【感想・ネタバレ】牧水の恋のレビュー

あらすじ

旅と酒の歌人・若山牧水は、恋の歌人でもあった――。

白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ
幾山河越えさりゆかば寂しさのはてなむ国ぞけふも旅ゆく

これらの名歌が生まれた背景には、小枝子という女性との痛切な恋があった。
若き日をささげた恋人の持つ秘密とは?
恋の絶頂から疑惑、別れまでの秀歌を、高校時代から牧水の短歌に共感し、
影響を受けてきた俵万智が丁寧に読みこみ、徹底した調査と鋭い読みで、二人の恋をよみがえらせる。
スリリングな評伝文学。

第29回宮日出版文化賞特別大賞受賞作。

『ぼく、牧水!』の対談集がある俳優・堺雅人氏も絶賛。

「解説」は牧水研究の第一人者・伊藤一彦氏(堺氏の高校時代の恩師で、『ぼく、牧水!』の共著者)。

※この電子書籍は2018年8月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。

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Posted by ブクログ

▼若山牧水と言えば、

白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり

くらいしか知りませんでした。この歌は素敵だなあと憶えていました。
それ以外どんな人か全く知らず。たまたまBOOKOFFで見つけてなんとなく購入。

▼歌人の俵万智さんが書いています。評伝です。時折、「同じ短歌詠みとしての、俵万智」の視点からの考察や、自作の短歌との比較なんかも出てきます。「自作との比較」がこの本の魅力になっているのかなと言われると、個人的にはそれは無くても十分楽しめたかなあとは思いますが。

▼若山牧水という人の人生の評伝、というわけではなく、まあなんとなく若山牧水を全く知らぬ読者も牧水の全貌は分かるんですが、基本的には若い若い頃の牧水のとある「恋」の顛末を追う話です。(とはいえ、43才で没しているのですが)

▼牧水さんは1885-1928。つまり日清戦争時9歳くらい、日露戦争時19歳くらい。裕福そうな医師の家の長男だったらしいので従軍してません。明治~大正~昭和3年没、くらいかと。その牧水さんの、恐らく二十歳くらいから数年間の恋。これが確かに、オモシロイ。

▼早稲田大学の文学青年、宮崎県の医師の長男。大富豪とは言いませんがボンボンのエリートの文学青年なんです。まだ、「世間に名の知れた文学者」ぢゃ、無いんです。そうなろうと足掻いている。短歌の道と決めている。同人誌活動とかしている。これが「一歳上の、小枝子さん」と知り合うんです。兵庫あたりの人だったかと。美人だったらしく、頭でっかちで超ウブウブな牧水さんが恋に落ちる。これが、見事なまでの恋愛ジェットコースターの見本市のような。

▼小枝子さんは、この当時で言うとそれなりに行動力のある、一風変わった人だったようです。恋文をやりとりしているうちに、「従兄弟が東京にいるから」と、上京してきます。そして牧水と恋愛します。なかなかいわゆる肉体関係にはならなかったようで(このあたりを手紙などから探偵していく感じです)。

▼この頃から、肉体関係になってラブラブな時期まで、見事なまでに「前向き、青春の汗キラキラ、そしてラブラブまっしぐら」な短歌を量産しています。

幾山河越えさり行かば寂しさの終てなむ国ぞ今日も旅ゆく

白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ

このあたりもその時期のものらしいです。すごい短歌ですね。脱帽。

▼ところが。
 この小枝子さん、なんと既婚だったんです。地元で。そして子供まで居た。それを隠していた。明治大正ですから。姦通罪とかある時代です。どエライことです。

▼どこかでこれを牧水は知らされる。一気に出口のない泥沼に墜ちる。どうやら地方の「婚家」と直接間接交渉もしたようです。はかばかしくない。その上、小枝子さんはお金も裕福ではない。金も渡さねばならない。いったいどうなるのかしらん。結婚するつもりで所帯持つつもりで一軒家まで借りたのに。それも手放します。結局ずーっと「従兄弟と同居している小枝子さん」と「仲間とルームシェアしている貧乏書生」の恋愛です。その上、小枝子さんが妊娠発覚。どズブです。

