あらすじ
資本主義、食料、気候変動…
「エネルギー」がわかるとこれからの世界が見えてくる!
火の利用から気候変動対策まで。エネルギーと人類の歴史をたどり、現代社会が陥った問題の本質と未来への道筋を描き出す。驚嘆必至の教養書。
・ヒトの脳が大きくなったのは火のおかげ
・文明の技術的発展を支えたのは森林だった
・リサイクルをしていた古代キプロスの人々
・省エネ技術はエネルギー消費を増やす?
・化石燃料資源の枯渇はいつ頃起きるのか
・110億人のための新しい豊かさの定義を探す
・自然界から「ほどほど」のテンポを学ぶ
……驚きのエピソード満載、エネルギーから読み解く文明論。
[第1部 量を追求する旅――エネルギーの視点から見た人類史]
第1章 火のエネルギー
第2章 農耕のエネルギー
第3章 森林のエネルギー
第4章 産業革命とエネルギー
第5章 電気の利用
第6章 肥料とエネルギー
第7章 食料生産の工業化とエネルギー
[第2部 知を追究する旅――科学が解き明かしたエネルギーの姿]
第1章 エネルギーとは何者か
第2章 エネルギーの特性
第3章 エネルギーの流れが創り出すもの
第4章 理想のエネルギー源は何か
[第3部 心を探究する旅――ヒトの心とエネルギー]
第1章 火の精神性
第2章 エネルギーと経済
第3章 エネルギーと社会
[第4部 旅の目的地――エネルゲイアの復活]
第1章 取り組むべき問題
第2章 目指すべき未来
第3章 私たちにできること
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Posted by ブクログ
Audible。Audible会員期間終わっても単品で購入して台所で聴きたい。歴史の補強もできる。
「なぜ二酸化炭素は減り、窒素は残ったのか」の稲妻が空気中の窒素の三重結合を解き雨とともに窒素を地面に運ぶ、という話。そして、それを大和言葉の稲妻にも表れているように古代の人々が観察によって気づいていたという話が面白かった。稲妻の語源、起源は中国なのだろうか?はたまた西欧?知りたい。
「ハーバー・ボッシュ法がもたらしたもの」のマメ科の植物の話、実家の周りの田んぼで田植え前にレンゲを育てていたのは肥料にするからと言ってたのを思い出した。
Posted by ブクログ
エネルギーというものを軸に、人類のこれまでの歴史、現在の課題を解説した本。高校の物理化学で習って無機質に覚えていた数々の公式の人類史における価値や、古代人が経験則からそれを理解していたことなど目から鱗の話が多かった。気候問題や資源問題でも、国家レベルで取り組むことから個人で取り組むべきことも示されていて非常に勉強になった。
Posted by ブクログ
エネルギー関係について纏まった本が無いか探していて、偶然評価が高かった本書を読んでみた。
結論、素晴らしかった。これ程までにエネルギーについて纏めあげた本は無いのではないか?
エネルギーとは技術1つの話ではなく、歴史や時間、人の認識などの様々な概念から理解しなければ分からない。
本書はそれを見事に的確に網羅し、解説している。
私たちに出来ることは、本当に今の大量消費が必要か?、そこまでエネルギーが必要なのか?、無駄に使っていないか?を考えて、節約するなど、小さな行動、意識の変化だと思う。
勿体ない、と気づくことを大事に。
Posted by ブクログ
前半部分はエネルギーの成り立ちなど少し難しい話もありましたが、半分を超えてくるととても内容の深いものばかりでした。
印象に残ったのは、”より少ないお金で、”より少なり財産で、より少ないエネルギー消費で幸せを感じることができるように自らの脳を意識付けすることこそが、より確実に幸せに暮らす秘訣であるということ”の部分。
自分がまさに今目指していることだからです。夫も自分も、20代のころは車だ、家だ、服だと物に執着していた部分もあった。でももう30台になると、そういうことはどうでもよくなるんですよね。それよりも、助け合いの精神におもきを置き始めて、どうすれば日本をよくできるか、自分たちの子供が大人になるころに、今現在の状況の地球を残して置けるかということばかり考えてしまう。そうやって今日も、ゴミ拾いや、マイバッグ持参、エアコンと乾燥機はつけない、リフィルショップで買い物しているんです。やれることはできるだけ全部試す、後悔のない未来にしたい。
Posted by ブクログ
小学生の頃、はじめて宇宙というものを知ったときに似た感動を覚えた。未来にワクワクすることは簡単だが、人類が辿ってきた過去に遡ってワクワクできることもあるんだな。そしてその進化スピードの変化が起きている理由についても自分なりに整理することができた。
量・知・心の3つに分けてエネルギーを追求し、最後にその旅の目的地について総括する構成となっている。
エネルギーはかたちを変えながら循環しているし、その循環を更に活発にしたり一部を支配したりして、その過程で発生する副産物を応用しながら人類は成長してきた。
すごいなあ。
トウモロコシが農産物から工業製品と化していることは恥ずかしながら知らなかった。ハーバー・ボッシュ法については義務教育で扱ってもいいのではないか。こんなに偉大な発明を知らなかったことに驚いたし、知ることができてよかった。我々は生きているし、生かされている。
人類史や哲学、化学といった様々な切り口での言及と、その上での、現代に対する問題提起もおもしろいし嫌味じゃない。
一貫してエネルギーについて述べられているけど、これはギバー&テイカー論にも置き換えられそう。
循環して返ってくることを前提とすればギブ先行で動きやすいし、逆も然りとなる。
