あらすじ
イスラーム教徒とキリスト教徒が抗争する十二世紀の地中海。勢力を広げるムワッヒド朝が突きつけた「改宗か死か」。神を求める人間の葛藤、迷い、失望と愛憎。マイモニデスはスペインからエジプトへと異郷を放浪しながら、言葉の力で迫害に抵抗し、人々に生きる勇気を与える。史実に基づき、中世最大のユダヤ思想家の波乱の生涯を描く歴史物語。
序 章
第一章 背教者
第二章 書状の決闘
第三章 ミルトスの庭
第四章 フスタート炎上
第五章 死者の町
第六章 王者と賢者
終 章
あとがき/表記上の注記/引用出典/参考文献
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Posted by ブクログ
中世地中海世界を生きた流浪のユダヤ教神学者マイモニデスの冒険譚。日本人の大多数にとって全く馴染みのないテーマだと思いますが、ペンと信仰の力で権力に立ち向かいながら、宗教的寛容性を体現したマイモニデスその人の生き様に胸を熱くしながら一気読みしてしまいました。単純な冒険小説として読んでもとても面白いです。中世地中海のイスラム社会についてもっと知りたい、そう思わせてくれる一冊です。
Posted by ブクログ
中世のユダヤ人哲学者であるマイモニデスの生涯を追った本。
私は大学の専門が中世ヨーロッパで、マイモニデスも名前は知っていたが、詳しくは知らなかった。せいぜいが、アリストテレス哲学をユダヤ教に取り入れた程度の認識だった。
この本ではマイモニデスの生誕からユダヤ人社会の首長になるまでの歩みを描いており、その哲学が生まれた基底を教えてくれるようだった。
この本の感想をSNSで漁ってみると、一気に読んでしまったという人が多かった。
私もそうで、500ページをさっと読めてしまったのは、物語に爽快感や疾走感があるからだろう。
哲学や宗教にうとい人にもおすすめで、十分楽しめるはずである。
Posted by ブクログ
マイモニデスという人を私は全く知らなかった。中世、ユダヤ教のラビの家系に生まれ、イスラム教の広がる世界で、宗教や哲学を研究し、行動した人。彼を簡単に紹介するならこういうことになるだろうか。「行動した」というのは、彼が単に机上の学問をした人ではなかったからだ。この本は物語だが、マイモニデスは実在の人で、大まかな流れは史実に基づいているようだ。
とにかくマイモニデスという人が魅力的だ。彼がまだ少年の頃、ラビである父に対して言った「トーラーやタルムードをすべて理解しなければ、真実の信仰に達することができないなんて、普通の人には無理ではありませんか」という言葉に、そうだよな、と思う。イスラム教への改宗を迫られ、偽りの信仰告白をしたユダヤ教徒を迫害する同胞を見て彼が取った行動にも共感。中世のエルサレムやカイロなどの様子が生き生きと描かれ、物語に引き込まれていく。
「我々は地上に王国を持たず、我々自身の心の内に神の王国を持とうとした。地上の王国はいずれ必ず滅びるが、天の王国は永遠に滅びるがことはない」(p.435)ーマイモニデスが生きていたら、現在のイスラエルを見て何と言うだろうか。