• 雨の塔

    雨の塔

    購入済み

    ラプンツェルの塔

    雨の塔を見上げた矢咲は
    その小さな窓から
    救いの髪が降りてくるのを願った。

    窓から見下ろした小津は
    垂らす事の出来ない
    うなじで切り揃えられた髪の毛で
    あがっておいでとただ願うのみ。

    妄想を最大に働かせると
    もうここで彼女達の命運は決まっていたように思える。

    小津はもう限界だった。

    母に捨てられた時。
    鳴く事を知らない鳥は
    骸となって鳥籠に横たわった。

    父に捨てられた時。
    鳴けない鳥は悲しみと共に
    籠の底に切り捨てられ動かなくなった。

    そして

    矢咲を失う時。
    鳴く事を知ってしまった鳥はもう
    鳥籠には帰れない。

    海を選んだのは
    海流に乗って潮風に運ばれて
    母のそばに矢咲のそばにいけるかもしれないなんて
    微かな希望もあったのかもしれない。
    それが不可能なのは
    頭の良い彼女なら分かっていただろう。

    一度求められる事を知ったら
    もう知らない頃には戻れない。

    矢咲は?
    きっと彼女はもっと少年的だった。
    だから追いかけられなかった。

    黒川さくらから逃げて
    背負いきれないものを拭い去るように
    アルカトラズへたどり着き、
    もう一度恋をした。
    さくらとは似ても似つかない少女に。
    皮肉にも小津の元を離れる事になって
    初めて「今」ではない「未来」を
    真剣に考えたんだろう。
    だからこその去り際の明るさ、そっけなさ。
    彼女は監獄を出て自分の人生を歩み、
    小津と共に生きる道を
    見つけられるという希望が見えたのだと思う。 
    矢咲が手を握ったらきっと
    小津はその手を握り返すから。

    三島は最後都岡に救われ
    そしていずれ来る別れを思い髪を切る決意をする。
    うなじに切り揃えられた黒髪と
    さくらの面影を宿す顔で
    彼女はその後何を望むのだろうか。

    少女4人の視点から綴られる物語は
    とてもとても耽美なもので
    私にとって大切な一冊となりました。

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    2020年09月13日
  • ガラシャ
    購入済み

    明智光秀の娘のお話

    宮木あや子さんの文章はどれも本当に美しい。
    歴史としてざっくり知ってる程度の本能寺の変という出来事の裏に隠れた様々な人の苦悩を感じ、
    とても切なくなった。 

    歴史とは人が一瞬一瞬積み上げてきたもので
    堅く羅列してしまうと事象だけを飲み込んでしまう。
    少なくとも私は年号と場所と関わった人、というある種記号のような覚え方しかしてこなかった。
    その瞬間に多くの苦しみ戸惑い怒り悲鳴があったことなどつるんと覆い隠されてしまう。

    もう会えないかも知れないという思いで
    夫を戦地に送り出す

    我が子の未来に戦と死と絶望しか感じられない

    本当に愛した人とは決して結ばれる事は出来ない

    細川ガラシャだけでなく
    きっとかつての日本ではこんな事態が
    珍しい事ではなかったのだ。

    沢山の苦しみや悲しみを繋いで
    生き延びてきた人々の上に
    私は立っているのだという事を
    今一度考えるきっかけになった。

    「散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ」

    ガラシャの辞世の句は
    彼女の人生、思いを理解してより
    心に染み入るものだった。

    歴史に重きを置いてレビューを書いていましたが
    珠玉の恋愛小説と表することも出来ます。

    そこはぜひ読んで噛み締めて頂ければな、と。

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    2020年09月07日