来にはもういないという運命が書かれていました。その未来を変えるためにすべきこと、してはならないこと。手紙通りの未来を辿りながらも、翔を救うために菜穂と友人たちはもがきます。 やがて、菜穂は翔に恋をします。翔の閉ざされた心を開くため、自身の引っ込み思案な性格も変えていこうとする菜穂。恋愛の楽しさもつらさも、菜穂をひとつずつ成長させていきます。読みながら、応援したくなるヒロインです。

そして、優しい友人たちとのやり取りも、本作の感動ポイント。それぞれに悩み、時には傷つきながらも、仲間への思いやりを忘れない彼らの友情には、青春の眩しさも感じられ、羨ましささえあります。読後、あたたかな涙がこぼれる作品です。菜穂は、友人たちと協力して彼を救おうとします。しかし、引っ込み思案な性格が災いして手紙にあった指示のようには行動できません。翔は、運命をなぞるように、心の傷を重ね、仲間たちから離れていきます。

翔の心をひらくために、菜穂たちは試行錯誤を重ねます。そのために互いに傷つけ合って、もがき、それでも分かり合おうとするプロセスがなんとも切ない…。恋愛に揺れる苦くも温かい心情や、仲間を想いやって深まる友情の描写に涙が止まらなくなる本作、人を想う気持ちや自分自身へのもどかしさ、友人のために行動する勇気など、多感で不安定なティーンズの青春が細やかに描かれています。

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『四月は君の嘘』

完結『四月は君の嘘』 全11巻  新川直司 / 講談社

音楽×青春。世界はこんなにも美しい

「聞こえる音楽」と『ONE PIECE』の尾田栄一郎先生も絶賛していたことで、注目を集めた本作。2014年のアニメ化も高評価でしたが、2016年の広瀬すずさん、山﨑賢人さん主演による実写映画化も話題となりました。

有馬公生(ありま こうせい)は、元・天才少年ピアニスト。母の死をきっかけに、自分のピアノの音が聴こえなくなり、弾くことをやめて色のないモノクロの日々を送っています。しかし、破天荒な少女・宮園(みやぞの)かをりと出会い、彼女のバイオリンの伴奏者に指名されたことから、世界が次第に色づくようになっていくのです。
師やライバルとの出会いを経て、次第に音楽を取り戻していく公生。ですが、かをりの身体の変調が、不安な影を落とします。音楽家としての性、ステージでの削りあいは、ゾクッと鳥肌が立ちます。 ラスト、作品タイトルにもある「君の嘘」を知った瞬間、号泣する読者が多数続出。音楽漫画としての卓越した表現と、恋愛漫画としての繊細な表現、どちらも素晴らしく、全11巻を一気に読んでしまいます。青春のきらめきと熱を感じさせる感動作です。 やがて音楽との向き合い方を思い出し、かをりに魅力を感じるようになる公生。しかし、かをりの体に変調が起き… 。

公生が友人や先生との関わりを通じ、「絆」を意識するようになっていく過程がみずみずしく美しい絵柄で描かれています。 そして、最後に明らかになる、かをりの「嘘」に大泣きしてしまう方も多いはず。アニメ版の評価も高く、講談社漫画賞少年部門を受賞している本作、作者は『さよなら私のクラマー』でも知られる新川直司先生です。

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『ハチミツとクローバー』

完結『ハチミツとクローバー』 全10巻 羽海野チカ / 白泉社

青く切ない学生時代を描いた不朽の名作

羽海野チカ先生のデビュー作であり、アニメ、ドラマ、実写映画とさまざまな形で映像化された大ヒット作。学生時代の甘酸っぱい恋愛と友情を描いた名作です。

舞台は美大。建築科の竹本祐太と真山巧、彫刻科の森田忍の男子3人は同じボロアパートに住む先輩後輩。彼らの前に油絵科の新入生・花本はぐみが現れるところから、物語は始まります。竹本と森田は一目で恋に落ち、特にはぐみをじっと見つめ続ける竹本の横顔は、真山に

「人が恋に落ちる瞬間をはじめてみてしまった」

と言わしめます。 はぐみを取り巻く恋愛模様を傍観している真山は、建築デザイン事務所で働く原田理花という年上の女性に恋をし、そんな真山に陶芸科の山田あゆみは片想い……。そう、この作品の切なさの所以は、登場人物の恋愛模様は片想いでそれぞれ一方通行の恋なのです。
普段は賑やかに、楽しそうに過ごしている彼ら。羽海野先生が描くコメディシーンは軽妙で、特に芸達者なお調子者・森田が登場すると、場は一気に華やかに。しかし、そこから誰かの内面描写に移ると、一気にトーンはロマンティックになります。何度も何度も出てくる、この見事な“落とし”を味わい、「ハチクロ」にハートを射止められてしまった人は、多いのではないでしょうか。

クライマックスでは、はぐみを大きな出来事が襲い、それによって1つの恋が成就します。はぐみは誰と結ばれるのか、真山とあゆみの恋は…? 大人になる一歩手前だからこその、青くて切ない物語が胸を打つ作品です。