Posted by ブクログ
非常に面白かった。
人類史をエネルギーという切り口から読み解く。火の利用に始まる広い意味での5つのエネルギー革命に着目し、それが実現した背景を考察している。
以下印象に残っていることの箇条書き。
・火の利用の人類進化への貢献。
野菜や肉など、食べ物は焼くことで栄養を吸収しやすくなり、胃腸の消化にかかるエネルギー消費量を軽減する。それによって比較的短い胃腸が実現し、余ったエネルギーで身体に対して大きい脳の活動を賄っている。
・省エネ技術の落とし穴。
省エネ技術が発展する領域は、まだ普及しきっていない領域で起こることが多い。(例えば、エアコンか。) そういった領域で起こることは、
「もっと必要だからエネルギー効率を上げたい。→エネルギー効率のいい機械ができた→今までよりも低コストで同等の性能が出せる。→今まで普及していなかった層も利用するようになる→結果としてエネルギー総消費量は増える。」
というように、個体あたりで見ると省エネが実現していても、大きく見ると逆にエネルギーをより使ってしまっている事態が起こる。
つまり、省エネがマクロ的にも省エネであるのは、既にこれ以上地球に普及しようがない技術のみということになる。
・ハーバーボッシュ法の功績。
空気中の窒素からアンモニアを合成する技術で、窒素、リン、カリウムという植物生育に必須の栄養素のうち、窒素を含む人工肥料の作製に貢献した。この技術により、農耕可能な土地を開墾しきり、頭打ちと思われた作物供給量の限界を突破し、現在の人口規模になるまでの食糧需要を確保した。この技術がなければ、現在の5人中2人は存在しないとも言われる。
Posted by ブクログ
人の営みをエネルギーから見るという視点は大変参考になり、また目から鱗でした。メソポタミアなど過去の文明の消滅が森林伐採が大きな原因であること、産業革命は単なる機械化の発芽ではなく人の拡張の始まりであるといった評価は興味深い。
人間社会は資源の枯渇の前に温暖化による自然災害の激甚化による限界を迎えてしまう。これからの人口増に対しては自然エネルギーとIT技術の活用による自然への負荷の軽減で乗り切るべきで、生活習慣を自然のリズムに合わせる変化が必要になるとの意見には納得しました。
Posted by ブクログ
どんな物事でもそうなのですが、わたしは物事を単純な善悪二元論に帰結してしまうような癖があります。(みんなそうか、、、)
エネルギー問題も同様に、なんとなく石炭がすでに時代にそぐわない悪者で、再生エネルギーが良い、ただし太陽光発電は森林伐採や処分の難しさからあまり適さず風力や地熱等がよりよい、という印象を持っていました。
実際のところはそんな簡単な話ではなく、何をするにしても、有限の何かしらのエネルギーを消費していってしまうことに変わりはなく、バランスやグラデーションの問題なのだと思いました。
人間の本能と資本主義の概念は非常に相性が良いものの、限りあるエネルギーを加速度的に消費してしまうため、使いすぎを防ぐための方策の一つとして「足るを知る」ことなのかと思いましたが、周りがものすごいスピードで成長しようとしているなかで自分・企業・国がその方針をとれることはこの先も起こらないのではないか、結局今の自分たちが都合よければそれでよし、としてしまう気がしますし、この本に書かれてある人類の歴史を振り返ってみても、そのような結末になってしまう気がしてしまいます。
個人的に最も情緒的に刺さったのは、火の概念でした。
生きとし生けるものが時代を超えて炭素でつながっていると思うとなんだかロマンを感じます。
数年前祖父が亡くなり、祖父の人生はこれで終わったのかと思っていましたが、火葬され土に還り、また新たな命に生まれ変わっている、次世代に命がつながれていると考えると、近い将来やってくる祖父母や両親の死も少しは前向きに捉えられそうだなと思いました。
Posted by ブクログ
読書2周目。エネルギー初学者のバイブルだと思う。地球の誕生から、生命の誕生、人類の火の使用の起源、それがどのように人類の頭脳と文明を発達させたのか、歴史的・文化人類学的・生物学的・物理学的にとても分かりやすく記載されている。「旅」というタイトルの通り、事実の羅列ではなく、エネルギーの歴史を一つのストーリーとして著者の主観も交えながら展開されるため、1ページ1ページがとても面白い。参考文献も幅広いため、著者の思考の奥行きが本書の醍醐味となっている。
Posted by ブクログ
【感想】
わたしたち人類が直面している最も困難な課題は「エネルギー問題」である。現在喫緊の課題である環境問題も、もとをたどれば、ヒトが増殖と発展のために際限なくエネルギーを求め続け、そのしわ寄せが地球に向かった結果生じている。また、途上国と先進国の格差問題も、細かく見れば「エネルギーの不平等」問題に近い。地場産業の弱い国が海外資本に経済を支配され、汚職によって政治が不安定になり、貧困が深刻化する。まともなエネルギー(安定した住環境)を得られない国民が、移民となってエネルギー富裕国に押し寄せ、受け入れ先の国で衝突を招く。
国家の成立、技術革新、戦争。過去から現在までを俯瞰して見れば、人類とエネルギーはワンセットで発展してきた。ゆえに、エネルギーの軌跡を辿ることは、人類がこれまで歩んできた進化の歴史を学ぶことであり、同時に今後の未来の方向性を考察することにもなる。そうした視点から書かれたのが本書『エネルギーをめぐる旅』だ。人間が最初に利用したエネルギーである「火」から、未来の新型エネルギーの利用可能性に至るまで、エネルギーの歴史を総ざらいし、現代社会における「エネルギー欲求」の中での正しい生き方を描き出していく。
