あらすじ
「トラウマ」のせい? 単なる「嘘つき」?
鶴屋南北戯曲賞、最年少受賞! 放課後の職員室。乗り込んできたのは自殺未遂の生徒の母親。「諸悪の根源」は誰なのか? 本谷有希子の話題の戯曲を完全収録。
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「…なんと、トラウマ、でした。」
「何が。何がなんとですか! あなたね、そんな単純なもので人のこと見殺しにしていいと思ってるんですか?」
「だって…しょうがないじゃないですか、トラウマなんだから!」
「知らないの? あの、七階建てのビルの二階にある中華よ? ガラス張りで雰囲気いいらしいから夜景でも見えれば最高なんだけど…(とタウン情報誌をめくって指差して)バー…ミヤン?」
「…じゃあもう、これで、いいですか。」
「え?」
「土下座して謝ったし、もうこれで…いいですか。」
「あんた…! なんなの、その態度。」
「里見先生、あなたね、そんな言い方して、本当に悪いと思ってるんですか。」
「本当に悪いと思ってるかどうかなんてどうやって分からせるんです? 不破先生は私がここで泣いて謝ったら、本当に悪いと思ってることにしてくれるんですか。」
「落ちたら痛いでしょうね。でも痛いのは私だけですから。人の痛みで病院に運ばれる人なんていないから、みなさんは安心して下さい。」
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2006年に第10回鶴屋南北戯曲賞を受賞したこの作品が、今年10月、東京を皮切りに再演されるというので、再読。
やっぱり凄い脚本。この劇は、是非とも舞台で見たいと思っていたので、ますます楽しみになる。
「ウンコしなさいよ、そこで」という台詞から始まる。学校の職員室を舞台に、「いじめ」や「モンスター・ペアレント」を扱い、教師や保護者をグロテスクにデフォルメしている。ブラック・コメディーかと思いきや、それぞれの問題の本質に鋭く切り込んでいて、これはシリアス・コメディーだと修正。
ところがさらに、主人公の女教師は、トラウマが解消されてハッピーエンドかと思いきや、「お願いだから、私から原因取らないで・・・」と懇願しながら、一人取り残され「遭難」するという劇的な結末。
あとがきで、作者は、「性格の悪い女を書きたいという思いから出来上がった作品」と明かしている。意図した性悪女が見事に舞台に立っていることが目に浮かぶほどで、しかも魅力的だ。自分を好きになれ、自己を愛せよといった軽々しい物言いが巷に溢れているが、自己愛を突き詰めると実はこういう性悪女(男)になるという恐るべき逆説が見えてくる。マスコミの垂れ流すオリンピックにまつわる美談に食傷気味だったせいか、久しぶりに「悪意の文学」に触れて、すっきりした気分がする。社会という場面で人間が見せるのは、偽善の仮面ばかりで、その裏にはいつ増殖を始めるかもしれない悪意の芽が隠れていることに気付かされる。私も、あなたも、だからみんなが持っている悪意。
「悪意」を描いた文学作品で思い出すのは、高橋たか子の『空の果てまで』という小説だ。(高橋たか子は、人間の深淵を覗き込み過ぎたのだろうか、その後、カトリックへの信仰を深めて、「悪意」を描くことはなくなって、こちらの世界からは遠ざかってしまったが・・・)
では、これから、本谷有希子の小説『ぬるい毒』を読み始めることにしよう。
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第十回鶴屋南北戯曲賞受賞作品。
生徒の自殺未遂を機に、旧校舎に用意された臨時の職員室に追いやられた4人の教師、里見、石原、江國、不破。
そこに自殺未遂した生徒の母親・仁科が加わり、放課後の職員室は修羅場と化す。
いじめのせい?教師のせい?
責任転嫁と疑心暗鬼のスパイラルを辿ると、そこには、世にも性悪な女がいた―――。
江國先生の自己犠牲。
不破先生の事なかれ主義。
仁科さんの自分勝手さ。
巻き込まれる石原先生。
そして里見先生の最低すぎる性悪さ。
「じぶんだいすき」のど真ん中をえぐった戯曲。
たまらないくらいよかった!
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自分のことが好きで好きでたまらない女教師の転落と解放の物語。
本谷有希子の描く人物は確かに過剰だが、人間社会のどこにでもいるようなありふれた存在であり、また、誰しもがなりえてしまうものである。最後の演出には鳥肌がたった。
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やられた!という感じ。
学校でのいじめによる自殺未遂という設定で子どもの親が乗り込んでくる。4人の教員との絡み。ぎりぎりのところで出てくるそれぞれの本性。
この芝居なら東京まででも観に行きたいと思えた。
作成日時 2007年06月30日 06:38
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公演を観なかったのが残念に思うほど、自分を愛することしかできない里見という女教師とそれを取り巻く人間の日和見さ、教育現場の暗部をあっけらかんと描いているのが好感。
里見を演じたのが松永玲子だということで、松永なら、さぞかし、はまり役だったろうなあ、とニンマリした。
本谷の描く作品には、(見てくれはよさそうなのだけど)性格が悪い女が出てくることが多いようです。
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今度遭難、の舞台を観に行くから予習として。すごく引き込まれて一気に読んでしまった!