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『最終兵器彼女』

完結『最終兵器彼女』 全7巻 高橋しん / 小学館

終わりゆく世界で育まれるピュアな恋に涙する

政府機関によって最終兵器に改造され、日本に攻め入ってきた敵と戦う女子高生・ちせと、その彼氏・シュウジの切ない恋を描いた、高橋しん先生の『最終兵器彼女』。過去にアニメ化・実写映画化された人気作です。
物語の舞台となるのは、現実と変わらないかに見える日本。ちせとシュウジは北海道のとある町で暮らす高校3年生で、付き合い始めたばかりの初々しいカップルです。小柄でかわいくて、少々トロいところがあるちせと、言葉遣いが悪くぶっきらぼうだけど優しいシュウジ。「付き合う」ということがどういうことか分からず、交換日記から始めた2人は次第に打ち解け、街と海を見下ろす展望台で、初めてのキスを交わします。

しかし穏やかな日常から一変、札幌が謎の敵国から空襲を受け、ちせとシュウジの暮らす世界が天変地異と戦争によって破滅へと向かい始めていることが、じわじわと分かってきます。 瓦礫だらけになった札幌の街でシュウジが見たのは、背中から機械の羽根を生やし、右腕が機関銃になったちせの姿。自衛隊の切り札として札幌上空の敵機を殲滅した彼女は、シュウジに向かって

「あたし…こんな体になっちゃった……」

と言うのでした。

何度も出撃し、数え切れないほどの敵を殺し、体も心も傷ついていくちせと、そんな彼女をなんとか守ろうとするシュウジ。2人が交わす愛の言葉の数々は純粋で、思いやりに満ち、だからこそ、破滅へと向かう世界の中でその切なさが際立っていくのです。戦争という極限状態の中で描かれる、一つの恋。ラストシーンが訪れるまで、何度も涙を流すことになるはずです。

『最終兵器彼女』を試し読みする

「友情」に泣ける漫画

次にご紹介するのは「友情」に泣ける漫画。往年のアクション漫画からエッセイ作品、映画化された人気作まで幅広く8作品をご紹介します。

『聲の形』

完結『聲の形』  全7巻 大今良時 / 講談社

耳の聞こえない少女を巡る、1人の少年の贖罪と再生の物語

小学校時代、転入生の聾唖者・西宮硝子に対して酷い嫌がらせを行い、その果てに、今度は自分がいじめの標的になってしまった石田将也。周囲から孤立したまま高校生になった石田は、過去の後悔を清算するために硝子を探し出します。石田を拒絶することなく笑顔を向けてくれる硝子に対し、「俺は俺が西宮から奪ったであろう沢山のものを取り返さないといけない」と決意するのでした。

本作は、無邪気な悪意によって硝子の小学生時代を台無しにし、それによって自分の明るい未来も失うことになった石田の、贖罪と再生の物語です。聴覚障害者との関わり方や人と人とが理解しあうことの難しさなど難しい題材を描き出し、2016年にはアニメ映画も公開され、社会的な注目を浴びました。

「昔の過ちを許してもらって 自分にとって都合のいい結果をもらったら それでいいってか? そんなわけがない! 忘れちゃいけないんだ 笑顔だったはずの時間も 嫌な思い出も」

硝子が失った過去を取り戻すことは、石田の思い出したくない過去とも向き合うこと。石田はかつての仲間であり、いじめを受けていた小学生時代の仲間と再会します。今の硝子と会っていることを「友達ごっこ」だと言われたり、エゴ丸出しでぶつかってこられたり、関係の修復は簡単にいきません。石田は苦しみながら「小学生の自分」を乗り越え、目の前にいる人間とも向き合えるようになります。 やがて、高校に入ってからの友人・永束の発案で、石田は硝子を含めたかつての仲間とともに映画作りを始めます。しかし、あることがきっかけで、一度は修復した仲間との関係に亀裂が……。

果たして石田や硝子は過去のしがらみを抜け出し、未来を生きることができるのでしょうか? 人の気持ちを想像し、寄り添うことの難しさと大切さを思い出させてくれる、結末まで目が離せない作品です。

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『金色のガッシュ!!』

完結『金色のガッシュ!! 完全版』 全16巻  雷句誠 / BIRGDIN BOARD Corp.

友情こそが最大の武器。人間と魔物の絆が熱い!

魔界から人間界へとやって来た100人の子供が、魔界の王の座を競って、たった1人になるまで戦い合う。そんな少年漫画の王道とも言える設定で、毎回熱いバトルが展開するのが本作です。

魔物の子供たちは不思議な本を持ち、それを読むことができた人間をパートナーにして戦います。本に書かれているのは、魔物の子供の「術」を引き出す呪文。人間がそれを唱えることで魔物同士が戦い合い、破れた側は本が燃やされて、魔界へと強制送還されるというのが、ルールです。魔物の子供・ガッシュは、中学2年生の清麿と出会い、「優しい王様」になることを目指して、戦い始めるのでした。 一方の清麿は、頭が良すぎることで周囲から孤立していた少年。しかし、ガッシュとの出会いが彼の閉ざされた心を開き、2人は親友になります。ガッシュが最初のピンチを迎えた戦いで、清麿はボロボロになりながら、

「(ガッシュに)どれだけ…助けられたと思ってる?」 「お前はオレの友達だ!!!」

と叫び、立ち向かっていきます。その言葉に、魔界での記憶を失って清麿が唯一の友達であるガッシュは、大粒の涙を流すのでした。 清麿&ガッシュだけでなく、他の人間と魔物の子供のペアにも、それぞれの絆があり、それが丹念に描かれていきます。