人間はエネルギーを得るために、火を発明してからたった100万年のあいだで地球を食い尽くしてきた。森林、石炭、石油、天然ガス。なぜヒトは際限なくエネルギーを求めるのかについて、筆者は「ヒトの脳は本質的にエネルギーの獲得に貪欲だからだ」と述べている。
人間はエネルギーの消費量を増やしていくことで、他の生物を支配し文明を構築してきた。火を手に入れ、猛獣を寄せ付けず効率的に栄養を取れるようになった。太陽エネルギーを利用して農耕社会を築き、人口爆発的に増やした。特に産業革命以降の社会は、化石燃料などのエネルギー源を自らの体ではなく機械に「食べさせる」ことで、労働を代替させることに成功した。そして電気の発明により、石油や石炭、太陽光、風といった一次エネルギーを二次エネルギーに変換し、距離・場所・形状の制約を取り払った。最新の大型発電所、すなわち巨大化した人工の胃腸が供給する大量のエネルギーは、技術革新にも積極的に還元され、ヒトの頭脳をも超える人口知能の実現が目前に迫っている。こうした営みの根底に潜むのは、「より効率よく、より便利に」という進化欲求だ。エネルギーの高効率化によって生活を向上させてきたヒトにとって、一度回りだした車輪の動きを緩めることはありえない。それは人間にとって退化を意味するからだ。
「もっとたくさんのエネルギーを」
それが、私たちの脳が持つ本性なのだ。
だが、そうした欲求を実現し続けるのには限界が来ている。エネルギーを無から生み出すのが不可能であることは、熱力学の第二法則が明らかにしている。太陽光や原子力(核融合)など、「事実上」無制限なエネルギー源はあるものの、人間はまだそれを使いこなす技術を獲得していない。そうした技術の開発を急ぐと当時に、それとは別に「人間の考え」もアップデートする必要がある。つまり、「もっとたくさんのエネルギーを」と思考する脳を落ち着かせ、モノや時間との関係性をスローに改める。そうした、より深いところでエネルギー問題に正対することで、人間社会は次なるエネルギー革命を起こすことが可能になるのだ。
――ヒトの脳はその成り立ちからしてエネルギーの獲得に極めて貪欲なものです。その貪欲さは、種の保存に必要な食料を遥かに上回る規模のエネルギーを得た今日においても一向に衰えることがありません。もっと賢くなるために、もっともっとエネルギーがほしいのです。これは生物のなかで、人類だけに見られる特徴です。
「もっとたくさんのエネルギーを」
私たちの脳が持つ欲求は、動力機械や情報技術といった外部肉体や外部脳を作り出すだけでなく、自然界の定めた窒素固定量のくびきを解き放ち、自らの代謝を支える食料さえもエネルギーまみれにしてしまいました。現代社会に生きる私たちは、今や自らの存在自体でさえも、エネルギーの大量消費によって支えられているという事実を深く認識する必要があります。
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以上が本書の概要である。
読んだ感想だが、筆者の深い知識と卓抜した文章力によって、歴史小説を読んでいるかのようなワクワクをずっと味わえた。しかも、情報は網羅的でありながら非常に分かりやすい。熱力学の章に関しては科学の基礎的な知識がいるが、無かったとしても図説によって問題なく理解ができると思う。また、エネルギーの科学史だけでなく、「火とヒトの心」「エネルギー社会と人間の精神」といった心理学の分野まで踏み込んで多角的に論じている。個人的にはこの「純粋科学以外の異分野からエネルギーを見つめ直す」といった目線が非常にユニークで、読んでいて新たな発見ばかりだった。
「驚嘆必至の教養書」の名のとおり、驚きと新たな気づきに溢れた一冊。文句なしにおすすめだ。
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【まとめ】
1 エネルギー革命
●火のエネルギー
世界最古の火の使用はおよそ100万年から150万年前といわれている。火を焚くことによる明かりと熱を嫌って肉食獣は洞窟に近づかなくなり、人類の祖先はわざわざ木に登らずとも地上で夜も安心して眠ることができるようになった。苦労して得た食べ物を他の動物たちに横取りされる心配もなくなった。
人類の祖先は火を扱うことを覚えたことで、環境を自らに都合のよいように作り変える術を得たのである。こうして人類は、自然界における自らの立場を大きく引き上げることに成功した。人類史上初めて、エネルギー革命と呼ぶべき大きな変化が起きたのだ。
一般に、脳の維持には多大なエネルギーが必要であるが、胃腸も脳と同じく大量のエネルギーを必要とする。しかし、人間は同程度の体重の哺乳類と比べて、脳の大きさは5倍だが胃腸の長さは2分の1程度である。胃腸が短いのは、火の活用による「料理」の発明によって、食材の栄養価を飛躍的に高め、消化にかかるエネルギーを抑えることに成功したからだ。そうして浮いたエネルギーを脳に割り当てることができたから、ヒトは高い知能を獲得したのだ。
●農耕のエネルギー
1万年前頃に始まったとされる農耕は、大きな変化を生態系にもたらした。
農耕、すなわち土地を開墾し田畑を整備して農作物を育てるという行為が意味することは何か。それはその地に自生している植物をすべて追い出して、その土地に注ぐ太陽エネルギーを人類が占有するということだ。保存のきく収穫物という形で、計画的に余剰エネルギーを蓄えていくことができるようになった。
取り込まれる太陽エネルギー量が飛躍的に増えたことで、人的エネルギーも人口増に比例する形で増えていった。人類が自由に使うことができる人的エネルギー量は、農耕開始前の100倍に増えた。
