【感想・ネタバレ】ヨーロッパ中世の社会史のレビュー

あらすじ

ヨーロッパはなぜ世界の覇権をとったのか? その基層をなす社会構造の特殊性は中世に準備されていた。中国やローマ帝国が目指した世界帝国を否定し、国民というまとまりの上に立つ国家という独自の道を、中世一千年をかけて形成したのである。そのとき、神・自然・同胞、三つに対する考え方の変化が起こった。政治史・経済史・法制史などに分化した理論をぶちこわし、人間の移動や、文字に残っていない民衆の「話し言葉の世界」をひっくるめて、現在に続く世界史の転換と相関を、語りかけるように読み解く。わたしたちは歴史から何を学べるか?

【原本】
『ヨーロッパ中世の社会史』(岩波書店、1985年)


【目次】
第一講 中世社会史への誘い
第二講 民族大移動期の世界史的意義(4~8世紀)
第三講 西ヨーロッパ的生産様式の形成と普及(8~11世紀)
第四講 西ヨーロッパ中世都市の特色(11~13世紀)
第五講 中世西ヨーロッパ社会に共通した特質(13~16世紀)
第六講 国家権力の質的変化について

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Posted by ブクログ

ネタバレ

都市同士の有機的な繋がりおよび発展と、各市民の意識の形成がうまく繋がっていくのがとても面白かった。
村落から都市への発展は生き生きと読めたのだが、都市から国家への発展がまだ掴みきれていない気がするので勉強していきたい。

以下僕の理解↓
ローマを継いだ東欧は帝国を志し、ゲルマンと共存した西欧は世界帝国を否定し国民国家の基盤を形成していった。
西欧の村落は原始村落から集村あるいは散村に発展し、それぞれ穀物生産を三圃式で増強あるいは特産品を産出した。集村と散村の接触地帯には市場が展開された。外敵の侵入が落ち着いたことや人口増加、市場の展開などを背景に12,13世紀ごろには商業が発達、商人の力が増し領主に肩を並べる。領主と商人の敵対を皇帝が取り持つ形となり、やがて都市、自治体制や市民意識が育まれていく。あるいは封建領主の経済政策として自治権を付与され新都市が建設されるパターンも多かった。
商業の形態の違いにより各都市の個性が出てくる。例えばドイツなど北方の商人はハンザ同盟を結び各都市が協同的、合理的な市民的連帯を行ったのに対し、イタリアなど南方の商人は東方との交易で各仲介商人が自由市場的に競い合い、やがて豪族の力が増した。
フランスやイギリスでは皇帝と都市の経済が密接に結びつくことにより集権的国家の性格を帯びる。経済の規模が増大するに従い大規模な連帯が必要になったことで都市単位ではなく国家単位での競争が優位となり、市民から国民へと意識がシフトしていき、現在の西ヨーロッパ国家群が確立するに至る。