しかし、どんなに固い絆を結んでも負ければ即、別れが。突然の別れが訪れる瞬間は、どれを取っても胸に響きます。お気に入りのキャラを見つけながら読むと、さらに楽しい作品です。 熱いだけでなくギャグパートも満載で、笑いの涙もこぼれるのが、もう1つの魅力。また、清麿の成長を見守る父の視点もあり、友情だけでなく家族の物語としても感動を誘ってくれます。

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『大家さんと僕』

『大家さんと僕』 1~2巻  矢部太郎 / 新潮社

80代後半の大家さんとの心温まる交流に感動

2018年7月現在で35万部を突破し、第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した話題作。お笑いコンビ・カラテカの矢部太郎さんが、80代後半になる大家さんとの日々を書き記したエッセイコミックです。

新しいアパートを探していた矢部さんが不動産屋に紹介されたのは、もともとは二世帯住宅だったという一軒家。今は1階に大家さんが独り暮らしし、2階を賃貸に出しているということでした。同じ屋根の下に住むたった一人の店子ということで、大家さんとの距離がかなり近い賃貸暮らしが始まります。

「ごきげんよう」

と挨拶する大家さんは上品な老婦人。タクシーで新宿の伊勢丹に通い、食料品から衣服、家電まで全てを買うというから、かなり裕福な暮らしです。雨が降ったら矢部さんの洗濯物を取り入れておいてくれたり、帰宅すると「おかえりなさい」と電話が入ったりと、最初から関係はかなり密。やがて、一緒にお茶をしたりランチに出かけたり、果ては鹿児島にまで二人で旅行に出かけることに。歳の離れた男女間で、友達同士のような付き合いに発展していきます。

大家さんの話題には戦争中の体験談が多く、また、自分が死んだ後のことも話に上ります。二人の関係はとても穏やかで、いつまでもこの時間が続いてほしいと思わされますが、それがやがて終わるであろうことも容易に感じ取ることができ、切なさが漂います。印象的なのは、自転車で街を走っていた時、矢部さんが大家さんを見かけたエピソードです。ゆっくり歩く大家さんはいつもより小さく、暗い顔に見えて、矢部さんは声をかけることができなかったのでした。そして1巻の後半で、大家さんは急に倒れて入院することに……。 2人の優しい関係性がいつまでも続いてほしいと思える作品です。

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『坂道のアポロン』

完結『坂道のアポロン』 全10巻  小玉ユキ / 小学館

セッションすれば繋がり合える。若きジャズマンたちを描く

音楽に掛ける青春というと、努力を重ねてコンクールの優勝やプロの世界を目指すというストーリーが、まずは思いつきます。それらとはちょっと違って、楽器を演奏することによって人と繋がり合うことの、シンプルな素晴らしさを描いたのが、本作です。 舞台は1960年代後半の九州。横須賀から転校してきた高校1年生の西見薫は、同じクラスの川渕千太郎と出会います。黒髪にメガネのマジメな薫と、ゲタ履きでケンカが強く、いかにも昭和のバンカラ学生という雰囲気の千太郎。水と油のような2人が、ジャズを通して、友情を育んできます。 時にはケンカをして気まずくなることもある2人。しかし、千太郎がドラムを叩き、そのリズムに合わせて薫がピアノを弾けば、いつの間にか笑顔に。

「駄目だ こいつといると どうしても楽しいや」

というのが2人の本音なのです。
薫や千太郎はそれぞれに複雑な家庭の事情を抱えていて、時には家族との切ないドラマが。また、薫が千太郎の幼馴染みの律子に、律子が千太郎に、千太郎が美人の3年生・百合香に、百合香がジャズ仲間の大学生・淳一に恋をするという、絡み合った恋愛模様もあって、物語は重層的。かなわぬ想いに傷ついたり、長年のわだかまりが解消したり、さまざまな人間ドラマにも、思わず涙がこぼれます。しかし、軸となるのはやっぱりジャズの楽しさ、セッションによって繋がり合える、何物にも代えがたい幸福感なのです。

2012年にアニメ化。2018年には知念侑李さん(Hey! Say! JUMP)、中川大志さん、小松菜奈さんの主演で実写映画化が公開されました。

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『女の子が死ぬ話』

完結『女の子が死ぬ話』 全1巻 柳本光晴 / 双葉社

1人の女の子の死を巡るドラマを静かに描いた

『女の子が死ぬ話』というストレートなタイトルの中に、濃密なドラマが描かれている本作。作者は、『響〜小説家になる方法〜』で、2017年のマンガ大賞を受賞した柳本光晴先生。派手に盛り上げるのではなく、淡々とドラマを積み重ねていく作風が特徴で、エキセントリックな少女を描くのがうまい作家です。

高校入学とともに、水橋和哉と瀬戸遥に出会った望月千穂。長身でイケメンの和哉と、小柄で色白美人の遥に、彼女は出会った瞬間から心惹かれるのでした。打ち解けた3人は、登下校を共にし、週末も一緒に遊ぶ仲に。しかし、幸福な時間が長くは続かないのでした。

本作のファーストシーンは、遥が医者から「長くても1年もたないだろう…」と余命宣告されるところから始まります。千穂はそれを知りませんが、読者は最初から知らされていて、遥の1つ1つの言葉に、死の陰が潜んでいることに気づかされます。たとえば最初に千穂と打ち解けて、遥が「1年間よ…よろしくね」とはにかむシーンや、3人で行った海で、「私だと思って大事にしてね」と、拾った貝殻を千穂に渡すシーン。千穂はその言葉の本当の意味に気づいていません。それがたまらなく切ないのです。
また、遥と和哉の関係にも注目です。何度も告白しては遥に断られてきた和哉。友情と恋愛の狭間で留まり続ける2人のドラマは、変化なく淡々と進み、物語終盤で大きく動くことになります。残される千穂と和哉、そして、残して逝かなければならない遥。そのどちら側にも感情移入でき、涙が溢れてきます。