登場人物は最悪な性格で、読んでいていい気持ちはしないのだけど、自己保身に走るところなんかは自分にもちょっと身に覚えがあるからフクザツ。
きっと人間だれしも自分がかわいいっていう感覚があるけど、それを言ったら嫌われるから表には出さないようにしている。なのに、主人公はそういう汚いところを全面に出しちゃっているから「それ隠してたのに言っちゃう?」っていうそわそわ感と「よくぞ言ってくれました!」ってすっきり感とが入り混じった気持ちになる。汚いなあ、と思う反面なんだか憎めないのです。
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戯曲の本。舞台っていうこともあって展開が早くあっという間に読めました!
舞台は中学校。自殺未遂を起こした生徒と、教師、親の話。
トラウマをよりどころにして生きてる女が、逆にトラウマを解消されちゃって遭難する話。(作者あとがきより)
本谷さんの本に出てくる人物って普通っぽくても普通じゃないのがすごい。人ってそういうもんかしら。
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あいもかわらず、性格の悪い女の話。あとがきより、着想源が性格の悪い女の話が書きたいなー、ってシンプルなとこから始まったことを知って何か安心する。気が狂って書いてる訳じゃないんだなー、って。(書けなさ過ぎて狂いそうだった感はあるけど)榎本俊二の稽古場マンガが今回はなかったけど、この頃はまだ出会ってないのか。本の表紙・背表紙に描いてある作者の言葉っぽいのはどこから引用したのやー
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「生きてるだけで、愛。」で大好きになった本谷さん。
今回は、戯曲出版という形のようで
登場人物の名前とセリフ、
展開した場面や情景の簡単な様子しか描かれていません。
そして、ところどころに実際の舞台のお写真が。
舞台は学校。
一人の生徒の自殺未遂をきっかけに、
だれが引き金となったのか、
自殺という行動を起こさせた原因は誰に何にあるのか、
とにかく責任のなすりつけ合いです。
ひび割れた教室で
狂ったおとなたちが暴れまわります。
そりゃあ、恐ろしい。
本谷さんは性格の悪い女を描きたいとおっしゃってましたが、
いっぽ間違えば、
ほんと犯罪になるんぢゃ、って方が。
やー怖い。
そしてからっぽ。
でも石原先生がブレなくてよかったよ、ほんとに。
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本谷有希子の戯曲。鶴屋南北戯曲賞受賞。
面白かった!!
ここまで徹底的にドス黒いと、潔くって好感がもてる。
そうだよ、人間黒いんだよ、黒いのだしちゃってもいいやん。自分大好き、で最悪な人間でもいいやん。
そもそもなんで他人のために自分を偽らなあかんのー、めんどくさ!って素直に言いたくなりました。
舞台は中学校の職員室。
本谷有希子いわく、「トラウマをよりどころに生きている女が、逆にトラウマを解消されちゃって遭難する話」だそうで。
人がよりどころにしてるものは人それぞれで、理解できないものもあるだろうけど、どんなに理解しがたいよりどころでもそれがなくなちゃったら「遭難」するしかないのかなぁ。
まだしがみついてられるうちは幸せってことだね。
近いうちに「劇団 本谷有希子」を観にいきたい〜
Posted by ブクログ
(ネタバレ)
『高校卒業後に上京して劇団を旗揚げ』という行動力のかたまりのようなプロフィールに惹かれて読んだ。06年に上演された芝居の戯曲。自分が一番可愛く、自分のためなら他人を傷つけることも厭わない女教師が主人公。嘘と言い訳と陰謀を塗り重ねて、しゃべりまくるのが迫力。トラウマという原因を奪われ、よりどころが無くなったように放心するラストも良いです。ナマで見たかった。
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戯曲もの初めてぜんぶ読めた。ところどころコメディなのが個人的には苦手だけどモノローグがなくテンポいいからよかった。内容知らず舞台で観たら引きこまれそう。好きな俳優さんが演じてたらますます面白いだろうなぁ。生の舞台観に行ってみたいと思った。
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もっちんの「じぶんだいすき」自己愛文芸(裏返せば自分に対する自分の好意が痛い!)が、ブラックコメディを経て通り過ぎてシリアスに行き着けば、こうなる。
もちろん、この舞台を操る、生徒(息子)の自殺未遂から半身不随、という裏面の題材がシリアスさを導いている面もあるのだろうけれども。
ひどいことしたけどトラウマがあるからしょうがないでしょ、許してよ!
さてそのトラウマの原因を除去されたら?
