【感想・ネタバレ】「非モテ」からはじめる男性学のレビュー

あらすじ

ぼくらは本当にモテないから苦しいのか? 「〈キモい〉〈弱い〉〈ダサい〉 暴力的に片づけられがちな問題を豊かな言葉で掘り返す男性研究の書」――桃山商事・清田隆之氏、推薦! 恋人がいない、女性から好意を向けられない等の苦悩は、「非モテ」という言葉によって90年代後半からネットを賑わせてきた。現在も「非モテ」問題は多くの男性の心を捉えて離さない。しかし、本当に「非モテ」男性はモテないから苦しいのだろうか? 男性性が内包する問題について研究し、当事者の語り合いグループを立ち上げた著者が、男性が「非モテ」という苦悩を抱くまでの過程や内実を掘り下げ、問題の背景や構造を解き明かす。そして「非モテ」の苦悩から抜け出すための実践まで男性学の視点から提示していく。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

秋葉原の殺人事件のように、自身に向けたルッキズムや非モテ意識をこじらせた男は怖いと漠然と思っていたけど、それは「ヤバい個人」なのではなくて、社会的背景が根深くあって、それを分析して言語化し認識していくことは、加害の弁護ではなく加害の予防のために大事だなと思った。
本当ははっきりとした実体のない「あるべき男性像」に対して、からかいや緩い排除でもって男性社会の中で周縁化された男性たちは、その社会から完全に締め出されないためにいじられ役を引き受けたり、受け流したりしながら微細な傷を蓄積させていく。そんな中で自分を受け入れてくれそうな女性を女神化し、妄想して驀進して受け入れられずに被害者意識を持ったり、擦り込まれている強引な男性性の理想に則って加害に及んだりして、さらに孤立を深めていく。そうした自分のダークサイドやこじらせた自意識を否定せずに聞いてくれ、相対化してくれる「非モテ研」のあり方はとても文化的というか、ロゴスだなと思う。何にせよ、言葉にすることは客観化して認識する第一歩で、暴力の対極に言葉がある。
妄想して相手を神格化してしまうとか、勝手に先回り奉仕してしまうとか、わかりみ深い…と思いつつ、勝手に女神化された女性たちの災難を思うとイラッともする。ケアの役回りを当然のごとく押し付けられてきた近代の女性観がこんなところにも。災難でしかない。

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2024年12月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

終章での筆者の誠実性に惹かれた。
研究者であり当事者である自身の権力性に関する自覚とそれを乗り越えるための当事者達との話し合い。
分析するという行為自体が持っている権力性の問題について、特にこの男性学というテーマでは、どういう立場で語っているのかという問題が一層際立つ。

「非モテ」という言葉(スーツケースワードと本書で書かれる)を特に定義せずに使う事で当事者の語りや話の広がりを生み出しているため、呼び水のようなものであり、テーマとは少し違うかもしれない。

人間の関係性から成り立つ社会を研究するという事は研究者自身も含まれる社会の中で、本人の状況を棚上げにして問題点を指摘するという構図が生まれうる。

それでもその分析や問題意識自体の価値が無くなるとは思わないが、その分析が意図しない様々な使われ方を呼び込む時に、その権力性に対する慎重さが重要なのだと思わされた。

思わず、終章について感想を書いてしまったが、全体を通して切実な当事者の言葉と大したことのない問題として片付けられるかたちで表面上浮かび上がる「非モテ」という悩み、その内と外のコントラストが浮かび上がってくる。

悩みというのは人に認められる重さを持たなければ、それは悩みとして存在すら許されないのではないかと、周りの評価を先回りして、それをなかった事にしてしまう感覚。

そういう感覚を持ちがちな自分にとって、この非モテにまつわる構造とそこから派生する当事者の語りはとても身近なものに感じた。

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2021年09月08日

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