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『ふたつのスピカ』

完結『ふたつのスピカ』 全16巻 柳沼行 / KADOKAWA / メディアファクトリー

宇宙ロケットの事故から始まる、宇宙への夢と絆の物語

2009年生まれの主人公・鴨川アスミが、中学卒業後に、宇宙飛行士を養成する国立の学校「東京宇宙学校」に進学し、仲間とともに目標に向かって努力を積み重ねていくというストーリーを描いた本作。今より少しだけ未来の日本を舞台にしたSF漫画です。 明るい女の子の近江圭、不思議な緑色の瞳を持つ宇喜多万里香、政治家の息子で父に反抗して眉毛を剃っている鈴木秋(しゅう)と、宇宙学校で出会ったアスミ。一緒に進学した幼馴染みの府中野(ふちゅうや)新之介も加えた5人は、時に支え合い、時にケンカをしながら、学校のカリキュラムに臨みます。高度な知力と体力を要求される宇宙飛行士。授業内容はどれも過酷で、だからこそ5人には強い絆が育まれていくのです。

本作の太い軸となっているのが、2010年、アスミが1歳の時に起こった日本初の純国産有人宇宙探査ロケット「獅子号」の墜落事故。アスミの父も開発に携わったロケットは、アスミの住む町に落ちて多大な被害をもたらしました。その事故でアスミの母も命を落とします。また、ロケットのパイロットだった高野という青年が、ライオンの仮面を被った幽霊として、アスミの前に現れるのも、物語の大切な要素。アスミにしか見えない彼は、彼女の成長をそっと見守り続けます。「獅子号」の事故はアスミだけでなく、さまざまなキャラクターの生き様に影響を与え、人と人とを繋げていくのです。

物語が進むと、思わぬ人物の死や、「獅子号」事故の謎解きも。アスミたち若者を中心に、人々の想いが一本の糸で繋がっていく本作。どのキャラクターの胸にも等しく、悲劇を乗り越えて宇宙へと注がれる純粋な想いがきらめいています。

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『うしおととら』

完結『うしおととら』 全34巻 藤田和日郎 / 小学館

少年と妖怪の熱い絆。名ゼリフの数々に涙する

1990年から1996年にかけて雑誌連載された本作。それが2015年から2016年にかけてTVアニメ化されたことからも分かる通り、多くの人に愛される名作と言っていいでしょう。 寺の住職を父に持つ中学2年生の蒼月潮。ある日、家の土蔵に地下へと繋がる扉を見つけた彼は、地下の壁に「獣の槍」によって500年の長きにわたって封じられてきた妖怪と出会います。妖怪から助けることと引き換えに、槍を引き抜いた潮は「獣の槍」の使い手となり、凶暴な妖怪「とら」と共に、人間に悪い影響を及ぼす妖怪たちを退治していきます。 怪奇アクションとしての王道のストーリーと、次々に登場する恐ろしいけれど味のある妖怪たち。それ以上に魅力的なのが、潮という主人公の存在感でしょう。とにかく熱くて、強くて、優しい、これぞ少年漫画のヒーロー。また、潮を食ってやろうと狙いつつ、戦いになると力を貸してくれるとらも、愛嬌たっぷり。東京から北海道まで旅することになった2人は、いく先々で妖怪と戦い、事件に巻き込まれた人々と絆を育んでいきます。

ストーリーが進むと、“白面の者”という強大な妖怪の存在が明らかに。潮ととらは、日本に住む全ての妖怪たちや、“白面の者”の驚異を知る人間たちと力を合わせて戦っていくことになります。その渦中で、潮にとって最もキツい展開が。“白面の者”の力によって、潮を取り巻く人間や妖怪たちが、彼の存在を忘れてしまうのです。 みんなに愛されるヒーローが、一転して、誰にも受け入れられない孤独な存在に。潮の感じる寂しさは、読者の心を打ちます。もしかして、とらも自分を忘れてしまったのかも。そんな潮の前に久々に現れたとらの、最初の一言とは?涙を誘う名シーンの一つです。 少年と妖怪の熱い友情を、たっぷり味わってください。

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『夏目友人帳』

『夏目友人帳』 1~25巻 緑川ゆき / 白泉社

情緒あふれる妖怪と人間の物語

本作はテレビ東京系列にて数期に渡りアニメ化されている大人気漫画です。 主人公の夏目貴志は、普通の人には見えない「妖怪」が見えてしまうことで周囲から不気味がられてしまい、孤独な生活を送ってきた青年です。 そんな貴志はある日、猫の見た目をした妖怪斑(まだら)から「夏目レイコじゃないか」と尋ねられます。 この「夏目レイコ」とは彼の祖母にあたる人物。 貴志は家に帰り祖母・夏目レイコの遺品の中から「友人帳」を発見します。 なんでもこの「友人帳」は、貴志と同じように妖怪が見えた孤独なレイコが、妖怪たちと勝負し、負かした妖怪たちの名を記して従えるためのものだったとか。 この友人帳を手にとって以降、様々な妖怪たちと関わりを持つことになる貴志の物語です。