原因を取らないでよ、お願い、このままじゃ遭難するしかない……。
「私以外に対する悪意」が、責任のなすりつけ合いという行動で描かれる。
ひとつひとつの行為が積み重ねられた挙げ句、滑稽なシチュエーションに行き着くのは、もっちんの作風。
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学生の頃に読んだ本。
そうそう、トラウマにすがって(言い訳にして)生きるのって楽なんだよね~
と当時は妙に納得した。本谷の書くこのぶっ飛んでるけど共感できちゃうきわどい線が好き。
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ある意味女性らしいホンだと思った。こういう言い方好きじゃないけど。芝居の形で見てみたい。戯曲の形で読んだのは初めてだけど、想像していたとおり。混線する人間模様と深みにはまっていく感じは凄かった。このドライな残酷さは、女性っぽいな。ほんと。
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自分の存在の拠り所を「トラウマによる屈折」に求める女性の物語。なんで「遭難」というタイトルなのかずっとわからなかったが、あとがきを読んで氷解した。そして舞台設定は今まさに世間で話題の「いじめ問題」。責任のなすりつけ合いや知らぬ存ぜぬの攻防が、あまりにリアルでタイムリーなめぐり合わせだったので、ぞっとした。
人の倫理観やアイディンティーの脆弱さを浮き彫りにした秀作である。
人は、反省はできても、自己否定はできない。また、してはいけない。
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台本形式で話が進む。里見という女性の、隠されていた崩壊部分が徐々に明らかになっていく。虚勢の裏に潜むSOSを、誰にも理解してもらえなかったという悲劇。著書は極端な話だが、里見に似た気持ちになったことがある人は少なからずいると思う。
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だって……私だって原因があると思いたいじゃない! 生まれつきだったらもう私、誰の気持ちも……分からないのよ、本当に! お願いします! お願いだから私から原因取らないで……! 私から原因取らないで……!
(P.148)
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おもしろいなぁ。本谷有希子。
たぶん野田秀樹に一幕もの(密室もの)として嫌われてるんだろうなぁ~
。
だから野田いなけりゃ、つかこうへいが審査員降りてすぐ鴻上尚史と平田オリザダブル受賞みたいになるじゃないかなあ~
とつい妄想してしまいますが
そんな妄想の話。
この話は里見のトラウマが序盤にとっと解決して妄想していくところに面白さがあると思うんだけど、妄想せずには生きていけない。
家族という妄想。恋愛という妄想。いろいろ形はあると思いますが、
今コンテンツが多様化していく中で、共通の認識というものが極端に減少している気がする。
その中で人を思いやる心とか言うと道徳的になるけど、単純な嘘が見抜けない。標準化されていないと怖いというのがあり。
共通認識なさゆえについ、人と同じになりたいという気持ちが逆に単純な嘘を許容しいる。
みんな笑っているのではなく。みんな笑わされているのだ。
あるルールに従って。
だから感性の柔軟な若い人や良くテレビを見ている人は笑えるけど、あんまりテレビを見ないひとやテレビ見てるけどその辺のルールに疎い人は笑えない。
ではなく
Posted by ブクログ
表紙の絵は何だろう,人目を惹くため?〜自殺未遂をした中学生の学年職員だけが旧校舎に移され,母親が理不尽な要求をしてくる。やがて人格者として知られる国語教師が生徒から相談を受けていたにも拘わらず無視したことが判明。その里見という女教師は自分も信頼していた教師から裏切られ,自殺未遂をしたことがトラウマになっていると訴えるが,その身勝手な理屈に周囲が振り回される〜戯曲,第10回鶴屋南北戯曲賞を受けた作品で作者は未だ20台で,高校卒業して,役者のいないプロデュース劇団を立ち上げたそうだ。成功者かな? まぁ,こんな学校ないだろうけど
Posted by ブクログ
初めて戯曲を読んだ。これが、意外に面白い。気になっていた作家だというのも+要素であるかも知れないが、これは面白いぞ。「笑える」面白さだけでは無い。 基本的に(戯曲だから当たり前か)セリフで物語が進むが、きちんと情景が目に浮かぶ。(戯曲だから当たり前か)臨場感もある。 ≪戯曲…いいなぁ≫と思わされた。あとがきも分かりやすくてよかった。ハマるかも知れない。
Posted by ブクログ
鶴屋南北戯曲賞受賞の戯曲を出版したもの。意図せず、実に社会的にタイムリーな題材になってしまったようだけど、ひたすら「自分が可愛くて可愛くて可愛くてしょうがないのー♪自分大好きー♪」な女がなんというかとても強烈。開き直りの末の責任のなすり合いなんて、醜くて目を背けたくなるけど、なーんかそのヘンに真理が潜んでいそうな気がする。 ちなみにタイトルの意味は、最後まで読むと非常によく判ります。 できることなら「お湯入れてないカップメン」状態じゃないお芝居で、この作品を味わってみたかったなー。このままでも十分美味しくいただいちゃいましたけど。