呪い元がリーダーを作る話
ざっと読むと結構とっ散らかった感じの話だった。
実話であるということを考えると、沙代子は鬱になるような真面目で気弱な性格の被害者から一転した部分が説明されておらず、
「良いパートナーに恵まれた幸福な人生を諦めざるを得ない目に遭わされ、命懸けで怨敵を呪い殺す者に転換させられた」
「その時指揮をとったか近くで嘲笑ったのがカナエ」「姉妹(一家)のそれらの行動の全てが呪いによるもの」
みたいな想像をして、足りない部分を補完せざるを得ない。
鬱だと無力化してしまうが、転じて沙代子が攻撃的になるような引き金を引いたのだろう、納得のいく部分がぽっかりとない。
加害者姉妹は、それぞれに代々呪われた両親がおり、
元々兄となる筈の存在を呪いで喪っており、姉妹の出生時に「こいつらによってお前らは滅びるぞざまあ」的なことを呪い元から言われている。
自分たちを滅ぼすための呪いが更に強まるように操られ、目をつけたのが沙代子であり、
しかしその沙代子の出自や能力のポテンシャルについて一切言及がない。
そして代々力を持つような家系でもない、怪我で少し目覚めた程度の儚い力しかない退魔師(資格持ちなだけのほぼ一般人にしか見えない)も自滅。
そもそもが何で修行したり資格とったの?という謎。
呪い元の方々が強い仲間(道具)を作って引き込んでやり遂げた話、ということだけ分かる。
全体的に漠然としているのが実話怪談らしいけれど、漠然とし過ぎて「人を蠱にしたらいけない」という当たり前のことしか分からない。
一家は全滅して呪い元の皆さんの本懐は遂げられたのだし、読者としては沙代子は家族が幸福になることで自浄されていくことを望むが、
後書きから、下手に触ると障りのある話になっていることが匂わせられており、モヤッとするのも怪談師の定石の手っぽい。
様々な素材が揃っていて、話のポイントとなるような、決め手になるエピソードがなく、結局漠然としているまま一冊本ができるというのもすごい。
一気に読むほど好奇心は刺激されたが、その好奇心がひとつも消化されないのもすごい。
実話怪談系は仕方がないのか。取材者としては他に能力のある第三者を連れてきて解説してもらうとか、もう少し何かしてほしかった。