「妖怪」と聞くと、なんだかおどろおどろしい印象が湧いてしまいますが、本作はホラーとは違う魅力を持った作品です。 天涯孤独だったレイコにとって「妖怪」は友人であり、友人帳を通してレイコの記憶が流れ込むようになった貴志にとっても、妖怪は恐怖や嫌悪の対象ではなく、どこか関心を寄せてしまうものとして描かれています。 妖怪と妖怪が見える孤独な人間、という関係性の描き方が面白いですよね。 そして、貴志が妖怪たちの抱える事情や想いなどに触れていくストーリーは、どこか切なく、ほんのり優しいものばかり。 作品全体に漂う情緒的な雰囲気も、独特な味わい深さがあります。 骨太な物語で読み応えも抜群。 妖怪と人間が織りなす優しさの物語、必読です。

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「家族愛」に泣ける漫画

次にご紹介するのは「家族愛」に泣ける漫画。兄弟や親子、夫婦の関係など6作品をご紹介します。

『宇宙兄弟』

『宇宙兄弟』 1〜38巻 小山宙哉 / 講談社

誰かを大切に思う気持ちを胸に奮闘する宇宙飛行士達に泣ける

2012年に小栗旬さん、岡田将生さんの主演で実写映画化。また、2012年から2014年にかけて全99話という長期シリーズでTVアニメ化。2007年12月にスタートした雑誌連載は今も続き、多くのファンを魅了しているのが本作です。 子どもの頃に

「一緒に宇宙飛行士になろう」

と誓い合った難波六太(ナンバムッタ)と日々人(ヒビト)の兄弟。二人の絆を中心に、宇宙飛行士を目指し、第一線で働き始めた人々の活躍を追い、宇宙を仕事の場とした人々の群像劇が描かれていきます。高度な知識と身体能力、柔軟な順応力を求められ、それを得てもなお、死と隣り合わせの仕事である宇宙飛行士。極限に挑む物語だからこそ、人間ドラマは濃密で泣けるシーンが多くなるのです。 六太と日々人の絆はその筆頭ですが、あえて他の人間関係に注目すると、天文学者・金子シャロンと六太との絆があります。子どもの頃からシャロンと交流し、幾度となく励まされてきた六太。しかしシャロンは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病を患い、車椅子の生活を余儀なくされ、声も失ってしまいます。子どもの頃、

「人は誰かに──“生きる勇気”を与えるために生きてるのよ」 「誰かに──勇気をもらいながら」

という言葉とともにシャロンに抱きしめられた六太。生きる希望を失いつつあった彼女を見舞った六太が、今度はシャロンをこちらから抱きしめたシーンは、涙なくしては読めない名シーン でしょう。 また、六太と同期の宇宙飛行士・伊東せりかは、シャロンと同じ病気で父を失い、その治療法確立のため、ISS(国際宇宙ステーション)でALS治療薬の実験を続けてきました。それがとある陰謀によって、ネットの中傷を受け、中止を余儀なくされることに。しかし、父への思いを胸に、彼女は実験を続けます。その時の

「誰も 何も言ってくれなくても 私はやります」

という強い言葉が感動的。そして、その先には、さらなる涙のシーンが。 宇宙を舞台に、夢を叶えるために奮闘する人々の物語は、まだまだ終わりません。

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『赤ちゃんと僕』

完結『赤ちゃんと僕』 全10巻 羅川真里茂 / 白泉社

育児に奮闘する小学生男子。家族の絆にじーんとくる1作。

「赤僕」の略称で愛され、1996年にはアニメ化もされた本作は、少女漫画の往年の名作。主人公・拓也の一生懸命さと、弟や父を愛する気持ちは、今の読者の心にも、変わらずに響くことでしょう。 小学校5年生の拓也は、交通事故で亡くなった母に代わって、まだ2歳の赤ちゃんである弟・実の世話をしています。遊びたい盛りの年頃にも関わらず、保育園への送り迎えをし、洗濯や掃除といった家事もこなす多忙な日々。システムエンジニアの父・春美は会社では課長という役職にあり、どうしても育児や家事を拓也に委ねなければならないのでした。 天真爛漫で、笑顔がかわいい実。しかし、時には拓也を困らせることも。保育園で実が他の子供を殴ってしまった時、拓也はその子の親に

「母親はどーしたのよ!?」

とキツい言葉を浴びせられます。

「どんなに僕が頑張ったってママにかなうわけない……」

と落ちこむ拓也。彼自身がまだ、母親を必要としている歳であり、寂しさを打ち消しての奮闘ぶりが涙を誘います。 それでも拓也の毎日が幸福感に溢れているのは、弟の実と父の春美のことが大好きだから。イケメンで性格もいい拓也は女子からの人気が高いのですが、女の子よりも、幼い弟をいつも優先してしまうところが、なんともお兄ちゃんらしいのです。やがて拓也は小6、実は3歳に。言葉を覚えた実は、拓也にとってますますかわいい存在になっていきます。 拓也たち榎木家だけでなく、クラスメイトの後藤正や藤井昭弘といった、男の子たちの家族のドラマも描かれ、それぞれに感動シーンが。また、父・春美と母・由加子のなれそめのエピソードもあり、夫婦や家族の愛が、あらゆるところに満ちた作品になっています。

