【感想・ネタバレ】海馬を求めて潜水を――作家と神経心理学者姉妹の記憶をめぐる冒険のレビュー

あらすじ

探究心旺盛なノルウェー人姉妹がコンビを組んで、記憶の不思議をめぐる旅へ。海馬はいつ見つかった? 記憶と思い出す場所の関係は? 記憶力をよくする方法とは? なぜ人は忘れるの? 未来を想像するのにも記憶力は必要?――ときに記憶研究の歴史を紐解き、ときに記憶に問題を抱える人たち(テロの生存者、海馬を損傷した人など)を訪ね、ときに記憶のスペシャリストたち(研究者、タクシー運転手、チェスのグランドマスター、舞台女優、オペラ歌手、記憶力チャンピオン、未来予測家など)の門を叩く。生きることと記憶のよき関係を探る、人生の処方箋になること請け合いの一冊。ヒルデ:私はもっと忘れたいわ。つまり、人生における否定的な経験を。そんなの永遠に消えてくれたらいいのに。忘却は過少評価されている。イルヴァ:悲しい思い出だって真珠のネックレスの一粒なのだから、忘れることが必ずしもよいことだとは言えないわ。それでも私は、日常生活の忘却については異議を唱えたかったの。いつでもどんなことでも記憶しておこうという試みはやめるべきよね。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

記憶と脳の働きについて書かれた本。神経心理学者と作家の姉妹の共著ということで、海馬をタツノオトシゴに、記憶を真珠に例えて、読みやすくうつくしく様々なエピソードを紹介している。今まで読んだ「情動はこうしてつくられる」「私はすでに死んでいる」などに比べると専門性はそんなに高くなくて、実験や研究の軽い紹介にとどまるものが多く、目新しい話はあまりなかったけど、わくわくする語り口と分かりやすさで読んでいて楽しい。
記憶は何度も何度も再構成して解釈され、全く同じ形を保つことはできない。忘却し、変容する。そうでなくては大事な記憶を守ることができないとは、何たる悲しい性。

一つ「どうもあれ以降めっきり記憶力と集中力が落ちた気がする」と思っていたことが、この本ではっきり解説されていたのですっきりした。やっぱりそうだったのか!一度そうなった場合、通常の人と同じように記憶するには繰り返して時間と手間をかける必要があるとあって、ちょっとがっかりするけれど、まあやる気を出して頑張っていくしかない。当然だけど気分と好奇心を盛り上げていかなくては記憶もやる気を出してくれないみたいだし…。
トラウマ体験の定着予防にテトリスが有効というのも納得感がある。昔本当にしんどかった頃に狂ったようにスパイダソリティアやってたのを思い出した、脳が無意識に求めていたのかもしれない。テトリスが脳の(言語ではなく)視覚的領域だけをトラウマと取り合うことで、強烈な記憶が意味を得ずに暴れまわるのを抑えることができるってすごいな。トラウマを肥大化させず理解という支配にどう取り込むのかということなんだろうか。感情も記憶も、本当に脳って解釈、解釈、解釈の繰り返しだ。

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2021年07月08日

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