●森林のエネルギー
人類が築いた文明社会は、大抵、大規模な森林の伐採を伴った。建築物や船舶用の建材としてや、陶器や煉瓦を焼いたり、金属を溶出させるための窯炉でつかう燃料として用いるためだ。森林の成長を育むものは、太陽エネルギーである。エネルギーの視点からみれば森林資源の利用もまた、農耕に次ぐ太陽エネルギーの占有ということになる。
再生不可能なところまで森林を伐採し、土壌環境を永久に変化させてしまう過ちは世界各地の文明で繰り返され、多くの古代文明が衰退する大きな要因となった。森林資源を消費した理由は、金属製武器の生産や軍用船の建造など、軍事力の強化に大量の木材が必要だったからだ。資源の再生スピードを上回る消費を行った社会は、そのどれもが長期的には資源の枯渇によって衰退する運命を辿った。
エネルギーを希求するヒトの脳の欲望には限界がない。こうした流れに歯止めがかかるようになるには、さらなる技術革新による問題解決が必要だった。森林資源枯渇への危機感が、次のエネルギー革命を引き起こす原動力となったのだ。
●産業革命
蒸気機関の発明が真に革命的であるのは、エネルギーの形を変えたことである。蒸気機関が発明される以前の社会において人類が活用してきたエネルギーは、常に取り出したエネルギー形態と同じ形態のままで使用されてきた。熱エネルギーは物を温めるために使われた。しかし、蒸気機関では、石炭を燃やして水を加熱することで作った水蒸気がピストンを動かし、運動エネルギーを取り出している。蒸気機関の発明は、熱源となりうるものはすべて動力になりうることを意味した。このことが燃料の選択肢を広げ、エネルギーの大量使用を実現する道を切り開いた。
19世紀に入ると、蒸気機関を小型化するアイデアとして、ピストンが動く機関の中で直接燃料を燃焼させて動力を得る内燃機関が実用化され、石油が燃料として注目を集めるようになった。
産業革命は工業生産を手工業から機械工業へと飛躍させただけでなく、人類社会の在り様をも半永久的に変えていく原動力となった。それは工場経営者の登場と工場労働者の増加である。従来の地主層(貴族)に代わって工場経営者が大きな富を蓄積するようになった。初めて工業活動が農業活動を超越するようになったのだ。
●電気の利用
電力の時代の到来を決定づけたもの、それは発電機の発明である。発電機は運動エネルギーを電気エネルギーに変換する新たなエネルギー変換装置である。蒸気機関は第3次エネルギー革命をもたらす大発明であったが、熱エネルギーを取り出す場所と、変換した運動エネルギーを消費する場所は同じである必要があった。しかし、電気は発電所から自宅までエネルギーを輸送することができる。電気の利用はエネルギー変換の自由に加え、場の制約からの解放をももたらす力を秘めていた。第4次エネルギー革命の幕開けであった。
●肥料
19世紀に入り増え続ける人口を養うには、土地を開拓し続けるだけでは不十分であり、土地そのものの改良が必要だった。ここから、肥料をめぐる争いが幕を開ける。グアノやチリ硝石といった天然の鉱物資源に世界中が群がったが、天然資源だけでは供給が追いつかない。
そこで登場したのが化学合成技術による人口肥料だった。ハーバーとボッシュはアンモニアの大量生産技術を確立し、大量のエネルギーを投入して食料を増産した。
20世紀半ばになると、潤沢な肥料供給を前提に開発された高収量の品種が普及するようになり、農地からの穀物の収量は飛躍的に増える。「緑の革命」と呼ばれる成果であり、それが人口の爆発的な伸びを支えた。20世紀初頭、16億人に過ぎなかった世界人口は、1950年には25億人を超え、20世紀末には60億人を突破するに至った。
2 エネルギーとは何者なのか
科学の世界は、この世のすべてはエネルギーでできていることを解き明かした。物体の質量、光、熱。そのすべてがエネルギーの一形態である。
身の回りにエネルギーが溢れているのであれば、エネルギーの確保に困るなど起こり得ないように思えるが、それは誤りである。熱力学の法則により、熱エネルギーの変換にはロスが生じる(=投入されたエネルギーは質の低いエネルギーへと姿を変え、自然と散逸していく)ことが明らかになったからだ。その性質から、熱力学の第二法則は単に「エントロピー増大の法則」と呼ばれている。エントロピー増大の法則が指し示すのは、エネルギーが散逸し劣化していくこと、つまり有効活用可能なエネルギー源は有限という事実である。
3 エネルギーと向き合う
1917年にロシアで生まれた科学者であるイリヤ・プリゴジンは、エネルギーが流れる開放系の研究を通して、局所的に秩序が立ち現れることがあることを発見した。それを彼は「散逸構造」と名付けた。この発見により、太陽から継続的にエネルギーを受け取る地球環境のような開放系の世界においては、生物という秩序が自然に発生することがあり得ることが説明された。
熱力学の第二法則が支配するこの世の中で、一定の秩序を維持するためには、常に外部からエネルギーの供給を受け続ける必要がある。これが散逸構造の議論が導き出すひとつの結論だ。人類は文明が発祥した古代の世界から現在に至るまで、連綿と知識の蓄積を続けている。
蓄積された知識を「構造」として維持、発展させていくためには、より多くのエネルギーの投入を必要とする。これが、過去から現在に至るまで、人類によるエネルギーの消費量が一貫して右肩上がりで伸び続けてきた理由だ。より複雑で多様な「構造」を維持するためには、より多くのエネルギーの投入が必要なのだ。
これは省エネ技術に関しても同じである。エネルギー消費量が減ることで、その機器を製造するコストや使用するコストを引き下げることになり、新技術が一般化し結果的に「エネルギー消費量を増やす」方向に働いていく。