▼このあたりから、思うように会えなくなっていく。子供は生まれる。「仕方ないから従兄弟と相談して千葉の方に養子に出した」。この前後に金も無心されます。牧水は、「キラキラ&ハッピーなウブウブエリート青年」だったのが、「怒涛の虚無と自己嫌悪にまみれた貧乏学生」に墜ち、自殺的な深酒と、どうやら売春窟にハマる暮らしに。その上深刻な性病に侵されて闘病生活に。画にかいたようなサイテー路線。

▼そして、小枝子さんとはオンボロ船が静かに沈没していくように、完全に別れます。相前後して、恐らくほとんど抱いてもいない我が子が幼くして病死したという連絡も来ます。どうやら葬儀には出たようで。

▼度肝を抜かれるのが、小枝子さんは後日無事に離婚して、この「東京の従兄弟」と結婚したんだそうです。そしてそれなりに平和に老いてなくなったよう。そしてつまり・・・

「これ、初めからずーっと、牧水と従兄弟と、二股だったのでは?子供って・・・どっちの子供だったんだ???」

牧水さんはその後、持ち直して?結婚して歌人文学者として活躍して若死にされるんですが、自殺的な深酒は終生治らず、それが引き金で亡くなっています。


▼…というようなもろもろを、牧水の弟子だった男性が、牧水の死後の昭和時代に、コツコツと探偵のごとく、調査したんです。初老の小枝子さんとも、なんと面会して話を聞いています。これがすごい。そして関係者(牧水さんの妻とか)が亡くなったのちに、文学誌か何かに発表しているんだそうで。(発表時期をちゃんと遅らせたことは、人として偉いなあと思います)

▼つまりこの本は、ネタとしては新しいものでは無くて、全てこの「弟子さんがけっこう昔に発表した内容」でしかない。それは解説でも明言されています。ただ、俵万智さんが歌詠みのメンタルを推察しながら、その折々の牧水の短歌を深読みしながら解説物語っていく。これは、正直に言って大変に面白かった。結局はその時々の「真相」とか「心理」は、当然分からない訳ですが、それらが「弟子の発表したルポ」「そのときどきの手紙たち」そして何より「牧水の短歌」から紐解かれていく趣向です。実にミットモナイ、完璧にミットモナイ、だからこそ愛おしい若き日のプライスレスな七転八倒。暴露週刊誌を読むような下世話な興味が、ピュアな”みそひともじ”とないまぜで語られる。素敵な読書でした。

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2024年06月01日

Posted by ブクログ

旅と酒の人、若山牧水
好きな歌人です。
白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ
幾山河越えさりゆかば寂しさのはてなむ国ぞけふも旅ゆく
漂泊の詩人、旅と酒を愛する、飄々とした、朴訥な、達観したようなイメージを、牧水に持っていました。
しかし、これらの名歌が生まれた背景には、小枝子という女性との、報われない恋がありました。
絶頂から疑惑、別れ、そして歌へと、俵万智が徹底した調査と鋭い読みで、二人の恋を語ります。
実に丹念に、そして創造力に満ちた、素晴らしい評伝です。

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2024年05月12日

Posted by ブクログ

私ずっと俵万智さんのこと誤解していたかもしれない。恋の歌専門の感情120%、現代の与謝野晶子だと思っていたけれど、とんでもない。やはりプロですね。知識量が途方もない。

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2024年02月18日

Posted by ブクログ

若山牧水という人物がどのような歌人だったのか、俵万智が細かく解説しています。男性が和歌に思いを連ねて吐き出しているので、少々女々しく感じてしまい、初見だと、驚きました。
当時の想いの長けをいろんな友人に吐露していたり、既婚者であることを知らずにお付き合いをしていた牧水の状況、心情を考えると牧水の純真さに惹かれるものがあります。一生をかけて愛したはずであったのに砕けてしまった後、和歌で想いを表現することで作品化し、閉じ込めておきたかったのかな、とも思います。

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2022年01月13日

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