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『さよならタマちゃん』

完結『さよならタマちゃん』 全1巻 武田一義 / 講談社

精巣腫瘍を患った作者の闘病コミックエッセイ

ベテラン漫画家のアシスタントとしてバリバリ働いていた武田一義先生。ある年、妻が病気になり、手術が成功してほっとしたのもつかの間、今度は自分に精巣腫瘍が見つかります。病気への恐れや仕事の心配、入院仲間との交流が描かれた、ノンフィクション漫画です。

本作の魅力はその力強さ。副作用に苦しみつつも、漫画家として人生を見直し、再起しようとするエネルギーに胸が熱くなります。同時に、精巣を患った男性としてのモヤモヤ感や治療への違和感、治療によってうつに陥ったことなども率直に描かれており、きれいごとでない闘病生活の実情がうかがい知れます。 妻の病気を支え、今度は妻に支えられている主人公。夫婦が一緒に病気を乗り越えようとする姿にしみじみと心打たれます。 武田一義先生は本作の後、『おやこっこ』も描いていますので、ファンになった方はそちらもどうぞ!

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『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』

完結『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』 全1巻 宮川さとし / 新潮社

母親との死別をしみじみと描く

作者・宮川さとし先生が、お母様をがんで亡くした顛末をつづったコミック・エッセイ。病院で告知を受けた時、家で抗がん剤治療を受けていた時、入院して衰弱していった時、そして亡くなった時と、常に母のそばに寄り添っていたからこそ書ける、細やかな描写に心を打たれる作品です。

この作品の特徴は、時系列に沿って書かれているのではなく、回によっていろいろな時間に話が飛ぶことです。第1話はがん告知を受けた時の話、第2話は母が亡くなった1年後に、お葬式のことを回想する話、第3話はまだ元気だった母から、夜中に電話が何度もかかってくる話。こうやって時間があっちこっちに飛ぶのは、作者の心の中でお母様がずっと生き続けているからでしょう。 別れの瞬間が描かれるのは、ちょうどまん中の第8話。「愛しとるよ」の言葉を何度も伝えようとする作者の隣では、医師が腕時計を眺めながら待機しています。肉親との別れは、とても特別なことであると同時に、病院では日常的に起こっていることなのだと分かる、ひっそりとしたこのシーンに、胸が締めつけられます。 母への切なる思いが描かれる中で、作者が結婚を決意したり、漫画家として独り立ちできるようになったりという前向きな要素も。しっかりと生きていくことが、自分を生んでくれた母への最大の感謝のしるしになる。そんなことを考えさせられる作品です。

『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』を試し読みする

『海街diary』

完結『海街diary』 全9巻 吉田秋生 / 小学館

鎌倉で生きる四姉妹の日常

あの是枝裕和監督によって実写映画化され一躍知られることとなった大ヒット漫画です。

物語の始まりは、鎌倉で暮らす香田三姉妹(幸・佳乃・千佳)の元に、十五年前に家を出た父の訃報が届くところから。 三姉妹は葬式で出会った腹違いの妹である中学生の女の子・すずに「鎌倉で一緒に暮らそう」と持ちかけます。 こうして始まった四姉妹の鎌倉での日々を綴った、まさに日記のような味わい深い作品です。
この作品は、主役となる四姉妹のキャラクターが生き生きと描かれており、それぞれ全員を好きになれるところが素敵です。 そして4人ともそれぞれの立場で人の死や諍いと向き合い、自分の人生と向き合っていく過程で、ゆっくりしっかり確かに成長してゆきます。 きっとその中には、共感できる台詞や自分と重なるシーンがあるはずです。 なぜならば、それくらい日常の中にある物語であり、誰にでも起こりうる出来事が起こっていくから。 人間の普遍的な葛藤や成長が、鎌倉の四姉妹を通して描かれています。
そして、あまり「悪人」という立場のキャラクターが出てこないのも、優しい魅力です。 それは、冒頭の、随分前に自分たちを捨てて家を出て行った亡き父に対しての、幸の「悲しんであげられなくてごめんね」という言葉からも滲み出ているような気がします。 悲しんであげられないけれど、父は父であり、一応家族であり、悪い奴ではないのです。 また、全編通して鎌倉での生活がありありと感じられる情緒たっぷりな物語になっており、読了後にさわやかで優しい風が吹き抜けるような、あたたかい物語です。

すでに映画を観たという方も、漫画原作はまた一味違った魅力があるので、ぜひ読んでみてください!

『海街diary』を試し読みする

『ヨコハマ買い出し紀行』

完結『ヨコハマ買い出し紀行』 全14巻 芦奈野ひとし / 講談社

ノスタルジックな近未来の形

爽やかな世界観とタッチ、不思議な魅力を持つキャラクターたち。この漫画から漂う空気が、どこか懐かしく、でも新しくもあり、大好きです。

舞台は近未来の日本です。年々地球の水位が増して、かつての大都市・横浜も海の下に沈んでしまっています。そして尾根道ばかりの丘の上が、今の横浜。
都会の喧騒も海の中に沈み、現在は自然豊かな山々が広がる町です。 そんなのどかな町で喫茶店「カフェ・アルファ」を営んでいるのが、本作の主人公・アルファ。実はアルファ、人間の女性の見た目をしたロボットなんです。でもロボットとは言え、自然に吹く風の気持ちよさや、人の気持ちを汲み取る感受性はとっても豊かで、町の人からも愛されています。