現代文明を維持・発展させていくためには、エネルギー消費量を増やし続けていくしかなくなってしまう。質の高いエネルギーが有限である以上、いずれ破綻することは避けられない。
そうした運命の中で私たちがまず向き合うべきことは、技術革新による問題解決への無邪気な期待を慎むことだろう。
現代に生きる私たちは、情報通信技術の日進月歩の進化を目の当たりにしていることもあり、いかなる問題も最後は技術革新がすべてを解決するような錯覚を抱くようになっている。しかしエネルギーの世界は、熱力学の第一法則と第二法則が支配する世界だ。何もないところからエネルギーを作り出す技術、ないしはエネルギーの質の劣化を逆転させる技術、そのいずれもが実現不可能である。加えて、省エネ技術の開発が問題を根本的な解決に導くわけでもない。したがって私たちが取るべき態度は、安易な技術革新信仰を捨て、より深いところでエネルギー問題に正対することだ。
「より深いところでエネルギー問題に正対する」とは、人類の歴史を顧みて、なぜ人類がエネルギーの消費量を増やしてきたのかを考えてみることである。
キーワードは「時間の短縮」。火の利用は食べ物の咀嚼にかかる時間を、農耕生活は社会全体の食料生産に費やす時間を、蒸気機関は人々の労働量あたりの労働時間を、電気は距離の克服による移動時間を、人口肥料は農業生産効率の上昇によって食料生産に費やす時間を、それぞれ短縮させた。
人類の歴史とは、「時間を早回しにすること」に価値を見出してきた歴史である。これをいかにして抑えるかが、エネルギー問題を解くひとつの鍵となるのではないか。
いまや生物のひとつとしての人間の時間は、完全に引き裂かれた状態にある。今よりも、もっとゆっくりとした時間の流れのなかでの生活を前提として創られた身体と、そんなことはおかまいなしに、ひたすらに時間を早回しにしたがる極端に肥大化した脳との間でだ。今、私たちが強く意識すべきことは、いかにして脳主導の思考法から脱却し、少しでも身体の方に寄り添った思考法を実現できるかということだろう。こうして自らの身体の声に耳を傾けるかたちで人間の深層心理に問いかけていきさえすれば、時間を早回しにしていく生活習慣を改めていくことは決して不可能なことではないはずだ。
例えば、呼吸を整えて座禅やヨガに取り組むことは、脳を落ち着かせ、時間の歩みを身体に即したものへと取り戻す一助となる。タイムを気にせずゆっくり走ることも有効だ。自然と呼吸が整い、気がつくとランナーズハイと呼ばれる多幸感に満たされた状態になる。座禅やヨガ、そしてランニングが世界的に根強い人気を誇っているということは、身体の時間への回帰欲求を私たちが潜在的に持っていることの証左だろう。社会全体の時間の歩みを調整していくことは、簡単ではないが、全くもって実現不可能なことでもないはずだ。
4 これから取り組むべき問題
・人為的な気候変動問題
仮に、現時点で埋蔵が確認されている化石燃料をすべて燃焼した場合に、どれだけ大気中の二酸化炭素濃度が上昇するかを試算してみる。2018年末の可採年数は、原油と天然ガスは約50年分、石炭は約130年分となっているので、現在確認されている埋蔵量は、2100年頃まではすべてを使い切ることになる。私の概算では、その間に大気中の二酸化炭素量は合計で300ppm以上増加し、合計700ppmまで二酸化炭素濃度が上昇するという結果が得られた。
もちろん地球の長い歴史を振り返ってみれば、地球の気候環境は変動するのが当たり前で、それを人為的に制御しようと試みることは、極めて野心的なことといえなくもない。ベーリング海峡が地続きになるようなヴュルム氷期の厳しい寒さのなかにおいても人類は生き抜いてきたし、現在よりも気候が温暖で、海面水位が今よりも2~3メートル高かったとされる縄文時代前期の日本のような場所においても、問題なく生をつないできている。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2014年に発表した「第五次評価報告書統合報告書」によれば、温暖化が最も進んだ場合、2081年から2100年までの20年間の平均気温は現在より2.6℃から4.8℃上昇し、海面水位は0.45メートルから0.82メートル上昇すると予測されている。つまり、最悪ケースの今世紀末の想定においても、日本においては縄文時代に経験した海面水位よりも低い上昇に留まると予想されていることになるわけだ。
現代に生きる私たちは、縄文時代の人類と比べて遥かに高度な科学技術を保持していることを鑑みれば、この程度の海面水位の上昇はそこまで目くじらを立てるような話でもないように感じるかもしれないが、私たちは縄文時代に比べて「自由に移動できる空いた土地」を持っていない。気候変動が加速すると、海面水位の上昇や降水量が減るなどの影響により、土地を捨てざるを得なくなる人々が移動を開始し、移動先の住人とのあいだで土地を奪い合う事態が発生するだろう。
気候変動問題に一定の解を与えるということは、資本の神に導かれるがままにエネルギーの消費量を増やして散逸構造を発展させていくという、これまでのような発想でのエネルギーの利用を改めるということにほかならない。エネルギー消費の増大を抑え、持続性のある形に落ち着かせることができなければ、低エントロピーのエネルギー資源の枯渇という爆弾が遅かれ早かれ爆発することになる。したがって、資本の神から一定の距離を置き、低エントロピーのエネルギー資源を大切に扱っていく持続性の高い社会への変革を目指す必要があるという観点からも、足元の危機である気候変動問題は私たちにとって挑戦する価値のあることに違いない。