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2025年04月01日

Posted by ブクログ

ヨーロッパ社会史 増田四郎

一橋大学の歴史学4傑と呼ばれる増田四郎氏の市民講座を本にしたもの。最近、広井氏の『コミュニティを問い直す』や木下武男氏の『労働組合とは何か』を読んでいた際に、中世都市の記述で増田氏が頻繁に引用されているのを発見し、改めて増田氏の本を読みたくなった。増田四郎氏は、祖父のゼミの先生であり、私のゼミ教官が増田四郎氏が指導した阿部謹也先生の愛弟子であるため、私とは深い縁がある。大学入学時に耽読した『ヨーロッパとは何か』『大学でいかに学ぶか』の2冊には大いに興奮した。特に、『ヨーロッパとは何か』で取り上げられる辺境史観という発想は、その後、言語学や人類学などを学ぶにつれて、非常に役に立った。
そんな増田四郎氏がヨーロッパについて『ヨーロッパとは何か』より平易に書いた本が本書である。歴史学においては、アナール学派などによる市民の生活を仔細に把握する社会史という分野が当時開かれていたが、本書における社会史とは、ヨーロッパ史というものを広く、トータルにとらえ、近代という時代を生み出した前史を辿るというものである。本書の序盤では、これまた一橋歴史学4傑の一人である三浦新七先生が引かれ、ヨーロッパの起源をギリシアの哲学、ユダヤの宗教、ローマの法学の結節点とみなし、その3つの潮流の融合体としてのキリスト教的統一世界という見方を紹介する。そして、そのキリスト教的統一世界の中で、中世史は形成され、黒死病の蔓延や社会の流動化を端緒とし、イギリス、フランス、ドイツなどの現在の国家の形に分かれていく姿を描いている。特に、前段で紹介したコミュニティ論やユニオニズムは、近代への反省を主題としている。そんな中で、近代の萌芽まで遡り、我々が所与のものとして認識している近代の前史を辿ることは、近代の超克および、日本において近代的な制度を運用するにあたり、非常に有用であると感じた。
また、本書を通じて、増田氏の平和への願いを感じた。中世都市のお互いが顔が見える範囲での緩いつながりを紹介する段では、近代国家同士の戦争を未然に防ぐ方法として、このような都市間の平和協定を網の目の如く張り巡らせることができないかと模索している点や、都市内部や都市間での紛争の際に、宗教的な権威が仲裁し、一定期間流血を許さない「神の平和」が実施されることを引き、近代国家間の戦争時にも宗教的な権威による停戦協定を如何にして実現するかという部分にも想いをはせていることには、歴史学や中世史をアクチュアルにとらえているとともに、戦争を経験した世代としての矜持を見て取ることができる。一方、宗教による戦争の仲裁を学ぶと同時に、宗教による戦争についても興味が深くなり、本書を読み終えるころには、山内進元学長の『十字軍の思想』を次回の読書リストに追加した。

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2021年09月23日

Posted by ブクログ

 本書の元となったのは、1983年に6回に亘って行われた岩波市民セミナーの講述録である。
 概説ではなく、著者の明確な問題意識によってテーマが取り上げられており、それらについてはかなり詳しく説明がなされている。また講義形式で基本的事項から順々に解き起こしてくれているので、今まで今一つ腑に落ちなかった事項についても、だいぶ理解を進めることができた。

 かつて世界の覇権を握ったヨーロッパが大戦により深刻な反省を迫られ、歴史学においても単純な発展史観ではなく、歴史の実相を再確認することが求められたが、その代表的な現れが、基層社会の構造的特色を追っていこうとする動きである。
 著者自身は、日本の近代化を考えるためには、ヨーロッパの歴史を知る必要があり、そのためにヨーロッパ、特に西ヨーロッパの歴史を、中でも現在に繋がる社会構造の形成に至る中世社会を研究してきたということである。

 著者のヨーロッパの捉え方は、ローマ帝国の後を継いだ東西ヨーロッパは異なる道を歩み、西ヨーロッパでは、「世界帝国」の否定という新たな道を切り拓いたということである。
 第二講では、民族移動の主役であるゲルマン民族の共同体の特徴、東ゲルマン族と西ゲルマン族のローマ帝国進出の仕方の違いなどが説明される。
 第三講では、集落形態の具体相や三圃農法。第四講は都市の説明。この辺りは概説書の記述では今一つイメージが湧かない箇所だったので、大変参考になった。
 第五講は、ピレンヌの“商業の復活"の舞台となった西ヨーロッパ各地域の地理的特徴と、社会経済発展の重心の移動について。やはり歴史の勉強に地理的教養は不可欠なことを実感。

 最終講は全体のまとめとして、国家について。

 本書を通して、中世西ヨーロッパの実相の一端に触れたし、歴史を学ぶダイナミクスを味わうことができた。良書だと思う。
 
 

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2021年07月18日

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