そんなアルファが、オートバイにまたがりコーヒー豆を買い出しに出掛ける中で、町の人と触れ合っていく日常の様子が描かれます。 SF的な設定は数あれど、日本の近未来像がテクノロジーによってシステム化された未来都市像ではなく、逆に田舎風情あふれる町の景色になっているという世界観は、斬新で面白いですよね。それに感情豊かなロボットがゆったりと流れる時間を楽しんで生きているというところも、なんだかほっこりします! 町の人たちも優しく、アルファが給油したガソリン代をタダにしてくれたり、スイカを配ってくれたりします。 その優しさに対して、アルファもコーヒーを振る舞うことで返したり。 町の人は皆まるで血の繋がらない家族のよう。 ここで描かれるスローライフな近未来像は、もしかすると忙しない現代社会へのアンチテーゼなのでは…と考えてしまいます。
信頼関係で繋がった助け合いも、今の資本主義社会に対する一つの提案のような気もしますよね。 それに人間以上に感情豊かなロボットだって、ロボットみたいに画一的で没個性的に振る舞う人間へのメッセージだったり… なんて、少し考えすぎでしょうか。 肩の力を抜いて、風を感じるように読む方がいいかもしれません。

近未来でありながら、どこかノスタルジックなこの世界観に、ぜひ没入してみていただきたいです!

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「生き様」に泣ける漫画

最後にご紹介するのは「生き様」に泣ける漫画。夢にまっすぐ生きる作品や老夫婦の最期の生き様など、胸を締め付ける5作品をご紹介。

『BLUE GIANT』

完結『BLUE GIANT』 全10巻 石塚真一 / 小学館

石塚真一先生らしい熱気が魅力

『岳』の島崎三歩もそうでしたが、おおらかでありながら、自分の信念は頑として貫き通すのが、石塚作品の主人公。本作の宮本大も、そんな人物として描かれています。
仙台で暮らす大は、バスケットボール部に所属しながら夜は河川敷でサックスの練習を続けてきた高校3年生。部活を引退した彼は、いよいよ「世界一のジャズプレーヤーになる」という夢に向かって走り始めます。 本作の泣きどころは、大のサックスが人々の心を震わせる瞬間です。かつてジャズの名門校で学んだことのある演奏家の由井から、

「お前の音は人を「圧倒」できんだよ。」

と言われた大。技術はつたないのですが、サウンドには熱い魂が宿っているのです。ジャズフェスティバルを見に行った大が、路上でいきなり演奏を始めるシーン(※2巻収録)では、彼のサックスに魅了された人ひとりひとりの顔を、2ページにわたって描きだしていきます。その数36人。演奏が人を圧倒するとはこういうことかと分かり、心を打たれました。圧倒的な熱量を目の当たりにした時、流れる涙というものがあるのです。 高校を卒業した大は上京。そこで、ピアノ、ドラムと組んで初めてのバンドを結成することに。仙台編も熱いですが、本作がさらなる熱を持つのはここから。やっぱりジャズはセッションしてナンボ。仲間を得ての演奏シーンは迫力満点で、大の情熱的なプレーは読む者の心を熱くしてくれます。

全10巻で完結した後、現在は大が単身ドイツへと渡った続編『BLUE GIANT SUPREME』が連載中。世界一を目指してまっすぐ歩み続ける大から、まだまだ目が離せません。

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『1/11 じゅういちぶんのいち』

完結『1/11 じゅういちぶんのいち』 全9巻 中村尚儁 / 集英社

人々に希望を与え続けたサッカー少年の物語

11人のプレイヤーがパスを繋いで、ゴールを目指すのがサッカー。しかし、安藤ソラは独りよがりのドリブルを続けてきた少年でした。そんな彼の心を変えたのが、中学生ながら女子日本代表に選ばれた天才少女・若宮四季との出会い。

「サッカーは一人でやるものじゃない」

という四季の言葉に感化され、一度はサッカーを断念したソラは、通っていた進学校にサッカー部を創設するのです。

「世界で一番のチームの1/11になりたい」

というのが、ソラの打ち立てた夢。高校から日本のプロチームへ、そして海外へ。彼は夢に向かって確実に進んでいきます。 本作の特徴は、ソラを取り巻く人々が各編の主人公になっていること。物語全体の主人公はソラですが、サッカー部のマネージャーやチームメイト、ソラにサッカーを習った小学生や、プロになったソラのファンの女の子、アメリカに渡ったソラを取材するサッカージャーナリストなどなど、彼と関ったことで人生の転機が訪れた人々が、自らの胸の内を語っていきます。 才能への嫉妬があったり、挫折と再起があったり、大切な人への想いがあったり、勝利への感動があったり、物語は多彩。それぞれの真摯な思いに、涙がこぼれます。

『1/11 じゅういちぶんのいち』というタイトルは、サッカーチームの人数に由来しますが、そこから広がって、登場人物の全てが、ソラのチームメイトとなって人生というゲームを戦っていくという意味が込められているように思うのです。 そしてソラの心の中には常に、自分を変えてくれた四季の存在が。二人の姿が描かれるラストシーンはとても幸せで、美しいものになっています。

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『かくかくしかじか』

完結『かくかくしかじか』 全5巻 東村アキコ / 集英社

熱血漢で人情家の恩師との思い出を綴る自伝的作品

漫画家になるために、美大を目指すことにした高校生の林明子は、同じ美大志望の友達に教えられ、自宅からバスで1時間以上も離れた絵画教室に通うことに。そこで出会ったのが、教師であり、画家の日高健三でした。その教え方は超スパルタ。明子が持参したデッサンを