気候変動問題とエネルギー資源枯渇問題の両方に折り合いのついた持続可能な社会を構築するためには、二酸化炭素を排出しない上に実質的に枯渇の心配がないエネルギー資源を中心に据えなければならない。
その可能性を秘めるのは、太陽エネルギーと原子力エネルギーだ。原子力エネルギーは、現在の技術である「核分裂」ではなく「核融合」がすべて解決してくれる。運転によって高レベル放射性廃棄物が発生することはなく連鎖反応も起こらないことから、万が一の事故の際にも反応は直ちに停止し、制御ができなくなることもない。反応では中性子が飛び出すため炉壁については放射性を帯びることになるが、低レベル放射性廃棄物として100年程度の保管で無害化できると見込まれている。そして燃料となるエネルギー源は、海水中に豊富に含まれる重水素だ。自然界に存在する水素原子の7000個に1個が重水素のため、ほぼ無尽蔵の資源であるといってよいだろう。
また、社会の設計図を太陽エネルギーと親和性の高いものに組み替える必要がある。
化石燃料を中心とした社会から太陽エネルギーを中心とした社会へのエネルギー転換は、ある意味誰もが考えつくであろう将来像ではあるが、その実現への道のりは平たんではない。なぜならこのエネルギー転換は、人類史上初めて、使い勝手の良い低エントロピー資源から使い勝手の悪い高エントロピー資源への移行を人類に課すことになるからだ。
太陽エネルギーは枯渇の心配がない代わりに、エネルギー密度が低く、そのままでは貯蔵できないという問題がある。そのため人類が文明を維持するために必要とする量のエネルギーを安定的に得るためには、大規模な土地の確保と蓄電池などのエネルギー貯蔵装置を必要とする。この2つの制約の存在が、人類社会のあり様をこれまでの集中型から分散型へと転換していくよう強く促すことにつながっている。
持続可能な社会は、エネルギー消費量を抑制し、低エントロピー資源を大切にする社会への転換なしには立ち上がっていかない。その実現を担保するのは、再生可能エネルギーの普及を促す政策の質にあるのでもなく、気候変動モデルの精度にあるのでもない。私たちひとりひとりの意志を伴った行動にある。未来がどのように切り開かれていくのかは、結局のところ、その多くが私たちの意志を伴った行動次第なのだ。
Posted by ブクログ
エネルギー問題について、文明史や環境史、産業革命と資本主義、熱力学の法則といった様々な視点から捉えることができる良書だった。
1865年、クラウジウスは熱エネルギーから運動エネルギーへの変換におけるエネルギー損失を説明するエントロピーという概念を考えた。高温槽から取り出される熱エネルギーの量と、運動エネルギーへ変換できずに低温槽へと捨てられる熱エネルギーの量は、両者をそれぞれの槽の温度で割った時、低温槽の数値の方が高温槽の数値より常に大きい値を取ることを示した。熱エネルギーの持つ不可逆性を数値化して明示的に示し、熱力学の第二法則として完成させた。
現在人類が耕作地として利用している土地面積は全陸域の12.6%を占め、牧草地として利用されている草地も加えて全陸域の40%が人類による食糧生産に使われている。残る陸域のうち、森林が30%、乾燥地帯や極寒の極地が30%を占めている。
資本の神が私たちに求めることは、経済が成長し続けることを信じること。経済成長の持続は、エネルギーの大量消費によって実現された。
日本の一次エネルギー供給量をすべて太陽光発電によって賄う場合、国土の5.5%に太陽光パネルを敷き詰める必要がある。洋上風力発電は、密集することによる出力の低下を防ぐことや航行する船舶の安全を考えれると、羽根の直径の十倍を空ける必要がある。そのため、洋上風力発電に必要な面積は太陽光発電で必要とされる面積の10倍以上になる可能性がある。これだけのまとまった面積を確保することは容易ではないため、住宅やビルの屋上なども有効に活用し、これらの小規模電源をつないで、地産地消を前提としながら不足分を融通し合う分散型システムを新たに設計していく必要性がある。
Posted by ブクログ
#2024年に読んだ本 25冊目
#4月に読んだ本 1冊目
歴史、宗教、哲学、科学…と
あらゆる視点からエネルギーを語っているため
たいへんボリュームがあり読むのに
時間はかかりましたが
読みやすい文章ではありました
エネルギーってのは「ちから」であり
「八百万の神」ということなのだと思った
Posted by ブクログ
タイトル通り、人類がエネルギーをどのように手に入れて活用してきたのかの歴史がわかる本。最終的に人類はエネルギーをどのように活用していくべきなのかまで書かれていて、非常に面白かった。
Posted by ブクログ
面白く、「なるほど」と言う内容が豊富。
著者は日本石油から現在(2021年)JX石油開発(株)の技術管理部長と言うサラリーマン。
自身の経験では、本を書くと言う二足のわらじを履くことは、全く想像も出来ないことだが、著者の経験と読書が好きで、色々知識もあったので、このような本が書けたのだろう。
「エネルギーをめぐる旅」、副題が「文明の歴史と私たちの未来」にもあるように、エネルギーに関する地球の歴史、人類が生み出した(古代では偶然だったのだろうが)エネルギーに関係した知恵と発明のこと、そして締めくくりは、地球温暖化対策として重要だと考えることが書かれている。
歴史、物理、化学、そして哲学の分野にもかかると思われる充実した内容。
エネルギーに興味がなくても、楽しめるだろう。
Posted by ブクログ
人間社会の発展はエネルギー革命にある。
