あらすじ
愛と裏切り、交差する運命。名画は現代の私たちに何を語りかけているのか。大反響『美貌のひと』の第2弾! 実在した絶世の美女やおとぎ話の姫、殺人現場に立つ妖艶な女性。寵愛を受けた王を退位に追い込む「傾城の美女」や結ばれぬ恋。異様な自己耽溺を見せるナルシス、男性版ファム・ファタール(運命の女)――。一枚の絵のなかに切り取られた一瞬には、罪や裏切りをも孕んだドラマチックな生が凝縮されている。圧倒的な美は善悪を軽々と超え、人々を魅了する。誰もがうらやむ美貌は、時として災いや呪いとなるのかもしれない。有名作品から知られざる一枚まで、時空を超えて輝く男女の美と生き様を40点以上のカラー作品で読み解く。
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Posted by ブクログ
今回も楽しく読むことが出来た。
中野京子さんの著作は私にとっては、あまりがっかりすることがない本が多い。
今回紹介された絵画もタイトル通り、美しいものが多かった。
その中でも印象に残ったのが、「クリュタイムネストラ」。姉妹であるヘレネのエピソードが取り上げられることが多いので、彼女に目を向けることは少ないかもしれないが、私は彼女のエピソードのほうが好きだ。殺し殺され、血で血を洗うみたいなことになるのだけれども、「美女が攫われて戦争が起きました。美女は夫の元に戻り、仲睦まじく暮らしました」という結末のほうがおかしく感じてしまう。
その「クリュタイムネストラ」の絵画。ジョン=コリアの作。とても強くてかっこいいクリュタイムネストラ。もちろん彼女も悲劇が待ち受けているのだけれど、それでも意志を感じさせるところがヘレネより惹きつけられる理由だと思う。ミスマープルもの「復讐の女神」の中で、ある人物がクリュタイムネストラのよう、とマープルに思われてしまうシーンがあった。そのシーンも印象的で事件を暗示している。
ヴィジェ=ルブランの自画像も良かった。大変幸運な人なのだけれど、運だけでなく、努力と人柄もあったのだろうなあ、と感じさせる。苦労も多かっただろうが、幸せな生涯を送った画家の話は、やはりホッとする。クールベの自画像は、この本に載せられているのを見たのは初めてで、なんだか俳優の安田顕みたい、と思ってしまった。クールベさんにも安田さんにも、ごめんなさい、と思います…
ベッリーニの章ではベッリーニとドニゼッティの関係性が興味深かった。芸術家は繊細なものだけれど、そういった意味ではドニゼッティは芸術家らしくない。自分の周囲にいて、共感されるのはベッリーニではなく、ドニゼッティ。繊細すぎると長生きできないなあ、長生きすれば、大成する場合もある。
表紙を飾る「虚栄」。クーパー作。特定の人ではなく、擬人化によって虚栄を表したもの。驕るな、いずれその若さと美しさは失われていく、ということだが、驕ることによって美女はさらに美しくなることもある、と著者は言う。私もそう思う。「いいじゃないの、それならその短い間くらい驕ったって」本当にその通り。