「全然下手クソで──す」

と一刀両断し、同じ石膏像を何回も何十回も描け、とにかく描けと命令するのでした。 そんな厳しい先生と、明子は、初めて教室を訪れた日から8年も付き合うことになります。

本作は、東村アキコ先生の自伝的作品。高校生から美大生、そしてプロの漫画家になっても続いた地元・宮崎に住む恩師との日々を、約20年後の現在から振り返ったものです。 明子はマジメな教え子とは言いがたい存在でした。せっかく入学した美大では、制作をさぼりまくり、漫画家になりたいという本心を打ち明けることができず、あくまで画家志望と思い込んでいる日高先生に、引け目を感じる日々。先生もかたくな人なので、明子が漫画家としてデビューした後も、行く末は画家になるものと信じてやみません。

「あの頃の私は本当にバカで うぬぼれ屋で 生意気で 自分勝手で わがままで」

と、当時を振り返って書く東村先生。大好きな日高先生の思いに応えることができなかった後悔が、さまざまなシーンから感じられて、それが涙を誘います。ダメだった頃の自分を、ずっと鼓舞し続けてくれた先生とは、今はもう会うことができないのです。 「描け」と言い続けた日高先生。シンプルだからこそ心に響くその言葉は、画家や漫画家を目指す全ての人に送られたメッセージでもあります。

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『死刑囚042』

完結『死刑囚042』 全5巻 古手川ゆあ / KADOKAWA / 角川書店

死刑囚と人々の交流を通して、人間の再生を描いた作品

心を閉ざし7人を殺した死刑囚042号こと田嶋良平が、刑務所を出て外の世界で無償労働させられ、多くの人間と関わることで、心を開いていく姿を描いた本作。込み入った設定によるファンタジーながら、「人間の再生」を丹念に描き、心に沁みる作品です。

殺人衝動が生まれると爆発するチップを脳に埋め込まれ、とある高校の清掃員として働くことになった田嶋。当然、マジメな生徒たちは怖がり、わざと怒らせて爆死するところを見ようと企む不良も現れます。そんな中、田嶋と分け隔てなく接したのは、盲目の美少女・下曽山ゆめでした。田嶋はゆめの笑顔を契機に、失っていた感情を取り戻していくのです。 田嶋の学校での無償労働は、死刑制度廃止を検討している政府による実験であり、責任者の椎名博士とスタッフは、24時間、彼を監視し続けます。最初は田嶋のことを単なる被検体と捉え、冷徹に接していた椎名たち。しかし、花や植物を愛するようになり、ゆめのために点字を覚えようと努力し、自分が殺した男の祖父と心の交流を果たす田嶋を見て、周囲は彼を一人の人間と見なしていく。両者の心の変化が、本作のポイントです。 死刑囚を主人公にして、重いテーマを扱った作品ですが、実はコメディや恋愛要素も満載。特に普段の椎名は軽い性格で、朴訥な田嶋をいじるような、軽妙なやり取りが繰り返されます。しかし、どんなに更正したとしても田嶋が死刑囚であることに変わりはありません。やるせなくて、でも、田嶋と関わった全ての人々に光がもたらされるラストは感動的です。

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『よろこびのうた』

完結『よろこびのうた』 全1巻 ウチヤマコージ / 講談社

老夫婦の静かな決意が心に沁みる

長年連れ添った老夫婦が、二人の人生に自ら終止符を打つ。そこに至るまでの、複雑な出来事と心の動きがじっくりと描かれ、静かな感動をもたらしてくれるのが本作です。

2006年3月、北陸のF県勝野市で、79歳の夫と81歳の妻の白骨化した焼死体が発見されました。県警は自殺を図った可能性が高いと判断。妻は認知症を患っており、老老介護による将来への不安からの心中かのではないか、と報道されます。 しかし、この心中の裏には隠された秘密が。事件が大々的に報道されてから半年後、介護特集の一環として現地取材に向かった雑誌記者の伊能順一は、近隣の住民への聴き取りを通して、警察もTV局もたどり着けなかった真実へと近づいていきます。

記者による謎解きという要素もある本作ですが、軸となるのは心中した老夫婦の心理描写。ある決定的な出来事が起こってしまった時、最愛の人と過ごしてきた人生に、どうやって幕を下ろすのか。二人の選択は誰もが受け入れられるものではないかもしれませんが、それも一つの答えなのです。 物語のモチーフとなったのは、実際に起こった事件。ですが、老いや介護といった社会問題にリアルに迫るのではなく、一つの幸福な結末をファンタジックに描いた作品と言えるでしょう。死の準備を進めながらも普段と同じように笑い合い、手を繋ぎ合って最後の時を迎える夫婦の姿は、切なくもあり愛しくもあり、複雑な読後感をもたらします。

 

最後に

漫画を読んで、大きく心を揺さぶられる。時には一人、涙を流す。会社や学校での複雑な人間関係に疲れたり、やらなくてはいけない仕事や勉強に追われ、忙しい日々を送っている私たちにとって、それは大きな癒やしです。また、傷つくことを怖れず、真摯に生きるキャラクターたちの姿は、勇気を与えてくれます。漫画でひとしきり泣いて、明日への活力となれば幸いです。

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