産業革命が生まれるまで、人間は森林資源を浪費して、燃やしたり、建築したりして地球環境を悪化させてきた。
産業革命により、熱エネルギーを運動エネルギーに変換する蒸気機関を生み出して、爆発的にエネルギーを得ることができた。
そのおかげで、空気から窒素を取り出し化学肥料を無尽蔵に作り出し、トウモロコシと言う機械化した炭水化物を無尽蔵に生産させて、牛肉や卵を膨大に作り出すことができた。現代人が手軽に卵や牛肉、牛乳を使い捨てのように食べれるのは全てはエネルギー革命のおかげ。
しかし石炭石油による化石エネルギーの増大は気候温暖化をもたらし地球環境をさらに悪化させた。
現代は、太陽光、風力、地熱などの場所に依存した発電エネルギーに頼ろうとしていて、日本には特に不利。
今後の可能性は核融合による発電だが、これは地球に太陽のような仕掛けを作ろうとしてるので、まだまだ実用化には程遠い、と言ったところか。
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人類の歴史を辿りながらいくつかの変革期にフィーチャーする構成が、とても勉強になります。
終盤の方の筆者の意見が色濃くなって来た頃から脳が飽和状態であまり頭に入って来ませんでしたが、各々がもっと前のめりに考えるべき問題だと言うことに気づかされ、万人にオススメしたい本です。
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エネルギーという観点で人間のこれまでの発展を見たときに、何が影響が大きかったのか、ということを著者古館さんの視点で書いてあるが、面白かった。
火を使うこと→消化がしやすくなり、消化器官ではなく脳にエネルギーを使えるようになった
農耕→人間の主食に太陽エネルギーを注ぐということができるようになった
蒸気機関→熱から運動エネルギーへの変換
電気→電気を送ることで、エネルギーを作る場所と使う場所が別にできるようになった
ハーバーボッシュ法→化石エネルギー等を使って窒素を固定化し、農作物を生産することに回すことができるようになった。
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科学的な説明がわかりやすく、ちょうどいいレベル感。
5つのエネルギー革命の流れは納得感がある整理だった。火、農耕、産業革命、電気変換、肥料。材木、燃料としての森林とその枯渇。
エントロピーを学ぶ。エネルギー保存の法則と、自然散逸の法則。熱は不可逆で、転がった石の運動エネルギーは摩擦の熱に変換されるが、散逸して失われる。
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新卒から数年在籍していた前職で、薄いながらも著者の方と関わる機会があり、出版されてから日が経つものの通読。
NHK出版新書から出ている石井彰さんの「エネルギー論争の盲点」と被る流れや記述があるものも、地球の誕生から人類の出現、火の使用、農業革命、蒸気機関の発明、電気の使用まで、どのようにエネルギーと人類が関わってきたか、そしてその使用量を爆発的に増やしてきたかを辿ることができる。また、物理法則の制限からいかに我々が利用できる質の高い資源(低エントロピーの資源)が稀少で有限なのかという視点が加えられ、第三章までとても面白かった。
第四章に関しては、著者のスタンスなのかもしれないが、一つ一つの利用エネルギーに深入りすることなく、各エネルギーをカタログのように次から次へと表面的になぞっていくので大味で、もう少し丁寧に紙幅を割いて可能性と限界を記述するか、いっそのこと外してしまった方が本全体の構成としては締まりがあったように感じた。とはいえ総じて手元に置いておきたい、知的好奇心を満たしてくれる一冊。
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新卒で日本石油入社のサラリーマンの方らしい。すご。
エネルギーとあえて広義に捉え、火→農耕→森林→産業革命(蒸気機関)→電気、という独特?の切り口でエネルギーの変遷を説いたと思えば、だんだん環境/エネルギーに対してどのように対峙すべきかの精神論や哲学的な話に帰結していく流れ。
と聞くと堅苦しそうだが、なぜかわかりやすくしかも面白く、サッサと読んでいけた。
おそらく、それほど専門的な話にせずに、むしろちょうどいい抽象度で話がまとめられているから概要として捉えやすいから?(エネルギーはすなわち凝縮・濃さで見るとか、電気によって初めてエネルギーを移動することができるようになった、とか、概念的な話が上手)
環境問題を学ぼうとすると、やれSDGsだ、コレコレはこれこれしろだ、というエコの押し売り的なものが多い中、環境ではなくエネルギーに対して正しく理解しよう(そのうえで向き合い方を考えよう)、という話でまとめられているので、新鮮で良かった。※最後の方では、節約しましょうとか出てくるんだが、まあそれはそれで大事なのでヨシ。、
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文系の私にとっては全く未知のエネルギー、でも近年課題も多く、身近で知らなければならないものということで聴き始めたところ、歴史を辿りながら、科学などを知らない人にもわかりやすく多面的にエネルギーにまつわる話が描かれているのでとにかく面白い。そして自分が考えてたより遥かに、エネルギーというものはこの世界の全てで、自分に身近(というか自分自身もそう)ということを実感した。
後半の熱力学やエントロピーなどといった具体的な発明についての話は、やはり専門外すぎてさっぱり頭に入ってこず聴き進めるのが滞ってしまったが、最後の章では自分たちの未来のためにどう考えていくべきか、どんなことをすべきかといったわかりやすい道筋を示してくれていて、読後とても前向きな気持ちになることができた。
著者古舘さんが本が大好きで、長年かけてご自身で本を描けて幸せとのあとがきがあったが、そんな様々な本への愛を感じることができる素敵な本だった。ありがとうございました。
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火の発明が全てのエネルギー活動の始まりだった。しかし、それはあらゆる環境の条件が揃わなければ起こらないことだった。
火からあらゆる革命が続き今の環境問題を引き起こしている。自分たちが発明したものから今度は自分たちが苦しめられている。ここから、得られる教訓は、地球には一つの循環がありそこを壊せば自分たちも生きられないということであり、だからこそ、共生という道を選択し開拓して行かなければならない。大量消費型の資本主義ではなく、有限化された資本主義または循環型の資本主義を目指さなければならない。
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抽象的で流動的そして普遍的なエネルギー。
日々の生活でエネルギーと無関係なものはゼロに等しいのにその実態はなんとも掴み難い。
そんな不思議な存在であるエネルギーを「歴史」「科学」「思想」の観点から読み解き、そこから見えてきたエネルギーの姿をもとに、現在から未来における人類とエネルギーのあるべき関係性が語られている。
本書内でも語られているように、エネルギーと言われてもぼんやりとしたイメージしか湧かなかったが、読後には多少は理解度が深まったように感じる。
個人的に一番刺さったのは、熱力学第二法則(散逸/エントロピー増大)のアナロジーが適応できる幅広さ。これから何を見ても、この法則が適応できるかどうか考えてしまいそう笑
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エネルギーの使われ方と技術の歴史、エネルギーに対する哲学的な思索を経て、人類が進むべき道が提案されます。
歴史では産業革命などの革命に加えて、農耕の開始や森林伐採についても太陽光という観点からエネルギー革命に分類している点が面白かったです。
ゾッとしたのがトウモロコシの話でした。完全に工業化されて大量生産され、家畜の餌やコーンスターチの原料になり、もはやトウモロコシなしでは我々の食事は成立しないというのが意外でした。麦や米だけではないと。
本書はいろいろと新しい観点をくれる本でした。エントロピーの話では、文化もエントロピーを必要とするという観点が目から鱗でした。確かに文化の情勢には散逸構造、大量のエネルギーが必要というは納得です。また、省エネが結果として需要を増やし、消費量を増やしてしまうというのも新しい視点です。
著者は無制限の経済成長を否定する立場です。ただ、この手の話はやはり現実的な解決策を示すことが難しく精神論に陥りがちですが、本書もそこから抜け出してはいない印象で残念です。また、経済成長せずにどうやって再生エネルギーや省エネの高度な技術を開発していくのかが示されていません。
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エネルギー史を俯瞰するにはわかりやすくお勧めできる。
また、環境問題を巡る直近できる対策や展望についても整理されていて良かった。
哲学的な部分や対策の部分で「粋」の話が出てきたりするのはまあ著者の意見ということで…好みはかなり分かれると思う。
俯瞰の話から急激に個人のレベルに話がズームしていくのは少々説得力に欠けるとは思う。
気になったのは、取るべき対策関連で1番重要と思われる各国政府や地方自治体、企業といったステークホルダーに関する記述が薄かった点だが、ここはまた別分野に等しい知見が必要になる気がするので、ここを考えたい時は別の書を探す必要があったということなのでしょう。
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エネルギーは動力としての役割だけではない。太陽から届く光は植物を育て命を支えるカロリーを生む。私たちの体内で消費されるそのカロリーもまたエネルギーの循環の一部だ。地球規模で見れば風や水の動き、動植物の活動すべてがエネルギーの配置と移動によって成り立つ。
こうした現象を地理学的に捉えた研究が人類の活動と自然の調和を新たな視点で考え直す助けとなるだろう。
エネルギーは地球を駆け巡る生命の息吹だ。それを知り循環の中で独占しない、共存する術を学ぶことは私たちの未来をより豊かにのではないだろうか。
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まず、火、農耕、蒸気機関、電気、人工肥料と5次のエネルギー革命を経て人類が元々の限界を解放してエネルギーの消費と拡大をしてきた様を描く。そして次に熱力学の法則を通して、我々のエネルギー消費は高品質から低品質のエネルギー転換という不可逆的な変化を速いスピードで行っていると述べる。最後に人類の抱えるエネルギー問題の将来や対策について議論を展開。
本書は、著者の広範な知的バックグラウンドに支えられている著書だと思った。気候変動問題についてもエビデンスに支えられたバランスの取れた議論を行なっている。
ただ、惜しいのは、著者は市井の研究者ということもあり全体的にどうしても独自研究的な雰囲気がしてしまった。